80年代を振り返ってみると、
一般にはバブルの時代、情報過多なメディア文化が溢れ、
サブカルを始め、ポストモダンやニューアカ(デミズム)などが
雑多なまでにはびこっており、そのどれと言って
正直、全て理解していたとは思えない。
まさに空気を感じ取っていたに過ぎない。
一言で言うと実にめまぐるしく慌たゞしい時代であったと思うのだ。
社会的な意味でも、目新しいものや
実に華やかなものに彩られた時代だった気がする。
確かに活気はすごかった。
情報もあふれていた。
そんななかを、青春真っ只中、時代の空気を吸えたことは
幸福な体験だったとは思うのだが、
それは必ずしも満足を意味していたわけじゃない。
日々、自家撞着に抗い、
子供から大人への不安定な階段の上りつめつつ
なにかを求めさすらいはじめた頃だ。
ただ、今、振り返ると、
七十年と八十年の境界を超えた意味は大きい。
それはなにかに後押しされたかのように
目の前が急に眩しく明るくなって、広くなった気がしたものだった。
かりそめの自由を手にしたからだろうか?
あまりにも時代の変化の波にについてゆけそうもなかったが、
時代の空気に身を任せれば時は流れた。
こうして80年代に知見したものが、
リアルな実体験を伴っているゆえに、強烈であり
それがまた、今の自分の花粉となっているのもまた
確かな実感なのである。
セーラー服と機関銃:薬師丸ひろ子
君に胸キュン:YMO
何より先んじていたYMOが、自ら時代に降りててきて、わざと大衆に迎合するように、わかりやすいポップミュージックをあえてやろうとしていた頃だ。何をやっても許され、またなにをやっても様になるのが、彼らの才能だった。「胸キュン」という言葉が流行っていたな。
ルビーの指輪:寺尾聰
この当時、特に好きだたった曲でもないが、耳にはしっかり残っている。曲は当人で、作詞が松本隆で、アレンジが井上鑑。今改めて聴くとこれもシティポップのくくりにはいってくるんだろうな。とにかくヒットした。きっとこの一曲だけで、普通の人が一生かかっても稼ぎ出せない額を手にしたに違いない。
ジェニーはご機嫌ななめ:ジューシーフルーツ
これはテクノポップの流れにいれていいんだろうか? と考えるも、まあ前進が近田春夫&BEEFで作曲が近田によるものだから、ニューウエイブのくくりでもいいのかもしれない。ともあれ、このグループと曲が当時テレビ的ウケがよかったのは間違いない。キュートだったな。
い・け・な・いルージュマジック :忌野清志郎+坂本龍一
資生堂のキャンペーンテーマ曲がこれだった。
清志郎はもちろん、教授もまたとんがっていた時期だ。
ロックとテクノ〜ニューウエイブの、コマーシャリズムを逆手にとった婚姻関係の帰結は、札束の嵐、教授と清志郎のキス、なんとも扇情的で、八十年代のなんでもありな空気を代表している。
恋人よ: 五輪真弓
当時は、実に歌謡曲のチャートは色とりどりだったけど、ぼくにとっては、その人がシンガーソングライターか否か一つの区別だった。自分で曲を書き、自分で詞を書いて歌えるのが本物だと。そんな意味で、五輪真弓には歌もうまかったし、「和製キャロル・キング」と呼ばれるだけの才能を感じた。
そして僕は途方に暮れる: 大沢誉志幸
すすんでアルバムを買って聴いたりした覚えはないけど、このあたりのポップセンスは嫌いじゃなかった。とくにこの曲にはセンスも感じる。このシングルではクリムゾンのトニー・レヴィン、エイドリアン・ブリューが参加していたのも驚きだった。大沢誉志幸はアイドルたちに楽曲を提供したり、プロデュースもやっていた。
不思議なピーチパイ:竹内まりや
資生堂のキャンペーンソングで、作詞安井かずみ、作曲加藤和彦の黄金期コンビによって売れるべくして売れたヒットナンバー。竹内まりやの存在を世に知らしめた曲で、こののちに、山下達郎共々、公私のパートナーとして充実期を迎えることになる、これはその予兆だったのだろう。
ダウンタウン :EPO
土曜日の夜八時、といえば、なんといっても「おれたちひょうきん族」。それまでのドリフ人気からのお笑いニューウエイブ番組が人気を誇っていた。あのシュガーベイブの名曲「Down Town」がエンディングに流れていたのが土曜の夜の恒例だった。歌っていたのがエポで、この都会的なセンス、空気感がテレビにおける七十年代と八十年代の違いなのだろうと思った。
Ride on Time :山下達郎
日本のシティポップといえば、この人山下達郎が先駆けなのはいうまでもない。当時はあんまり達郎の音楽を聴いていなかったけど、やはり、肌感覚で達郎節はいたるところに残っている。この曲はたしか、マクセル UDカセットテープのCMソングだったのかな。夏が来るとやっぱり、聴きたくなる。海を見ると思い出す。そんな曲だ。
同時代のアイドル歌手には全く食指が伸びなかったのだが、角川映画でデビューした薬師丸ひろ子は嫌いじゃなかった。純粋な歌手ではなかったし、決して歌もうまいとは言えない中、映画「セーラー服と機関銃」のヒロインとしての印象と、その雰囲気に魅力を感じていた。まっすぐな歌い方はその正確に由来しているのか、映画の挿入歌ならではの魅力を称えていたと思う。