美術界のスーパースターといえば誰だろうか? そんなことをふと考えてみた。まずは偉大なる巨匠であるからして、素直にピカソという名は思いつく。しかし、それだけじゃ芸がない。そこでダリ。ゴッホ 。まあ無難なところだ。現代美術となるとデュシャンか。そしてポップカルチャーと進めばウォーホル。まあ、そこにホックニーあたりを加えてもいいし、ベーコン、バスキアという声もあがるに違いない。それは彼らが残した作品につく値に、概ね合致する。最近じゃバンクシーと言う声もどこからともなく聞こえてくるが、日本だとそうだな、差し詰め岡本太郎や草間彌生、横尾忠則あたりだろうか。いわゆる美術史的な巨人はたくさんいるし、それをスパースターと呼ぼうが呼ぶまいが、アーティストの功績や作品の価値は不動だ。
だが、そんな所には我が関心はない。一枚の絵なり、彫刻、写真でもなんでも構わないが、アートと呼ばれるものに、巨匠も無名もへったくれもなく、その作品やアーティストの生き様が自分にとってどう響いてくるかだけである。ムンクの『叫び』に90億の値がつき、マレービッチの「Black Square」に至ってはそれさえも凌駕する価値があると言われている。ZOZO創業者の前澤氏がバスキアの絵画を123憶円で落札したと言うニュースも知っている。ホックニーやベーコンといった画家の絵に、今や法外な値がつくのは今や常識だ。もちろん、そうしたスーパースターたちの絵を素晴らしいと思うし、価値は無論認めるが、正直なところ、カネに換算されると、なんだかたちまち突き放されたような気分になるのがアートというものを取り巻く実態ではないだろうか。絵画を味わうといった思いなどそこには全くないからだ。
少なくとも、自分はアートそのものには値がつけられないと考えるタイプだし、そのことの良し悪しはさて置いておいても、その絵が好きか嫌いか、何かを訴えかけてくるか否かが問題であり、その作品の作り手がはたしてどういう人物で、どう言ったメッセージや思いが込められているのかが関心ごとの全てである。
さて、これは自分の作品に対しても同じように言えることだが、要するに、その絵が視覚的になんらかの魅力があることが前提で、そのことについて、あーだこーだと考えを巡らせるのが楽しいというだけで、正直なところ、一枚に絵や写真、一体のオブジェや彫刻そのものの価値を断定できるほど、物事に精通しているわけではない。そして、そのことは自分をひたすら無力にさせられるだけであって、そそれられはしない。
アートの値段についての考察は、それはそれで興味深い一面を持っている。要するに、それは人間というもの、資本主義経済というもののカラクリに触れられる体だが、そのことはまたいずれ何かの機会で考えてみたいが、今はそこまで考える余裕がない。
よって、ここで言及するのは、あくまで個人的な嗜好に基づいた偏愛的関心でしかない。それは心を豊かにし、ウキウキさせ、時に人生そのものに対する見識を深めることができるものばかりだ。何より、それが自分がアートというものに抱いている感情の源泉なのである。この初期衝動なるものの持続がなければ、自分にとってアートなど所詮ゴミ同然のものでしかない、そう思うのだ。
アートインデックス
- 被う心理境、世にも優雅なティーカップ・・・メレット・オッペンハイムをめぐって
- 土筆か焼き鳥か彫刻か、ジャコメッティーのブレイクタイム
- Are you ReadyMade?・・・マルセル・デュシャンという芸術家
- どんな変顔も太刀打ちできない知的で優雅なカオスモス・・・アンチンボルドを讃えて
- 塔がたっても薹はたたない、永遠のバベルについて喋ってみよう・・・ブリューゲル『バベルの塔』をめぐって
- 移ろいの秋に思う、神業バードマンの錬金術・・・アンディ・ゴールズワージーをめぐって
