ヤン・シュヴァンクマイエル『オテサーネク』をめぐって

オテサーネク 妄想の子供
オテサーネク 妄想の子供 2000 ヤン・シュヴァンクマイエル

黒いユーモヤかかる国チェコからの切り株便り

さすが、チェコという国は
かつてカフカを産出しただけあって
この手の不条理ナンセンスに長けた作家を多数輩出している。
そのチェコを代表するヤン・シュヴァンクマイエルは
美術家というべきか
映画作家というべきか、
はたまたアニメーターというべきか
何れにしてもシュルレアリスティックな作風で
狂気とユーモアとカオスを併せ持つ独自の世界感で
我々をたちまち魅了する錬金術師である。

中でも人形を用いたコマ撮りの
ストップモーション・アニメーションを得意とし
その名を一躍有名にした技術は
デジタル時代に対する恐ろしいまでの挑戦である。
一度見ると、頭から離れないこの映像の魔力。
いやあ、今見ても面白いことこの上ない。
まさにシュルレアリスムの正しい踏襲ぶりがここにある。

その中で『オテサーネク』という
ホラーというべきか、寓話というべきか、
チェコの民話から拝借した想像力に満ちたお話であるが
監督の妻で美術を担当している
シュヴァンクマイエロヴァの絵本が効果的に使われており
シュルレアリスムテイスト満載の
映像絵本というべき世界が展開されている。

子どものない夫婦が
切株で作った赤ちゃんオテサーネクに愛情を注ぐのだが
こいつが尋常でない食欲でなんでも食ってしまう怪物で、
周りにあるものは手当たり次第飲み込んで
しまいには夫婦まで丸ごと食べられてしまうという、
なんとも恐ろしいモンスターである。

なんとかキャベツ畑のおばあさんによって退治され
めでたしめでたし、というか一件落着。
むろん、そんな能天気な話ではないのだけれど
食べられた生贄たちも無事元の姿で戻ってきたわけだし
さぞや泣き叫ぶ子供達にも笑顔が戻ったとか、戻らなかったとか。

いやはや、おそるべしチェコアニメ。
おそるべし妄想、
おそるべくシュヴァンクマイエルである。
132分は少し長い感じを受けたが、
世の刺激のない生活を送っている人たち、
中でも子供がなく、寂しく思っているような夫婦がいれば
ぜひ、一度はこういう世界の空気に触れ
妄想力の素晴らしさ、
現実を離れることの開放感を味わってほしいと思う。
ただし、心臓の悪い方や真面目過ぎる人、
冗談が通じない人や物事を理屈でしか考えないような人たちには
おそらくヒットしないだろうことは間違いないので、
オススメはしない。

その他、この人のアニメーションを見ていると
音が実に効果的に使われている。
とりわけ、モノを食べるシーンでの
咀嚼音の不気味さは秀逸で、
映像の不気味さをさらに明確に増長している。
ホラー好き、ホラー要素好きな人にも
ちょっと毛色の違ったアプローチが堪能できる作品である。

オテサーネク:エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー

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