マックス・エルンストという画家

MAX ERNST 1891-1976
MAX ERNST 1891-1976

魅力マックス、アート版モテ男はダダの人

十代の男の子がバンドをやる大抵の理由は
ズバリ、女の子にモテたいが故だというのは
何も今更ここで強調することもない定説であろう。
だから、音楽はこれから先も人類が滅びない限りにおいては
さほど衰退する心配は必要ないだろう。

とまあ、ここでそんな妙なことを結論付けたいわけじゃない。
20世紀の重要な芸術運動だったシュルレアリスム、
およびダダイズムたちは随分と難解なことをやっていたわりには、
随分と女性にモテた。

だから、これから時代はシュルレアリスムだ、
ダダイズムだ、とはならないところがミソなのだが、
ちょっと待っていただきたい。
それこそ、ピカソなどは最たる人物だったが
ピカソと並ぶ20世紀の重要なアーティスト、
マックス・エルンストもその道にかけては負けてはいない。

ドイツのケルン近郊のブリュールに生まれた
ドイツ人の画家エルンストは、
美術史家のルイーズ・シュトラウスをはじめとして、
一番長く最後まで関係の継続したドロテア・タニングに至るまで、
知っているだけでも6人の女性と結婚しているほど
恋多き芸術家として、
生涯に渡って女性はそのインスピレーションの源泉であり続けた。

もっとも、ブルトンをはじめとしてシュルレアリストたちが、
多かれ少なかれミューズとして崇拝していたのとは違って、
このエルンストを取り巻く女性たちは
概ね、エルンストの絵画に置ける父性的な魔力に
街灯を求めて集まってくる蛾のように
吸い寄せらていったというのが伝説として流布している。

レオノール・フィニやレオノーラ・カリントン
あるいはドロテア・タニングといった
錚々たる女流シュルレアリストの画家たちは
あたかもエルンストの元で、あの個性的な創造的絵画を育んでいくのであった。

そんなエルンストの最大の功績は
何と言ってもコラージュとフロッタージュ、絵画的手法の発見である。
コラージュというのは一見なんの脈略もない
バラバラの素材を一同に集めて新たな世界を構築する、
いわば既成の秩序を破壊するシュルレアリスムの概念として、
エルンスト自身がその活路を見出した技法である。
とりわけ「百頭女」や『カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢』
あるいは『慈善習慣』といった
物語とコラージュを融合させたコラージュ・ロマンシリーズにおいて
そのイマージュの力が遺憾無く発揮された。

またフロッタージュとは、でこぼこした物の上に置いた紙を、
鉛筆などでフロッテ(こする)することで
その形状を写しとる手法である。
そうした手法で、幻想的な絵画を創作したエルンストが
ダダイストの旗手として後世に名を残すのは
無意識下のイメージを絵を通じて表出せしめんとして
圧倒的なまでに独創的な世界観を残したからである。

小さい頃、はしかにかかったエルンスト自身が
熱に浮かされ仰ぎ見る天井の羽目板の木目に
何やら様々な幻覚にとらわれ
それを絵画的に発展させたものがフロッタージュのことの始まりで
以後エルンストの代表的な絵画に多く見られた。

これは誰にも経験があることだが、
壁の染みや木目模様が人の顔に見えたり
様々なものに感じたりする、幻覚のようなものである。
それを表現として取り込んでいったのである。

また、十代の頃に飼っていたインコが死ぬのと同時に
入れ替わるようにして妹が誕生したことも
少年マックスのイマジネーションを大いに刺激したのであった。
妹はその精気を取って代わるかのように、
鳥の生まれ変わりとして彼の重要なモチーフ
怪鳥ロプロプとしてのちの絵画にしばし登場するほどである。

こうしたエルンストの作品を改めて見直す時、
いっこうに古びない確かな精気のようなものを
半永久的に醸し続けているのは
エルンストが絵に吹き込んだ精神性そのものだといっていい。

それらは今日のCDアートやデジタルテクニックを
いかに駆使しても表現しえない、
深遠なる世界観、絵画的宇宙として
追随を許さないオリジナリティを今尚放ち続けている。

それは今日音楽と言う媒体に置いても
リミックスやサウンドコラージュといった
一つのジャンルとして確立されており、
いみじくもケルンを拠点に
クラウトロックの重鎮カンのリーダーとして活躍し
すでに他界してしまったが
音響の魔術師、ドイツのホルガー・シューカイにも
脈々と受け継がれていったのは何も偶然ではないだろう。
エルンストが試みた異空間でのイマージュの邂逅は
ホルガーが多用したラジオコラージュを中心とする
テープによるサウンドコラージュにも通底しているものである。

つまりは20世紀初頭の芸術運動が
かような展開で、絵画のみならず
文学や音楽といった異種メディアにおいて拡張され、
そのイマージュの構築がなされている事実を見るだけでも、
このエルンストの功績もまた、
あのピカソに負けず劣らぬ影響力を持っていたことがわかるはずだ。

青年たちよ、女にモテるための方法なんて、
何も音楽だけではないことを、ここに知って欲しい。
もっとも、そういって、画家になろうなどという話は
あまり聞いたことはないが。

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