勝新スタイル1『悪名』の場合

悪名シリーズ

浪花ともあれ悪名三昧、河内音頭で祝祭を

大映が誇る、大ヒットプログラムピクチャーの決定版、
勝新三部作のひとつ『悪名』シリーズ全15作を
この数ヶ月かけて見直ししていたのであるが、
原作/今東光の河内ど根性節を、
ちゃきちゃきの江戸っ子・勝新が我が物顔で演じきっても、
いっこうに不自然さがない。
ややもすれば非関西圏の俳優による関西弁の違和感が耳につくのが相場だが、
このカツシンな朝吉においては、
みじんも感じさせないのは、役者馬鹿を通りこえて、
やはり天才と言わしめる所以といったところ。

1作目で、因島の女親分浪花千栄子に、
海岸でステッキ一本全身拷問を受けるシーン、血反吐吐きながら
わいが死んでもわいのど根性は死ねへんのじゃい
堂々啖呵切ったその姿に”河内のど根性”をみた。

河内弁となると、昨今の大阪弁の流通をこえて、
ちゃきちゃきの浪花の男にとっても、
「われなんかしてけつかんねん」「けったいなやっちゃで」
ってな具合の、どこか異国の言葉に聞こえるやもしらぬ。
対して、「梅に鶯、鶴に松、朝吉に清次
と呪文のように啖呵きる相棒、田宮二郎はというと、
こちらは生粋の関西人だったがゆえに、
どちらかといえばクールな二枚目の様相を脱ぎ捨てれば、
むしろ、ベタベタの浪花節が妙に新鮮だ。

のちのちこの調子で実人生をいき伸びていれば、と残念に思う俳優だ。
四十半ば、これからという時に
自ら猟銃の引き金を引く悲惨な死に様を晒し
すでに半世紀近くが過ぎるが
クイズタイムショックのあのオスマシ二郎
2枚目スターの陰をおもんぱかると、
なんや、哀しゅうなってくるのではないか。
なにぶん、清次あっての朝吉、
つづけて見慣れた目にはいつしか、
この田宮二郎見たさへ、そう変っておった次第である。

実は、その昔、増村版『悪名 縄張荒らし』 を最初劇場で観たのだが、
これは、いわば、 田中徳三による一作目『悪名』
二作目『続悪名』 をひとつにまとめたものである。
増村版ではモートルの貞を、
田宮の代わりに北大路欣也という相棒と組ませた。
さすがに増村版には、シリーズにみられた
軽い調子がナリを潜めてはいて、
本シリーズのタッチとは若干趣が違っている。
とはいうものの、『悪名』シリーズに流れる格調は、
ひとえに溝口組の依田義賢氏がほぼ全編脚本を書き、
半数近くの撮影を宮川一夫が担当していることからも、
なるほどと伺い知れるものが多い。

もともと、2作目でモートルの貞を死なせてしまったあとに、
その人気に便乗してつくられたものらしく、
瓜二つの弟、清次を以後の相棒にすえたのは
いかにも映画会社の強引な技ではあるが、
その後のあたり役を考えれば、結果オーライか。
つくづく映画とは大衆が育てるものだなあと思う。
これは『悪名』に限らないことだが、
当時の大映には、勢いというか、
じつに活気があったことが伝わってくる。

美術ひとつとっても、
プログラムピクチャーだからといって安っぽくはないし、
シリーズを重ねると、どうしても中だるみやマンネリにもなるが、
全体をとおせば、義理人情の篤い真男の道、
“悪名をさらす”とはいうが、
実際は、悪を成敗する痛快な正義のヒーロー、
ゆえにウルトラマン、仮面ライダー、
その他もろもろ堂々ヒーローものの
列伝への仲間入りしたとしても、このわいは許しまひょ。
ってなことになる。

それにしても、八尾の朝吉はめっぽう強い。
相手がヤクザだろうが大勢だろうが、決して飛び道具をもたず、
素手の喧嘩だけで相手を完膚なきまでにたたきのめす。
さすがにタチ周りが上手いのだ。
ゆえに、半ば強引な展開も中にはあるにはあるが、
そこは愛嬌、カンニンしておくんなはれ、と潔くいなせば事足りる。
強いだけではなく、子供から年寄りまで、
わけへだてなく情にも篤いとくる朝吉の、
そのモテモテぶりには合点が行くほどのはまり役だ。

芸なのか地なのか、照れ屋の朝きっつあんはその魅力二割増し。
おまけに、酒が飲めない。
「わい酒あかんねん。奈良漬けのにおい嗅いでもあきまへんねん」
んなあほな! 嘘つきなはれやあ、と思うが、
そうしたキャラクターの一挙手一投足に、人間性の可愛さがにじむのだ。

1.2作目は出色なのはおいておいて、
個人的には、芦屋雁之助・小雁が
贋朝吉・清次を語る『悪名市場』ではカツシンの河内音頭、
そのノド自慢もききどころ。
また東京へまで繰り出して大暴れする「悪名一番」では
ちょっとフィルムノワールのような空気があって面白かった。

で、このシリーズ、脇役陣もいい味を出している。
当時の大映映画の旬な俳優たちが
勢いよくいろいろ飛び出してくるが、
二度三度役をかえてでてきたときには、
すっかりはまっているという仕組み。
一郎・二郎こと芦屋雁之助・小雁を始め、
吉岡 一家の親分こと山茶花究、
沖縄の源八こと上田吉二郎、
二代目シルクハットこと長門勇、
おかまのおぎんこと茶川一郎etc 。
いとし・こいしから今喜多代 島田洋介を始めとする
若き日の浪花の漫才師たちも客演していて、
実に面妖な作品作りにはコマの充実ぶりも見所だ。

また、実生活さながら、お絹こと中村玉緒が朝吉に
「あなたを一生の妻にします」と一筆書かせて妻の座につくあたり、
なんだかこちらもなんだかいっぱいやられたあ、ってな気分になる。

ざっと簡略的な作品評価を載せておこう。

1 1961 「悪名」 田中徳三★★★★★
2 1961 「続悪名」 田中徳三★★★★★
3 1962 「新悪名」 森一生★★★★★
4 1962 「続・新悪名」 田中徳三★★★
5 1963 「第三の悪名」 田中徳三★★★
6 1963 「悪名市場」 森一生★★★★
7 1963 「悪名波止場」 森一生★★★★
8 1963 「悪名一番」 田中徳三 ★★★★
9 1964 「悪名太鼓」 森一生 ★★★
10 1965 「悪名幟」 田中徳三★★★
11 1965 「悪名無敵」 田中徳三 ★★★
12 1966 「悪名桜」 田中徳三★★★
13 1967 「悪名一代」 安田公義★★
14 1968 「悪名十八番」 森一生 ★★★
15 1969 「悪名一番勝負」 マキノ雅弘★★★
16 1974 「悪名 縄張荒らし」 増村保造 ★★★★★

まずは勝新三部作を先陣を切った朝吉親分から、
次は、舞台は戦場『兵隊やくざ」へ。
あのバルチュスが、初めて勝新の魅力に魅入られた作品。
こちらも『悪名』同様、痛快だ。
乞うご期待。

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