ヴィブラフォニスト特集

はっきりくっきりクリスタルなときめき

その昔『なんとなく、クリスタル』という小説があったけな、
そんなことがふと頭をよぎった。
一時代を築いた、あの田中康夫のミリオンセラー小説である。
タイトルだけは覚えているのに、中身の方が思い出せない。
それもそのはずで、いまだちゃんとまともに目を通した記憶もなく
今に至っているのだ。
読めばそれなりに面白いのかな?
当時はそれこそ、なんとなく軽薄で、
なんとなく気がそそられなかったという理由で
これをなんとなくスルーしていたものだった。
よってなんとなく好きではないままの作家田中康夫の印象を
覆すにはいたっていない。

しかし別段、そんなことはどうでもいいことで
今更ここでこき下ろそうというつもりもない。
ただ、クリスタル、という言葉が妙にひっかかっている。
水晶、あるいは結晶であるクリスタルには
どこか涼しげで神秘的な響きがある。
そのクリスタルの質感が、曖昧なイメージに晒されるのが
無意識に耐えられなかったのかもしれない。
そういや、当時、クリスタルキングなんていうグループもあったっけか。
それこそもう論外である。

しかし、音というのはもっと正直なもので
そのクリスタルなイメージにもっとも近いかどうかは定かでないが
打楽器鍵盤ヴィブラフォン通称ヴァイブはいかにも、
ってことになるんじゃないか、と思う。
ヴァイブの響きこそは、確かに
なんとなく、クリスタルかもしれない、なんて思う。

マリンバもいいけれど
やっぱり金属の響き、サスティン、
つまりは残響する持続音とともに気持ちが吸い込まれてゆくような
そんなヴァイブの響きが素敵だ。

今宵、そんなヴァイブの音色に耳を傾けていたい季節になった。
なんとなく、秋とはそういうムードになる。

良き時代のヴィブラフォンマスター、はじめにハンプトンありき。

Stardust:Lionel Hampton All Stars

まずはジャズ・ヴィブラフォンの第一人者であり、
ベニーグッドマンのバンドでもならしたヴィブラフォンマスターことライオネル・ハンプトンからいきましょう。
さすがに時代を感じさせるところもあるが
爽快なスイング感でうきうきしてしてくるサウンドだ。
「Stardust」はいろんな人がカバーしている名曲だが
この曲の途中から入ってくるハンプトンのソロが素晴らしい。

クール&モダンの室内楽的ジャズ・コンボの代名詞MJQ

BAGS GROOVE:Miles Davis

お次はスイングジャズのご機嫌な旋律が一気にモダンになってミルト・ジャクソンのMJQ へ。
ジャズ・ヴァイブといえばこの人ミルト・ジャクソンにゃ足を向けられない。

まずはマイルスのアルバムでの『BAGS GROOVE』から。マイルスとモンクの“喧嘩セッション”としても名高いアルバムでミルトのクールで知的なプレイが冴え渡っている。とにかく全体的に無駄が一切音なく最高にクールである。ものすごく計算された音作りだね。

Concorde:MJQ

管楽器のない室内楽的ジャズ・コンボとして多くの支持を受けたMJQとミルト自身のソロとの間には多少なりと温度差があるが、クリスタル、という響きを重要視するならばMJQに軍配か。
中でも言わずもがなの名盤はこれでしょう。ジョン・ルイス、パーシー・ヒース、コニー・ケイとのカルテットで生み出されるクールな演奏がたまらない。

静寂の夜のひと時、魂に響くヴァイブの波動を

Happenings:Bobby Hutcherson


さらに深く進んでいけば、ボビー・ハッチャーソンへ。 
ハッチャーソンの代表作、最高にクールな一枚はというと『Happenings』だな。
ピアノにはハービー・ハンコック。ボブ・クランショウのベース、そしてクールなビートを刻むジョー・チェンバースのドラム。
ヴァイブとピアノの響きのぶつかり合いがとっても都会的な響きを醸す名盤であることは間違いないところ。
夜の静寂に読書でもしながら聴くにはぴったりかなと。

OUT TO LUNCH:Eric Dolphy


そんでもって、リーダーアルバムではないけれど、
ドルフィーの超名盤『OUT TO LUNCH』は外せない。
ピアノレスの代わりに、ハッチャーソンのヴァイブが入った変わった編成だけど、ドルフィー曰く 「ピアノより自由で解放的なサウンド」と言わしめたということなんだけどコード楽器でもピアノの和音にはない空間性というのか、いななくアルトやバスクラとの相性もバッチリでかなり重要な役割を果たしている。この斬新な響き、まさに前衛的でカッコイイ。モダンジャズファンならずとも必聴の一枚。

