魂のソウルメイト、あるいは全てを培ってきた教官者たちに捧ぐ
アマビエが預言者であるなら、詩人もまた同じくして預言者であるはずだ。いや、預言などというよりは、たえず予知を司るといった按配だろうか。詩人は詩という言語を駆使すると同時に、真の詩人たちを理屈抜きで嗅ぎ分ける。全てを直感のもとに理解する。あたかも路上で出くわす犬たちのように、なにやら一瞬にして気配を感じるだけで興奮し、そして各々自分たちだけで成立するコトバでもって、雷鳴のごとく交感しようと試みる。何を? さあ、そんなことは一切わからない、いや、どうでもいいのだ、と私は答える。答えなどあってないようなものだから、知る必要すらないのかもしれない。畢竟するに、みればわかる。ただわかるだけである。何も得意がることでもない。ひとりごちるまでもない。難しいことじゃない。いや、なんとなくわかったような気になっているだけなのかもしれない。だが迷いはない。的確で聡明である。それは確実に山を動かすほどのものものすごいパワーさえ秘めているのだ。なぜなら、詩人には純粋直感という武器が備わっているからである。あたかも、ミツバチたちの八の字ダンスのように、あるいはオランウータンのロングコールのように、そう、昆虫たちが触覚と触覚で伝えあうようにして、誰も侵犯できないやり方で話すのだ。
さあ、直感を頼りに、嗅ぎ分けた真の詩人、アーティストたちに向けた言葉を贈ろうと思う。それにはルールや規則に縛られる必要などない。自分の言葉でそれを素直に、実直に投げればいいだけだ。それにはまずは、感じることから始めなくちゃいけない。そうすれば目の前のソウルメイトたちに、そしていろんなことを教えてくれた教官者たちに、自ずと自分の言葉をたむけたくなるに違いないのだから。とはいえ、そのひとの作品に対する評価を言葉で言い表わすことは容易ではない。評価という点なら、人が人を評価することは限りなく無茶で難しいことなのかもしれないからだ。そんなとき詩はここぞとばかりにことばを用意して待っていてくれるのだ。その恩恵に預かろう。ここに集めた詩編は、そうした日常の延長下において、出会ったアーティストたちに、こころから敬意を込め、無心でコトバを紡いだ。詩ではない場合もあるかもしれない。単なる言葉の羅列かもしれない。記号の蓄積かもしれない。そのアーティストの作品や思想にふれたとき、コトバになる前のちょっとした驚き、ざわめく興奮がある。それをかき集めながら唯一の動機と認識する。意味を深く追求するのはまた別の機会にまかせよう。その出会いに感謝をこめて。
岡本太郎に 95
おお、ゲイジュツか、それは
かのこのこ
もっと自由に、大胆になあれ
とどまることなく永遠なれ
たいようの子そびえるこの世では
論じるより行動あるのみ
有無をいわせず、うむうむと前進あるのみのきみ
勝新に
かつて、映画は活動写真と呼ばれていたっけ
その後の栄華を誇ったのは我らが勝新だった
大映のヒットメーカーは生粋のアイデアマン
同時に彼は数々の監督を泣かせヒトを泣かせた
が、そのオーラ、結果オーライ
オラもオラもとオファーにわいた
アクの強いキャラ
雪洲やオーソン・ウェルズのようにワクを越えたハラカラ
その名も座頭市といえば泣く子も黙る痛快アクションスター
今ではめくらというコトバは耳と口を閉ざしちまったが
全国の開かぬ目を次々に開けはなった
御題満足
目もくらむような居合の名手
市はナンバーワンの座を築く
その彼がとどろかせたのは「悪名」だけにあらず
やくざの座から時代劇の革新まで
貴様ら、物分かりの悪いやつらを斬りまくり果てちまった
痛快な真実はパンツのなか