- 見者の俳優犬(もうひとりのマン・レイ)・・・ウイリアム・ウエグマンとその愛犬ワイマラナー犬をめぐって
- だれでも有名人になれると発信した偉大なるポップアートのナレーター
- 妄想転じて、禁断の趣味への序奏を奏でよう・・・森村泰昌『全女優』をめぐって
- 紫陽花とカタツムリと雨の官能を紡ぐ画家の話
- 野獣死すべし。紙とハサミでモダンを切り出そう・・・アンリ・マティスという画家
- 天外魔境の画狂人北斎はポップスターの先駆けであった・・・北斎に詣でて
- ニセ廃墟のご隠居はアンガス峡でお茶目な写真を撮っていた・・・アンガス・マックベインをめぐって
- 夢みる箱男・・・ジョゼフ・コーネルめぐって
- どっと押し寄せる水玉娘の感慨。ラブフォエバー・・・草間彌生をめぐって
- 覚めやらぬ背徳劇場の支配者に告ぐ・・・フランシス・ベーコンに佇んで
- 危険な伝統は消せ。猫少年バルタザールが行く・・・バルチュスに靡いて
- 母の呪縛はファムファタルを夢見続けたデルヴォー爺の甘く切ないロマンに沈む・・・ポール・デルヴォーという画家
- 絵とモード、人生の祝祭学に彩られた美のステキスタイル・・・ラウル・デュフィという画家
- アプレモディ。少し愛して、長〜く愛して・・・アメデオ・モディリアーニという画家
- まばゆいばかりのシミュラークルなプールサイドストーリー・・・デイヴィッド・ホックニーのこと
- エロスの伝道師満寿夫さんロスを偲んで・・・池田満寿夫という画家
- 覚めやらぬ背徳劇場の支配者につぐ・・・ベーコンに佇んで
- ダダより面白いものはない・・・ハンナ・ヘッヒをめぐって
- 魅力マックス、アート版モテ男はダダの人・・・マックス・エルンストという画家
- 永遠の駄々っ子は、無頓着、しかし無関心ではなく。・・・マン・レイという芸術家
- Who Is FOU FOU?・・・藤田嗣治を追って
- 色彩のイッテン主義、賢者の教義を聴講するべし・・・ヨハネス・イッテンという芸術家
- 傷だらけの乙女、愛と苦悩と闘争の、けして軽やかではない画業
- 社会に反る、仮面を纏った元祖パンク画家アンソールを讃えよう
- Yの非劇
- ラムで酔いしれる、我がキューバ狂時代の幕開け・・・ヴィフレド・ラムという画家
- クスリともしないスフィンクスの微笑は猫族ゆえの・・・レオノール・フィニをめぐって
- トマトと老アリスと黒いユーモアの話・・・レオノーラ・キャリントンをめぐって
- 光よりまぶしい女、美をなすミューズの扇情レポート・・・光よりまぶしい女、美をなすミューズの扇情レポート
- 天外魔境の画狂人はポップスターの先駆けであった・・・北斎に詣でて
- 母と娘、100年のロマンを紡ぐ鉄の蜘蛛をめぐるお話・・・ルイーズ・ブルジョワをめぐって
- 月時計の画家の心臓は、永遠の水に時を刻み続ける・・・平沢淑子をめぐって
- 美の女神は女に疲れた男よりも憑かれた画家を愛す
- 異端のボス、こんな画家がいたんです・・・ヒエロニムス・ボスに馳せて
- 下ネタならぬシモネッタ礼讚、名画の中のエロスと運動力学・・・ボッティチェッリに誘われて
- 汚れなき審美眼の発露に感ムリリョ・・・ムリーリョに焦がれて
- 妄想転じて、禁断の趣味への序奏を奏でよう
- 誰よりも現代をゆく廃材おじさん、この人を見よ・・・大竹伸朗という画家
- 変相を拒否する変奏の美学・・・モランディに魅せられて
- 美の女神は女に疲れた男よりも憑かれた画家を愛す・・・マックス・ワルター・スワーンベリという画家
- 未完成でありたい、その永遠の感性をくすぐる絵本・・・クヴィエタ・パツォウスカーのこと
- ミッフィーはママの味・・・デイック・ブルーナのこと
- 君が君であるところの色をめぐって・・・レオ・レオーニのこと
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