つめたく冷えた月 1991 パトリック・ブシテー文学・作家・本

パトリック・ブシテー『つめたく冷えた月』をめぐって

かくして、ブコウスキー文学の不思議な清々しさ、 胸のすくような猥雑なざわめきが、 この『つめたく冷えた月』にも程よく溶け出しており、 どこか憎みきれない二人の中年男の哀愁の サイテーながらも、サイコーの幻影とともに酔いしれ そんな弛緩した瞬間に、ふと心地よさを覚えたりするのを 自覚するのである。

The Tenant 1976 Roman Polanski映画・俳優

ロマン・ポランスキー『テナント』をめぐって

それにしても、いくら実際の体験から生まれているとはいえ、 ポランスキーのこうした強迫観念めいた演出は 実に恐ろしく、見事に引き込まれてしまう。 それは『反撥』『ローズマリーの赤ちゃん』にも十二分に発揮されていたが 『テナント』ではそれを見事に当人が演じることで よりリアルで逼迫した空気が張り詰めている。

Gran Torino 2008 Clint Eastwood映画・俳優

クリント・イーストウッド『グラン・トリノ』をめぐって

けれども、この映画のテーマは 実を言うと正義などと言う安っぽい、 と言うと語弊があるけれど、 そんな大義名分はさておき、 孤高に生きていてきた退役軍人としての心の傷、 人生の痛みや重みが 人種も年代も違う人間への真の友情として描かれ 奮い立って自身の天寿を全うしたこの老アメリカンの生き様に、 心打たれるのであった。

ロピュマガジン【ろぐでなし】vol.21特集

ロピュマガジン【ろぐでなし】vol.21

そこで、今回は、映画作りにおいて 監督兼俳優、ひとりでとりしきる孤高の映画作家を特集してみようと思う。 ひとよんで二刀流映画術。 むろん、映画など、とうていひとりでできるものではないし、 監督と俳優を兼ねるから、出来のいい映画が出来るわけでもない。 それがウリになるほど甘いものではないのだが、 うまくいけば、すべてその二刀流作家の勲章になり こければ、すべての責任が覆い被さってくる。 まさに自己責任である。

折れた杖 1972 勝新太郎映画・俳優

勝新太郎『新座頭市物語 折れた杖』をめぐって

かくして、勝新の贅の極みが尽くされた『新座頭市物語 折れた杖』は 傑作、かどうかは別にして、 マニアにはたまらない作風となって語りつがれている。 こんな作り手も現れないだろうし、またそれを許す配給会社もないこの時勢、 実に、貴重で、実に勝新らしい一本として、 ファンならずとも、ひとりでも多くの映画ファンに知って欲しい作品である。

Louise Bourgeois' MAMANアート・デザイン・写真

ルイーズ・ブルジョワをめぐって

そんなルイーズですが、 もうすぐ100歳という大台に手が届くか、というところまで生きて 現役で創作活動を続けていたようですが 2010年にすでに他界しています。 驚くべきは、彫刻家として認められたのがなんと72歳のとき。 MOMA展で開催した自身の回顧展で 初めてその所業が認知され光が当たった人なのです。 実に長い長い物語を抱えながら ひたすら蜘蛛が糸を紡ぐように創作を続けてきた人。 それがルイーズ・ブルジョワという人なのです。