ビル・フリーゼルの話

BILL FRISELL 1951〜
BILL FRISELL 1951〜

雲の上のギター弾き

楽器の花形はといったら
やっぱり、何と言ってもギターだと思うんだな。
ギターほどポピュラーで、なおかつ
多面的な音楽を奏でうる楽器はないと思う。
その花形であるギターの音色といっても
プレイヤーの質、傾向、音楽性によって
随分と違う印象を受けるのは
音楽好きなら誰だって思うことだろう。

そんな中で、ひときわ個性的、
というかワンアンドオンリーなギタリストの話をしよう。
その名もビル・フリーゼル。
僕はこのギタリストがあらゆるギター弾きの中で
もっとも好きなプレーヤーとして
今尚敬愛し続ける現役の音楽家だ。

とにかく、音色が独特であり、一本のギターで
よくもまあこんなに情感豊かな表現ができるものだと
感心してやまないんだけれど、
楽曲にも実に多様性があり
簡単に言葉で説明できる類のギタリストじゃない。
よく言われるのは“浮遊感”というやつだろうか。

昔から、どんな楽器でも
中毒性を持った音色をもつものにはからきし弱いが、
このフリーゼルのギターの浮遊感ほど
フィットするギターの音色はない。
ヤバいほど馴染んでしまう。

もし、この世の猫を捕まえて好きな音色は?
なんて尋ねたら、即フリーゼルさんのあのふわっとしたギターだよ!
なあんていうんじゃなかろうか?
まさにそんな感性をもっている気がする。
昔「屋根の上のバイオリン弾き」っていうミュージカルがあったけど
フリーゼルって人はまさに「雲の上のギター弾き」
そんな印象を与えるプレーヤーだと思う。

はっきりいって、
ギタリストとしてのフリーゼルは別格。
ジャズはもちろん、
はたまたカントリー、ブルースといった
ルーツミュージックからポップミュージック、
あるいはロックやフリーミュージックに至るまで
どんな音楽にも対応できるレンジの広さ、テクニック。
それでいて、とっつきにくいところなど全くない。

フリーゼルとの出会いはマリアンヌ・フェイスフルの
『Strange Weather』というアルバムからで、
ハル・ウイルナープロデュースのこのアルバムで
フリーゼルのギターが全面フィチャーされていて
本当に素晴らしいアトモスフィアを提供している。

そこからECMからリリースされていた
フリーゼルが参加しているアルバムを聴き漁ったものだ。
『In Line』や『Lookout For Hope』など愛聴盤は数知れない。
ちなみにパット・メセニーがレーベルに推してデビューしたらしいが、
ものすごくアメリカンな魂を持ったギタリストが
ヨーロッパのジャズの老舗ECMからデビューというのがまた面白い。

もともとジャズミュージシャンだと思っていたが
ジョン・ゾーンとの共演『Naked City』なんかでは
ロック的というか、かなりカオスなプレイを聞かせてくれるし
同じく『News for Lulu』ではハードなバップもお手の物だ。

また『Music for the Films of Buster Keaton』に代表されるように
映画のスコアにも通じている。
そして何と言っても、カントリーやルーツ音楽にも造詣が深く、
実に多様なサウンドテクチャーを持っている人である。
何より永遠のギター少年のようなギター愛を
ひしひしと感じさせる人である。

風貌はというと、のほほんとした親しみのある感じで
音楽家というより、ものを書く文士のような印象を受けたりする。
そして、どこか大学教授風だったりするなと思っていたら、
バークリー音楽院の名誉博士号も授与されているぐらいだ。
その流れで2017年には、『Bill Frisell: A Portrait』という
ドキュメンタリー映画まで制作されている。

そんなフリーゼルのライブを、これまで2度だけ観たことがある。
なんだよ、たった2回かよ、
と言われるかもしれないけど、
それはそれで印象深いものだった。

1回目はパリでみた。
もう30年も前の話だ。
確かソロ公演だった気がするけど、
実際に見るフリーゼルはとっても大きく見えた。
小さなスタインバーガーを持って、
身をかがめて、なんだか赤ちゃんをあやすような感じで
小刻みに揺らしながらプレイしていたビル。
あの絶品のギターサウンドを生で聴けて
まさにこちらが雲の上を歩いているような気分を味わったものだ。
素晴らしい思い出だ。

あと一回は、日本で矢野顕子のサポートメンバーとして
パーカッションのナナ・バスコンセロスとの共演を観たけど、
これもまた素晴らしかったな。
アッコちゃんとの相性もバッチリだった。

とにかく僕が思う、
いろんな重要かつ先鋭的なミュージシャンのアルバムには
必ずどこかで顔をだす最強のメンバーのひとりであり、
常に期待を裏切ることなく、
モダンで刺激のある音を提供し続けてくれる、
確かな腕利きミュージシャンなのである。

間違いなく自他共に認めるナンバーワンギタリストとして
いつでも気軽に雲の上に連れて行ってくれるのだ。
この音、この人大好きすぎる。
それだけははっきりいっておきたい。