おそらく中身はど根性と茶目っ気と
いかに勝新であるべきかに満ちていた
が、それだけで語るのは
盲蛇におじず
バルチュスも愛したヒーローは
映画の神様がこう命じたのだった
お前の業は深すぎるゆえ
それには死んでからもずっと払いつづけてもらうよ
野坂昭如頌
野坂節いまリターンズ
その名
事師事師と追い重ねれば立派なもの
いまや見聞仕事師となりひびくがごとし
まごうかたなき噺家のプロ
すぶやんはじめ、事師生み出したる世界にはまりて観念す
観念の色世界爛漫は独断場
かのシブサワ、ミシマもやられた口
ずぶのシロウトがクロウトを語るこの世にて
あのよぉ、あのおっさん誰やねん?なぞと耳にすれば
俺はNOSAKAだ、といわしめていましめて
江戸の粋を語り継ぐもの
エロ事は芸を磨くとはよくいったもの
もっともエロは仏語でヒーローのことたあ
ちょいと仏文かじればわかること
上越の血、米処のねばりかたわわに実る
いや、そこはかつて神戸の焼け野原
昭和ひとけたけたけたわらうんは
たくましきその商魂で、時代を築いたこの噺家の逆襲
そらら駿かてとびつくやろて
ペンを握るかマイク握るか
にぎにぎしきその生業
ソ、ソ、ソクラテスかプラトンか
朝までテレビでうだうだほざく
かつてのプアボオイ
揺るがぬ生きざまのぞくそのグラサンの奥
素性はシャイなモダンボオイ
老いてもただで老いんゴンタの性
負い目を追いてひと旗あげた時代の寵児ゆえの
弔辞にまつわる語りベは
禁じ手あれこれたくみつこうて花咲かす
人生はきだめの総指揮者はまさにこの方の天職
マリリン・モンローは帰らぬが
野坂節いまリターンズ
マルセル・デュシャンに
デュシャン五目
1
おお、からすよ
星雲かき分け銀河を渡る奇怪な行動
が、闇夜じゃ、マックロードも素人にゃわかりっこなし
でも、読心術で花嫁さんも丸裸
物臭花嫁、もぐさのお灸据えられ
あらまお尻が熱いのね!
2
日がな一日チェスボートに乗りっぱなし
彼は誰、彼は誰?
エシェックシューン、エシェックシューン
誰かがくしゃみをしているような、噂をしているような
そうさ、仕事嫌いなルーズなローズのことさ
「それが人生ってものさ」
趣味はくしゃみをすることだったのかい?
3
折れた腕の前の終始無言のシャベルガアル
ギブス代わりに超ブスナースのナイチンゲール
ボインだったらあたしにおまかせ
君はおいらの………なんなのさ?
4
誇りを育もう
そうだ埃の純粋培養
ウム、勘違い?
誇りなんてありやなしや
産まれたのは感知外の出来事さ
いや早、ユーモヤに取り巻かれたお遊びさ
5
あら、泉で用を足してるリチャードさん、
なんてはしたない!
もっともまともなマットさん曰く
こなれた手の便利な便器の試運転だとさ
まあ閑人、君ったらフランス窓から覗き見なんて
私宅ではしないことよ、と
なりたての未亡人
マックス・エルンストに 98
こわくの惑星エルンスト
怖くはないさ
蠱惑の手招きにちょっとばかりダダをこねる
迫害者があれば筆でもって掃くがいいさ
画家を利用するファタガガの友だちは
キャンバス横断中
そこはどこ?
底なしの深遠の森のリモートコントロール
ひっかいて、まあ、クスッ
こすって、あらまっクスッ
はりつけて、あらららクスッ
たたきつけておやまあクスッ
いつのまに、デカルコマニ-?
笑う絵画の殺人者のクスクス笑いだよ
Mr.X、あなたはだあれ?
タブローをたぶらかす知恵と叡智を盗む人
ただダダ自在に遊ぶロプロプ
無限の宇宙に舞うバードマンは
ありとあらゆる魔法の最大の番人(ガードマン)
紋章マックスは
ダダの最大値をただで発券する
おお、ここに極意を発見したのは!
