1日だけの夏の終わりのプレイリスト

夏の終わり

あれだけうるさかった蝉の合唱もぱたっと止み
わずか数日の地上の夢を抱いてねむる蝉の亡骸が
路上ところどころ、ゴロンと転がっている。
もののあはれを感じながら
ひとり秋の気配を読み解く今日この頃。

今年は梅雨が長引いたせいで
夏はなんだか短かった気がしないでもない。
流石に八月は暑かったけれど、九月に入って涼しくなった。
連日の猛暑はどこへ行ったやら?
残暑はまた振り返すかもしれないが、
四季は緩やかに表情を変えてゆくのがいい。
このわずかなひと時の移ろいに身を寄せてみたい

さて、これまでも季節絡みで
いろいろと音楽セレクションを書いてきたけれど
今日は、たった1日、その短いタームでのプレイリストと称して
セレクトしてみたいと思う。

先日友達と深夜まで飲んでいた秘密のバーで
アナログレコードで素敵な曲を
たくさんプレイしてもらったあの感覚が忘れられずにいる。
その場所は空間もよく、音響がすこぶる良かったものだから
いつも聞いている音が全く違う音に聴こえてびっくりした。
改めてアナログの良さを再発見しているところ。

レコード熱が密かに湧き始め
いっちょ、音響システムでも構築すんべか
なんてことも頭をかすめたのだけれど。
おそらく、そこまで深入りすることはない、
それはモノに縛られる生活をすでにどこかで諦めているからで、
自分が今更物質的欲望に熱をあげるのは
ちょっとした退行のようなものに思えるからだが、
だからと言って、あの生音の良さはなかなか忘れがたく、
あくまで、想像に頼りながらも
自分も一つ、一枚一枚丁寧にレコードを手になじませながら
針を落とす、あのこなれたアルチザンのごとき軽やかを伴う
悠久のDJプレイを夢見ながら
ユーチューブに頼ってプレイリストを書いてみるとしよう。

湘南が遠くなってゆく:七尾旅人

夏といえば海というのはあまりにもベタなんだけど
まあそこはご勘弁。
海といえばいろんな曲が思い浮かぶけど
僕の場合は湘南はサザン、ではなくて旅人だな。
歌詞の中身はどうやら梅雨っぽい曲なんだけどね。
でもいいや。この潮騒にキュンとするなあ。

海と少年:大貫妙子

アッコちゃんのカバーの方も元気があって好きだけど
やっぱり、オリジナルの方がいいかな。
去りゆく夏を素肌に感じながら
秋に気配を感じるまさにぴったりの季節感あふれたナンバー。
坂本龍一アレンジが秀逸なシティポップの名曲だ。

クレイジーサマー:キリンジ

渋い曲、名曲ぞろいのキリンジの曲のなかでも好きな一曲。
まだ、兄弟でやっていた頃の息のあったフィーリングが懐かしい。
歌詞をこうやってじっくり聴いていると、
夏の終わりっていうのはなかなか哀愁があっていいと思えてくる。
面白いまでに喧騒から離れて
寄せて返す波と光の戯れなんかに身を寄せて
知らず知らずに物事の終わりを噛みしめ
そこにまた去来する様々な思いを重ね合わるなんてのも悪くはないなと思う。

少年:THE GESHA GIRL

確かにイロモノアルバムには違いないんだけれど
名盤中の名盤だと密かに思っているこのアルバムの中で
この曲は掛け値無しに名曲だと思う。
ダウンタウンのもつ永遠の少年性みたいなものをうまく曲にしている。
そんな純粋さなんかがうまく歌詞になっているそんな“真面目な”名曲だ。
さすがは教授だな。
曲調も実に素朴で、おそらくはサイモンとガーファンクルの『THE BOXER』あたりを念頭に教授があのダウンタウンのために結構真面目に書き下ろしたんだろうな。
もったいないぐらいいい曲だ。

さよならCOLOR:永積タカシfeat.忌野清志郎

さよならから始まることがたくさんあるんだよ・・・
そう歌われるこの曲が本当に心にしみる。
「SUPPER BUTTER DOG」 のバージョンも好きだけど
やっぱり清志郎とのデュエットはたまらないな。
映画は見ていないけど、
サントラだけ聴いていても想いに浸れる。名曲だ。

ただの夏けもの

菊地成孔プロデュースによる「けもの」は、
青羊と書いてあめと呼ぶ彼女のソロプロジェクト。2017年の『めたもるセブン』というアルバムが思いの外良かったので、それ以来聴いている。
これは2019年にリリースされたシングルで、夏の残像とともにさりげない効果音が
気だるく水のように染み込んでくる。
実に映像的で素敵な曲だ。
夏の幻想にお別れを告げるにはいいかもしれない。

Love Will Tear Us Apart:Novelle Vague feat.Eloisia

正直なところ、この「Novelle Vague」の
ニューウェイヴの曲をボッサでやる企画はずるいと思っているのだが、
それでもやっぱり、抗えないほど魅力的な曲が多いのでしょうがない。
ジョイ・ディヴィジョンの名曲が、この去りゆく夏の背に
ぴったしかどうかはさておき、
波の音で始まるこのボッサアレンジがグッとくるのは
歳のせいだけではないんだろうな。

さらば夏の日:山下達郎

達郎には夏のチューンがたくさんあるけど、
この曲はまさにタイトル通り、
僕にとっては青春に日々に聴いた夏の終わりの定番だ。
「一番素敵な季節が終わる」なんていう
あまりに直球すぎる歌詞が響くけど
ロマンチックな哀愁が漂っている。
あまり安っぽいイメージばかりを想起するのは
野暮だからこれ以上はやめておこう。

夜の海:桑名正博 with 晴子

やっぱりいいんだなあ、桑名さんの歌は。
ギター片手の弾き語り。
心に染みるなあ。
中でもこの曲は名曲中の名曲だと思う。
若いころの派手なイメージより
晩年のナチュラルな雰囲気の方によりぐっとくる。
「さよならの夏」というそのものの曲があるけれど
あえて、こちらをセレクトしておこう。
妹の晴子とのデュエットがこれまたたまらない哀愁をそそります。
いいな、兄妹でデュエットって。
レコードでの晴子バージョンも素敵だ。

PEACE PIECE:BILL EVANS

最後はこの曲で。ビル・エヴァンスの「PEACE PIECE」。この夏もいろいろありました。いいたいことも山ほどあるし、なかなか手放しで喜べる気配もない。とはいえ、そんな世にあっても、いつも心だけは平穏に、そして世の平和を願って、きたるべき秋にむかって、希望だけは失わずにいたい。その意味ではこの曲に救われる思いがする。さあ、何もかも忘れて寝るか。

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