Mr.クリスタルなヴィブラフォ二ストといえばこの人

Crystal Silence:Gary Burton Chick Corea


こうしたアメリカのジャズの流れに割り込む形なのが
ゲーリー・バートン。
ダンプニングという奏法をもってヴィブラフォンの演奏に革新をもたらしたイノヴェーターである。
テーマでいうクリスタル度は上記のヴィブラフォ二ストたちよりも高め、というか、クリスタルそのものを追求しているプレイヤーとも言えるのがバートンである。
ECMレーベルからリリースされたいくつかのアルバムの中でもチック・コリアとの共同名義『クリスタル・サイレンス』などはまさにそのものって感じの響きがする。

Good Vibes:Gary Burton


もちろん、そんなクリスタルなバートンもいいのだけれどあえてここはアトランテックのアルバム『Good Vibes』で、“なんとなく”な概念をスッキリ取っ払いたい。熱い演奏が展開されること間違いなし。
何と言ってもエレクトリックヴァイヴ!いいね。
そして三人のギタリストとの絡み、チャック・レイニー&バーナード・パーディのリズム隊と繰り広げるご機嫌なファンキー&グルーヴィなサウンド。
うーん、こりゃ最高じゃないの!

最高に熱くクールなキング・オブ・ヴァイブス、帝王ROYのご機嫌サウンドを聴こう

A Tear to a Smile:Roy Ayers Ubiquity


こう流れてきて、一応〆に入るとすればジャズとファンクの融合、クラブミュージックテイストのキング・オブ・ヴァイブスことロイ・エアーズってなことになるか。ちゃんとジャズの王道から入っている帝王ロイが
『Ubiquity』で、自らのバンドRoy Ayers Ubiquityを結成し、その辺りから、ジャズファンク~ニューソウルへの道を確立してゆく事になるが、ロイの場合は、ヴォーカリストを迎えてのジャズの即興をも含みながら、ニューソウル的アプローチが特徴で、それが絶大な支持へとつながっている所以だ。
そうしてダンス系ディスコ、フュージョンなどクラブミュージック寄りのカリスマとしても君臨しながら、サウンドプロデューサー的な立場でしっかり新たな才能を発掘したりしてゆくあたりは、単なるヴィブラフォ二ストの範疇を超えている。

アフロ・ブラジルにチルなヴァイヴのひと時を

Soul Sauce:Cal Tjader


番外編としてまずあげたいのがカル・ジェイダー。
ムード音楽、イージーリスニングの扱いに甘んじるのはもったいない。音はラテンジャズテイストなんだけれども非ラテン系ラテンミュージシャンとしての感性がモダンに響く。
クラブ系好きにも、純粋なジャズファンにも愛される
Verveからリリースされた名盤。

Xirê de Vibrafone:RICARDO VALVERDE


ラテンジャズの流れでもう一人、ブラジルのヴィブラフォン奏者ヒカルド・ヴァルヴェルヂ の『Xirê de Vibrafone』をあげておきたい。
アフロ・ブラジル音楽とギル・エヴァンス的アレンジの融合と謳われるどこまでもクールな響きは
ニューモードジャズ・ヴァイブの形を提示している。

季節の変わり目にこのヴァイヴの新星のヴァイヴスを

Who are you?:JOEL ROSS


最後は、名門ブルーノートから『KingMaker』でデビューしたNYジャズシーンの新星ヴィブラフォン奏者ジョエル・ロスをあげておこう。1996年生まれだから、今25歳ぐらいか。元はドラムをはじめ、他の楽器も色々こなすマルチな才能をもったプレイヤーであり、バップジャズの流れを汲みながらも、新しい時代感覚をもった、そのクールで巧みなプレイは注目に値する。アンサンブル指向で、そのバンドのメンバーもみな若く、これからの活躍が期待されるところ。

秋の夜長にクールなヴァイヴをなんて謳い文句ではじめたけど、
最後は完全にサイコーにホットな時間を過ごそう!
ってなことに軌道修正かな。
ま、そんなこたあどうでも良いか。
とにもかくにも、ご機嫌なグルーヴ。
ご機嫌に身をくねらせて、身体の芯まで熱くなっていただきましょう。
ただし、頭の芯はいつだってクールに。
そして、何事も正しくものを見極めてまりましょう。

結局、なんとなくで始まった気だるい感じが
最後はどこかシャキッと気合が入ってのグルービーナイトになってしまったが、
元々「VIBES」には雰囲気とかノリっていう意味もあるし
もともとなんとなく書き進めてきた記事だからその辺りはご勘弁を。

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