テレビ文化を、つまりはお茶の間文化と言い直してみると
やはり、それは団欒の中心的象徴であり、
今のように、娯楽の少なかった時代においては、
あたかも、大衆にとっても神であるかのように扱われていたのは
ある意味、自然なことだったのだろう。
そこから様々な文化が生まれ、時代を反映しながら
僕らはその渦中、それを滋養として育ってきた。
だからこそ、今でもノスタルジーを感じるわけで、
今のような、ネット社会やデジタルな文化構造とは根本的に違っている。
中でも、お茶の間に影響力を持っていたのがテレビドラマである。
テレビ以前は、それこそ、活動写真と呼ばれていた頃や
映画産業の隆盛期ならば、映画館自体が一つの文化発信の拠点にもなりえたろうが
それが、家にいて、家族団欒の流れで一つの文化として共有できる空間が生まれた。
この擬似社会、擬似体験としての亜空間においての、
ドラマの存在意義というのは、今と比べ用もなく大きかったのだと思う。
とはいえ、単にノスタルジックな回想に寄っかかって
あの頃はよかった、などというつもりはサラサラないのだが
冷静にみると、テレビドラマの質は、
やはり今とは比べ用もなく高かったのだ。
当時、リアルタイムで没頭していた頃には
まず分析など皆無だったし
細かい演出の妙や時代意識など、考えも及ばなかったが、
改めて再見し、再考してみると
そのことが実によくわかってくる。
何しろ、限りない自由が確約されていたし、
関わったスタッフ、俳優、基盤になる脚本など、
どれもが制作への熱を帯びており、それは映画とはまた違ったベクトルで
限りない実験性や話題性を持って、次々に生まれ落ちていった。
無論、箸にも棒にも引っかからないような作品も山ほどあるが
中には、今尚伝説的に共感を持って受け入れられる神作品もある。
必ずしも、当時リアルタイムで釘付けになっていたわけでもないし、
再放送や、DVD化されてから見直した作品も含めて
個人的な記憶に基づいて、昭和のドラマを大雑把に検証してみたい。
そんな大げさなものではないが
ここでは、ひとまずアーカイブ的に列挙するだけにするが
此処偏愛的作品は、いずれ個別にとありあげて深く検証してみたい。
まぶたのざわめき、ジャパニーズリビングメモリースコープ BEST10(順不同)
傷だらけの天使 1974〜1975年 日テレ
白い巨塔 1978年 フジテレビ
医学界の闇にメスをいれた山崎豊子のノンフィクションもの。映画化のあと、なんどもドラマ化されているが、このシリーズのクオリティは不世出だと思う。実に見応えがある。財前五郎は田宮二郎を語らずして始まらない。それまで日本映画界をささえてきた名優たちが、脇を固める豪華絢爛さも忘れられない。最後は財前=田宮の死が公私に重なってさらに伝説と化した社会派ドラマの決定版。
前略おふくろ様 第1シリーズ1975〜1976年/第2シリーズ1976〜1977年
それまでのイメージとうってかわって、山形から上京してきた料亭板前さん役と、ナレーションで新天地を開いたショーケン主演の下町人情ドラマ。桃井かおり、ピラニア軍団のメンツなど、脚本家倉本聰の真骨頂、主役を主役たらしめないような、脇役の存在感、活躍ぶりが目を惹く。大女優田中絹代がおふくろ様として、最後の勇姿を見せる貴重なドラマ。
寺内貫太郎一家 第1シリーズ1974年/第2シリーズ1975年 TBS
これぞ昭和の頑固親父、小林亜星とその家族の、ぶつかり合いを久世光彦演出で魅せた、ホームドラマの金字塔。樹木希林がまだ:悠木千帆となのっていたころで、実年齢の倍近い老婆キンを演じた。ジュリーの大ファンという設定で、ポスターの前で身もだえするシーンが話題を呼んだ。
雑居時代 1973〜74 日テレ
石立鉄男シリーズのなかで最も華があって人気の高いドラマ。一つ屋根の下に、赤の他人が同居することで話がヒロイン大原麗子以下、脇役に至るまで個性派揃いの恋愛コメディの決定版。
探偵物語 1978年 日テレ
松田優作の出世作。それまでのハードボイルド一辺倒のイメージを覆す演技の幅で人気を博した。工藤探偵事務所を構える私立探偵工藤俊作は、黒のスーツにソフト帽とサングラスで、ベスパにまたがって街を縫うスタイルが定番だった。ライターの火力をMAXにしてたばこを吸うシーンをみんなマネしていた。SHOGUNの挿入歌も素晴らしい。
気になる嫁さん 1971〜72 日テレ
失われた記憶がよみがえる、50年前の日本の家庭事情をめぐって、ドタバタが繰り広げられる。嫁いだ先で夫がすぐに事故死するというシチュエーションめぐって、一家の長松竹の元スター佐野周二が君臨する清水家に訪れる斜陽を描く昭和ならではのドラマ。
阿修羅のごとく 1979〜80 NHK
NHK土曜ドラマで放映の6話。四姉妹による女たちの生態と戦いが絶妙に描かれる脚本家向田邦子の才能をいかんなく発揮した傑作ドラマ。ドラマにトルコ行進曲が流れるという斬新な演出もみのがせない。
岸辺のアルバム 1977 TBS
山田太一脚本のなかで、評価の高い作品のひとつ。八千草薫が不倫に走るというショッキングな設定。しかも実話の多摩川水害と平凡な中流家庭が崩壊がリアルにクロスするエンディングは、ハッピーエンドで終わるというこれまでのドラマの定石を打ち破る革命的なドラマとの位置付けにある問題作となった。
だいこんの花 1970〜77 NETTV
松木ひろし・向田邦子脚本。元海軍艦長永山忠臣役、森繁節が炸裂し、ドラマをひっかきまわすが根底にある人間ドラマが良き時代のお茶の間事情を、ノスタルジックにかき立てるストーリー。1部から5部まで基本設定は変わらず、好評でシリーズ化された。個人的には関根恵子ヒロインの2部がベスト。
そのほか・・・
- 怪奇大作戦 1968〜69 TBS ★★★
- プレイガール 1969〜75 東京12チャンネル ★★★
- 奥様は十八歳 1970〜71 TBS ★★★
- パパと呼ばないで 1972〜73 日テレ ★★★★
- どてらい奴 1973〜77 関テレ ★★★
- 俺たちの旅路 1976〜82 NHK ★★★★
- 水もれ甲介 1974〜75 日テレ ★★★★
- 奥様は十八歳 1970〜71 TBS ★★★
- 三年B組金八先生(第二シリーズ)1980〜81 TBS ★★★
- 三年B組金八先生(第五シリーズ)1999 TBS ★★★
- 熱中時代 (第二シリーズ)1980〜81 日テレ★★★
- 赤い衝撃 (赤いシリーズ第4弾)1976〜 77 TBS★★★
- ゆうひが丘の総理大臣 1978〜79 日テレ ★★★★
- 西遊記 1978〜80 日テレ ★★★
- ふぞろいの林檎たち 1983〜85 TBS ★★★
オサムとアキラ、ショーケン&豊の伝説のドラマ。アメリカンニューシネマから、東宝アクションやお色気、任侠人情等の要素が雑多に詰め込まれた、深作欣二や恩地日出夫ら、現役映画人たちがお茶の間を席巻するハードボイルドタッチの演出がまぶしい。