君が君であるところの色をめぐって
青と黄色がまざれば緑になる。
べつに絵描きやデザイナーでなくとも、
それぐらいのことは、知っていることなんだけれども
わざわざ、視覚化して、それを絵本を通じてみると、
ほお、そうだよね、そうだったよね、面白いね、ってな感じで
なんだか、理屈ぬきで楽しくなってきて
幸せな気分が押し寄せてくるのだから不思議である。
レオ・レオーニのよる絵本『あおくんときいろちゃん』についての話である。
ちなみに、孫に向けて制作したという絵本で
レオーニの記念すべきデビュー作でもある。
そもそも、色とはなんなのだろうか?
それは他と識別するための一種の記号にすぎないものであり、
色そのものが、それぞれの意味をもっているのだ。
それを人そのものとして考えた時、
はたして、その人の色は、青や黄、緑といった
固有の色のみに収まるわけではないのだ。
赤い部分もあれば、紫もある、黄緑もある、黒だって、白だってある。
色が複雑に、雑多に混じり合ってできているのである。
波長とはよくいったもので、当然合う、合わないがあり、
だから、個性というものを色に置き換えてかんがえてみることは、
もう一度、自分という人間を見直すけっかけになったりするわけである。
ここでは青くんと黄色ちゃん、仲良しが二人集まって、
緑という調和、つまり個性になるわけだけど、
重要なのは、もとからある、青や黄色が失われたわけじゃないということ。
青あっての緑、黄色あっての緑なのだと。
だから「うちの子じゃないよ」と親にいわれると二人とも悲しくなって、
大いに泣きじゃくって、もとの色に戻るというお話に終結する。
他愛もない話だ。
しかし、ここに描かれた物事のしくみは、
人間にとって、決して侮れない真理を宿しているのである。
不変だと思っていたものが、実は可変であり
自分でも気づかない可能性があるのに、
目を閉じて見えなくしまっているかも知れないという事実を
この辺で立ち止まって考えてみよう・・・
もちろん、それ以上に難しいことをいうつもりはない。
絵本は絵本だ。
しかし、想像力は無限だ。
ただ、固定概念や自分が頭ごなしで知覚してきたことを一度疑ってみる、
そして、どこかで俯瞰してみてみる、
そんな機会も必要なんだってことを教えられる気がした。
レオーニには、さらに『スイミー』という大人気の定番絵本はある。
水彩画のタッチがより子供心をくすぐってくるよくできた絵本で、
小学校の教科書に取り上げられているくらい有名だ。
『あおくんときいろちゃん』以上に、もっと直接的にメッセージを投げかけてくる。
家族のみんなは赤で、スイミーだけが真っ黒だったために
運良くマグロに食べられずに済んだ。
これは色の妙ってやつか。
さらに踏み込めば、他人と違うことの意味を考えるということもあろう。
そして、今度は残った仲間を助けるために、
一つの大きな魚群を形成して難を逃れようと、スイミーは提案する。
そのために勇気を出して先導を切る小さくて賢い魚の話だ。
テーマは知恵と勇気ということだけど、
色という視覚の識別で仲間外れにする、されるということをいったん離れて、
見えぬ絆を手繰り寄せる、
まさに人類の英知そのものが描かれている、とも言える絵本だ。
レオーニという人は、オランダ生まれだが、その名のとおりイタリア人だ。
ファシズムの戦禍、イタリアに嫌気がさしてアメリカに亡命し、
そこで名を馳せたアートディレクター、グラフィックデザイナーであった。
だが、最後はやはり、水があうイタリアに戻って多くの絵本を制作した。
しかし、レオーニという人は、単なる子供相手の絵本作家ではない。
中でも僕が強烈に心を奪われたのは『平行植物』という
幻想植物をあたかも学術的な風合いで書き起こした本で、
レオーニによる鉛筆画の植物群が実に妖しく、
なんともそそられる大人向けの絵本作家でもあった。
当然、子供たちに向けられた絵本とは違って、
「平行化」という反半アカデミックなテーマが掲げられ、
いわゆる奇書の類にさえ位置付けされていた本である。
この『平行植物』に関しては、後日ページをもうけるが、
数年前の夏、ちょうど大阪にいたときに、
偶然開催されていた「みんなのレオ・レオーニ展」に足を運ぶ機会があり、
この作家の素晴らしさ、奥深さを改めて味わった記憶が蘇ってくる。
もはや、自分探し、などというテーマを掲げる気はしないが、
まさに、自分自身が何を目指して、どこに向かってゆくべきか
漠然と考えるリフレッシュな機会になったのをふと思い出した。
Every colour you are (live ’93):Sylvian & Fripp
色のことを考えていたら、この曲のことがふと頭に浮かんだ。アフタージャパンの十年後の、一回きりの再結成バンド、レイン・トゥリー・クローの曲「Every colour you are」を、ロバート・フリップとのツアーで披露したものだ。歌詞全体は相変わらず、哲学的だが「You can be anything you want Every colour you are(なりたいものになんだってなれる。君が君であるところの色)」というフレーズが心に刺さる。
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