ジャズが聞きたい、わかりたいけど難しい、
という人がそばにいるとして、
こちら、別にジャズを大声で語れるとも思わない人間が
たったひとついえることがあるとすれば、
ジャケットを観て、直感的を信じるべし。
自分が気に入ったジャケットのものから入れば
その分、気に入ったときの一体感は計り知れないものがある。
むろん、これはジャズに限らないことなのだが、
とりわけ、ジャズというジャンルは
このジャケットワークと密接に通底しているような気がしている。
植草甚一の言葉を借りれば、「モダンジャズは皮膚芸術」。
つまりは、肌で感じる音楽だというわけだから、
自分の目を信じれば、その皮膚感覚にも直結するのは
全然おかしな話ではない、と思うのだ。
そんなことで、自分は一時期
いっぱしのジャズ愛好家を気取って
ブルーノートからリリースされているものを
アトランダムに聴いていたものだ。
そのような観点で、今回はブールノートレーベルのアルバムを中心に
ジャケットを選考してみたいと思うのだが、
何しろハズレがほとんどない。
ジャケットを見るだけでうっとりする。楽しい。
なんて素晴らしい世界なんだ・・・ということを書いておく。
ブルーノートというと、創始者であるアルフレッド・ライオンのことを
真っ先に取り上げるべきだろうが
ここではカバーアート、ジャケットデザインのことに限っておく。
そうすると、なんといってもリード・マイルス
そしてフランシス・ウルフのフォトグラフ、
この才能の素敵な邂逅が、音楽業界とグラフィック・デザイン業界に与えた影響力に自ずと触れることになる。
まさに文化遺産ものだ。
デザインに関わる人間なら
おそらく影響を受けていない人はいないんじゃなかろうか?
ちなみに、リード・マイルス自身はジャズよりクラシック音楽の方に
興味があったとか。
根っからの仕事屋だったんだな。
ここでは、そうしたあまたの傑作から、ほんの少しだけ、
個人的な思入れのあるデザインと、
デザインの観点から見て、独断的、直感セレクトをあげておこう。
The Cover Art of Blue Note Records: The Collection
とにかく眺めているだけでうっとりするのが
ジャズのアルバムジャケットの魅力ですね。
もちろん、中身だって素晴らしいんですけども
ブルーノート・レコード 妥協なき表現の軌跡
創立75年を記念して、ブルーノート・レコードの全貌がつまった
ファンにはたまらない一冊。まさにガイドですね。
パラパラ眺めているだけでお腹いっぱい。
これぞモダン焼き、ならぬモダンデザイン集。
モダンジャズシリーズ
Cool Struttin’:Sonny Clark
うーん、かっこいい。うなってしまうほどクール。
ブルーノートのかっこいいジャケットデザインの中でも
Sonny Clarkのこれは、指折りの名盤だと思う。
ウルフの写真とマイルスのデザインがみごとに融合して
シンプルながら究極のデザインを生み出している。
このジャケットを見ると「女の脚は地球を図るコンパスである・・・」というトリュフォーの言葉を思い出す。
Blue Train:John Coltrane
プレイヤーがメインの写真ジャケットシリーズもまた魅力的だ。
フランシス・ウルフの素晴らしい一枚。
ジャズミュージシャンの秀逸なポートレイトも数多く使用されているが
これはもっとも好きな一枚である。
ここではコルトレーンの憂いのようなものが
ブルーと言うキーワードにかけて見事に表現されている。
In ‘N Out/Joe Henderson
次はタイポグラフィーによるモダンなデザイン。
シンプルな文字だけなのに、このかっこよさときたら。
なんでもない文字が記号のように並び
少ない色、シンプルなフォルムでデザインされるのもまた
リード・マイルスのテクニックでもある。
テナーサックスのJoe Hendersonの他はピアノにMcCoy Tyner
ベースが Richard Davis、ドラムスElvin Jones、トランペットにKenny Dorham
によるカルテットの演奏『In ‘N Out』。
True Blue:Tina Brooks
こちらはタイポグラフィーではなくグラフィカルなデザイン。
タイトルのブルーにかけて様々な青を使っての見事な表現力。
青のバリエーションのなかにタイトルチューンと
Tina Brooksの写真を組み込む構成力のにくさ。
とっても洒脱な感じがしてかっこいい。
ハードバッブの傑作であり、ブルーノートのなかでも指折りの名盤といわれる
ティナ・ブルックスの『True Blue』だが
生前にリリースされたリーダーアルバムはこの一枚限り。
デビュー作であり同時に彼の最後の作品となった。
ティナの他、トランペットには Freddie Hubbard
ピアノがDuke Jordan ベースにSam Jones ドラムスにArt Taylorの布陣。
BLUE LIGHTS / KENNY BURRELL
今度はイラストを使ったモダンなタッチ。
イラストはアンディ・ウォーホル。
売れない頃のウォーホルが小遣い稼ぎでやった仕事というが
十分イカしたジャケットである。
いやあ、最高に素敵だ。
スタンダードナンバー『Autumn in New York』のブルージーなケニー・バレルのギターが素敵だ。
Moon Beams:Bill Evans
リリカルでロマンティークなビル・エバンス『 Moon Beams』の
ジャケットを飾るモデルは
ベルベットアンダーグラウンドにも参加していたあのニコだ。
ファッションモデルとしての彼女の良さが凝縮されていると思う。
古典絵画のような雰囲気とアングルが絶妙だ。
それまでのエヴァンスをささえていたベーシストのスコット・ラファロが交通事故死し、
本作では新ベーシストにチャック・イスラエルを迎え、再スタートを切った
新生ビル・エヴァンス・トリオのリリカルなバラードは相変わらずロマンティック。
Bitches Brew: Miles Davis
一見するだけでわかってしまう絵のオリジナリティ。
ドイツ出身の画家マティ・クラーワインによる黒魔術的なドローイングが
マイルスの問題作『ビッチズブルー』の世界観そのものと見事にリンクしている。
With Strings:CHARLIE PARKER
ヴァーヴといえばデヴィッド・ストーン・マーチン。
ジャズ・グラフィックスの巨匠と言ったらデヴィッド・ストーン・マーチン。
イラストとグラフィックを見事に融合させて作り上げる
ジャズイラストのジャケットアートの極み。
このセンスもまた素晴らしすぎてため息が出る。
Time Out:Dave Brubeck
まさに言わずもがなモダンジャズの名盤中の名盤である。
モダンジャズだから抽象画的グラフィカルな絵が合うのだろう。
ただし、なんでもいいってわけじゃないところがミソである。
その辺りは詳しく触れないとしても
絵のイメージと音が見事に共鳴している。
S. Neil Fujitaという日系の画家の作品だが
ブルーベックの音と抽象絵画の相性は抜群だ。
Django : Modern Jazz Quartet
Tom Hannanによるデザインで
ジャズレーベルPrestigeのMJQのアルバム
単に文字だけを並べているのにこのセンス。。
まさにモダンジャズの真骨頂ではないでしょうか。
とにかく、目から鱗なデザインの宝庫なのですが
なにげないレイアウトのなかに、光るグラフィックセンス。
こういうデザインにこそ匠の感性を垣間見ますよね。
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