ビル・フリーゼルのギターに恋してしまうかもしれないアルバム10選

All We Are Saying 2011

ロックファン、ポップファンにも聴いてほしいフリーゼルという観点ではこれが最適かもしれない。
ジョンの名曲を、このフワフワアレンジで聞かせてくれるなんて・・・
なんという贅沢。なんという奇跡ではござらぬか。

The Willies 2002

ビルのギターはアメリカン・ルーツ・ミュージックというものが原点になっている。其の温かい土のぬくもり、薫り漂うこの雰囲気はひたすら心地よいのです。アメリカで最高のバンジョー奏者といわれているダニー・バーンズとベースはロックから実験音楽までなんでもこなすキース・ロウとのトリオ。

Go West: Music for Films of Buster Keaton 1995.

カーミット・ドリスコル、ジョイ・バローンとのECMでのバンドトリオで、バスター・キートンのサイレント映画に音楽を付ける企画をやってます。
「GO WEST」を収録。
ほぼ1世紀も前の映画につける音かと思わせるほど刺激的。
実際に映像に合わせみるほうがいいに決まってるけど、
まあ、そこはイマジネーションで補うとして、
こういうセンス、たまりませんねえ。

Naked City:JOHN ZONE 1989

ジョン・ゾーンにギターでビル、キーボードにウエイン・ホロビッツ、ベースがフレッド・フリス、そしてドラムスにジョイ・バローン。で、ヴォーカルに山高アイ。ということで、
泣く子も黙るネイキッドシティ。
アルバム自体は映画音楽風といいますか、ジョン・ゾーンカラーだけど、こういう場ではそれなりに、ちゃんと随所にアヴァンギャルドをキメるビルの凄さ。
やっぱり、文句なくかっこいいいのです。

Bass Desires:Bass Desires 1985

ECMでのリーダーアルバム以外では、
このベースのマークジョンソンのベースデザイヤーズでのギターがなかなかかっちょよいのだ。
アメリカンジャズでは絶対に聞けないジャズだな。
Marc Johnson(B)に Bill Frisell(G), John Scofield(G), Peter Erskine(Ds) という四人編成。
ジョンスコとの共演が胸踊る快作であります。
このメンツで、コルトレーンの「至上の愛」の一部を「Resolution」でやっています。

News for Lulu JOHN ZONE 1987

John Zorn(Alto), Bill Frisell(E.Guitar), George Lewis(Trombone)の三人組でBLUE NOTEのハードバップをやってます。
ジャケットはルルこと、ルイーズ・ブルックスの『パンドラの箱』からのもので、さすが映画オタクのジョン・ゾーンのセンスが光ります。

PETRA HADEN & BILL FRISELL:PETRA HADEN 2004

ペトラは、あの名ベーシスト、チャーリー・ヘイデンの娘さんである。
サウンドは、スタンダードなポップミュージックからトラディショナルまでどちらかとえいばフォーク&カントリー路線。
歌ものでのフリーゼルは実にロマンチックにボーカリストをアシストするな。「ムーンリバー」にうっとり聞き惚れます。

Lookout For Hope:The Bill Frisell Band 1987

ECMでのビルのリーダーアルバムのなかでは、やっぱしこれが一番好きだな。最初に買ったビルのアルバムでもあり、大切な一枚だな。
Hank Roberts(Cello), Kermit Driscoll(B), Joey Baron(Ds) という四人編成のいいバンドだ。

MUSIC IS 2017

十八年ぶりのソロアルバムなんだとか。
ここまでくると、もうだれにも真似できない、完全なる桃源郷の世界であり、ビルの長年のキャリアがすべて凝縮されていて、いうなれば自在。
ただただうっとり聞き流すだけです。
ジャズとか、ポップミュージックとか、カントリーとか、
ここではジャンルなんでどうでもよくって、
この人に「音楽とは何か」を教えられる思いがするだけなのです。
まさにミュージックマスターと呼んでいいのでしょう。

Strange Weather :Marianne Faithfull 1987

名物プロデューサーハル・ウイルナーによるプロデュースでのマリアンヌ・フェイスフルのソロ。
個人的に、ビルが参加したポップミュージックアルバムの最高傑作だと思っている。
ニノ・ロータの『アマルコルド』をジャズメン中心でアレンジした企画アルバムからのつきあいであるハルとの相性が、ここでも抜群で、
マリアンヌの枯れ果てた声に潤いを与えてるギターサウンドが胸に刺さります。
ヘロイン中毒からようやく抜け出した彼女の歌声に、寄り添うビルのギター。「AS TEARS GO BY」は涙なしに聴けません。

とにかく、多産。
こんなの序の口で、別に順番とか優劣なんて、ない。
どれを聴いたってかまいはしない。
もちろん、ハズレがないのだから、
聴いたことにない人にはすべておすすめ。
ほんとに、ほんとにすごい人だなあ。
ジーニアス!

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