ヴィンセント・ギャロに
汝、何時も難事を愛せよ
天才は孤高
ニブツ与えられたら与えられたでぶつぶつ
不平は絶えず
が、糊口をしのぐにもひくてあまたのその才に
自虐的に積み重ねる業の深さは不偏なり
参ったなあ、茶ウサギは最高だったぜ
それはいかほどにマイル離れた星条旗の国のホンモノのあかし
ちょいとナルでファナティックな男の魔法
ファッショぶるなよそこのお兄さん
バッキャローと叫ぶまでもなくひざ叩く
千手観音のごとく
多才な手に
ガニ股足で世界を跨ぐ
まあ、カテゴリーくくりてこりごりするな
そこのえせバッキャローたち
だがそのひとつひとつ
どれをとってもケチのつけようなき
チケ取りに奔走の徒続出
が、そこは問題児
火種は絶えないようで
狂人本家ヴィンセントも今の時代じゃ寵児になれるよ
耳を削ぐよりそばだてろ
表現は時「When」を選ぶ
まこと過酷なその世界は、ノスタルジックでロマンティック
そのギャロップは荒れ馬のようで
じつに繊細なアルチザンぶり
それじゃあ本職はみなおまんまの食い上げだぜ
ナルようになる
汝、何時も難事を愛せよ
ここに先人がいよるやないか
ジャン=ピエール・レオー頌
レオーフォーエヴァー
大人になったところでわかってくれへんやろ
海辺に佇んだ14歳のドワネルくんの眼差しなぞ
なぞのようなひょうひょうぶり
同じ匂いがぐもの以外には
世の不器用ちゃんには冷たいもんさ
みるからにその生き方は筋金入りで
そないこないで遁走また遁走の日々
スクリーンじゃところ狭いとばかりに
われらがレオー,ドワネルのドタバタが焼き付いて
ヌーヴェル・ヴァーグといやあ
レオー、レオーといやヌーヴェル・ヴァーグ
獅子奮迅のMR.ヌーヴェル・ヴァーグ
フランソワにさそわれて、
ジャン=リュックに背負われて
ユスターシュににっこり握手か
映画史とともに生きるスライドギターのような君
最高のドタバタスターに花束を
はつかねずみのようなスピードで
いそがしやいそがしや
ぼくはそんなレオーが大好きさ
映画史の彩るにはくたびれたアクター
中年になってもその輝き失わぬのは
君が生まれもってのアクターだからで
つまり、縁起のよいコメディアンっぷり
演技を育てたってわけね
ひよわで、悪戯っ子で、饒舌で
お茶目で、それでいてどことなくも冴えない彼
われらがレオー
永遠のヌーヴェル・ヴァーガー
レオーフォーエヴァー
sakanaに 03
さかなフォーエヴァ-/さかな頌
どうやら永遠がそのあれはてた地に息吹きはじめたようだ
靴を買うひまもない永く果てしない道のり
だけどそのギターの音色はぴかぴかで
いまとなっては身体にしみこんだメロディにまばたきをするばかり
うるわしのブルーズかなでる双頭のさかないまや最高のソウル
みんなに伝えておくれと、見知らぬオールドマンのごとくつぶやいて
寡黙でおしゃべり
控えめで多産
シンプルで複雑
喧噪をすりぬければ、またいつものように遊泳する
この双頭のさかなゆらぐ青い青い海のなか
遥かなるざわめきがシャボン玉のように沸き起こっている
智恵の樹をもとめてさすらうのは
ときに夜のてのひらを歩く旅人慕うセイレーン
虚空に光の巣職人を追って
ときには無邪気なスワローのようにやってくるキューピット
やがて余韻残した空がほんのりと染め上がるのは
われら太陽の微笑
かくも愛しいとばかり神々の祝福あれば
まるでこの世があなたたちのために用意したかのような晩餐のひととき
それはなににもかえがたいこの世の至福
ただ無欲にて心のなかで、話しかけるように口ずさめば
その夢はとじられない絵本のように
君の心に永遠の風を刻みつづけるだろう
ポコペンとニシワキ
さかなフォーエヴァ-
アルフレッド・ジャリに
超男性をたたえる唄
コッコッ滑稽という名の口径
トットッときに拳銃をぶっぱなす光景は
あっかんだね、あっかんさね
すっすっすなわちあっかんべー
じっじっ時代のどってぱらにどうどう風穴穿つ原詩人
ひっひっ人々は目が回る
ぐっぐっぐるぐるぐーるぐると、グルーモンの気さえも回す
おっおっ女嫌いの絶対の愛は以後も砂時計にて刻まれる
パッパッパタパタとパタフィジックなナン・センスをぶちまけて
クックッ糞科学を空想で笑いをかみ殺すジャリ
さっさっさあて彼こそは英雄になるはずだった
がしかしじつはチョウのようにとんだ男性
ひっひっひらひらと空をとんだ超男性
すっすっすってんころりんとびすぎてはじけとんじまったぜ
フォフォフォーストローリングのパローリングのなせるわざ
きっきっ気違いじみたジャリ道はきまぐれな高速チャリがゆく
そっそっその名もアルフレッドは散文サラブレッド
れっれっレッドカードの常習犯
せっせっ成績オールナンセンス おおなんたーるセンス!
ゆっゆっ指を咥えて観るしかない寸劇ザンスね
ぶっぶっ文学ウブらをあっと驚かせた
わっわっわれらユビュ父ちゃんったら造語発明の父ちゃん
あっあっアプサン片手に呑んべぇやめず
そっそっそれは見事なクソッタレエの自動拳銃
とっとっ父ちゃんたらとうとう逝っちまった
嗚呼、いっいっ逝っちまったよ
レーモン・クノー
うずまきの国からこんにちはの巻
グルグル勘ぐる、アナタってえ誰なんだい?
イエスアイノウ
そ、それは ボンジュール・ムッシュ・クノーだよ
地口たる思い、まるでクノールスープの湯気
パタっと翻ったコトバのじゅうたん
クノ一忍法は文体に宿るってわけね
人生の日曜日にパロルを考えてみよう
イカロスは本から本へと渡り住むイズム
以下ロスには ケラケラ笑ってケセラセラ
メトロに乗り込むザジなら
さじ加減はいい加減、そんなの些事些事
太鼓腹にどてっぱら!
あさっぱらジョークなヤツら
勲章はバラよりも青い花を咲かせることさ
不可能は膿む つまり可能が生み出す言語生涯
決別するよ、お元気でブルトン先生
ソナタは苦悩を忘れ、左脳を回転させるオディール
はまむぎを紡ぎ次々に開店立候補
さよう、売りはウリポ
コトバの極道、
さしずめ 仁義を真似た菅原文体
そりゃアホだい!
デヴィッド・シルヴィアンに
Devil in the flesh
Are you still there?
Victimized ever all your own
Inexorably
Dragging down into hell.
Sun rises and shines ,
Yielding heavy corps upon
Land flowing with milk and honey.
Varies little by little
Inside of
An artist longing for
Naked eternity !
デヴィッド・ボウイに
地球感性塔はいつもサウンドマニアでごったがえし
過去だの未来だのを楽々行き来していた
だけど、ロックンロールがいまだにしなびちゃないのは
君のおかげだよ
そう、 ぼくらは実にひとりの偉大なるスターマンのことを噂する
人々は口々にこう挨拶をかわすんだ
覚えていますか?トム大佐のことを
もちろんですとも
ずっと、ずっと覚えているだろうなあ
彼はちっぽけなオレなんかよりもずっとずっと機智に富むメジャーな人で
その高みを見上げるには首がつらいんだ
だから降りてきてほしいんだと
ロックに目覚めた子供達は宇宙の星くずに懇願する
時が数々のステージセットを用意し
数々のごきげんなナンバーにみんな酔いしれていた
ぼくと一緒にロックンロールを、なんて最高な台詞を聞きながら
BOWIEは猛威を奮う
20世紀型の新種のウイルス
迷惑どころか 君は英雄として刻み込んだ
ピカソやダリ、ブレヒトやカフカにだってひけをとらない
もちろんたった一日だけじゃないよ
永遠が君を包み込んでいるのが見えるよ
そう、火星の蜘蛛たちを引き連れたジギーに
いまだってぼくはずっとずっといかれたままさ
彼のロックンロールは自殺願望者を救う
自分を強く見せるにはいろいろな仮面が必要なんだ
この青い地球で駅から駅へと
君は伝導師を演じ
ときにはピエロやジャンキーを演じたり
その変遷はみごとだったさ
まさにロックンロールの申し子は
けばけなしい衣装で
流行の意匠を纏ったけれど
神様がその片目をとり上げたのは
あまりにも世界が良くみえてしまうからだった
それでも、君の魅力的なウインクで魅了されたのは
敏感な世界中の若者たちだった
彼らはギターをもってその翼に飛び乗ったっけ
蜘蛛の子を散らすように世界は君の子供達でいっぱいだ
かくいうぼくは
そのころはまったく知っちゃいないんだよ
でも時代を巻き戻せば
ほら、君の奇蹟を間借することができるんだ
そう、デヴィッド・ボウイは最高だったと
受け継いでいかなきゃならない
でも、君がブリキの機械と戯れているときだって
君があんまりにも時を速く駆け抜けるからって
一度焼き付いた君のことはわすれようにもわすれられなかった
トム大佐、君は地球に落ちてきた男じゃなくて
地球を手玉にとった男だったね
歳をとった今も
君の栄光はそう、あの輝かしい時間のつまったレコードには
いまもくらくらするぐらいの
ロックンロールがつまっている
そう、だからぼくたちは
永遠に デヴィッド・ボウイは最高だったと
受け継いでいかなきゃいけないんだ