クイーンと映画『ボヘミアン・ラプソディー』をめぐって

QUEEN

今更だけど、君は僕のクイーン

遅まきながら、数年前から、自分の中に
クイーンブームがやって来ている
映画『ボヘミアン・ラプソディー』は
まさにタイムリーな体験だった。
もちろん、これほど息の長い歴史的なバンドで、
知らなかったわけでもないし、
中学校のときに、三歳上の姉が熱狂していたのを肌で知っている。
以来、無視していた訳ではないにせよ、
中途半端に聞き散らかしていたんだと改めて思ったが、
こうして面と向き合ってみると、その素晴らしさを
はっきりと自覚できた。
ママ、これは便乗や気まぐれなんかじゃないんだよ。

とりわけフレディ・マーキュリーの魅力が、
まるで堰を切ったようにわっと押し寄せてきた。
なんだろうか、この感情は。
死後三十年近い月日が流れようとしているのに、
フレディが愛おしく感じてしょうがないだなんて!

今更にクイーンのナンバーに耳を傾けると
とにかく楽曲のクオリティが高いのに驚く。
なかでも『Bohemian Rhapsody』っていうのは
改めて名曲だなあ、これは心から感じたことだ。
七十年代半ばのブリティッシュロックはというと、
グラムだのパンクだのの、実に雑多で自由な風が吹き荒れていた時代だ。
そこに、ロックにオペラを導入するんだからさ、
などと暢気に構えていた自分が恥ずかしくなるぐらい、
歌詞をじっくりと味わってみると、こりゃあ凄い内容だったんだな! 

なにしろ通常のポップミュージックの領域で
耳にすることのほぼないといっていい、
スカラムーシュだのガリレオだのフィガロだの、
といった、あたかもイタリア歌劇に見られるような名前の人物達が登場し、
新約聖書などに登場する悪霊のベルゼブブによって
人生が翻弄される少年の運命を歌っているのですからね。

要約すると、心が不安定で多感な年頃の少年が
悪霊にとり憑つかれてしまったあげく、
過ちから人を殺めてしまい、お母さんにその嘆きを告白しながら、
もがきにもがいて生きる方向性を探し求めるのだが、
ついにその悪霊からも見放されるという、
人生の破綻の物語を悲劇的に描いた一大叙情詩なんですねえ。
まさに文学的なロックオペラに、心からブラボーと叫びたい気持ちにさせられ、
この素晴らしい世界観、才能に感嘆してやまないのです。

自分がクイーンに対して、なんかずっと違和感のようなものを引きずっていたのは、
あの個性的なフレディの外見や、メロドラマチックすぎる唱法や
過剰なパフォーマンスへの先入観だったんだなと、
今更ながらに思って、随分損をしていた自分をちょっぴり後悔している。
でも、変にクイーンやフレディを盲信してこなかった分、
今、純粋な音楽体験としてクイーンを聴くことが出来る気がして、
それはそれでいいんじゃないかな、とも思う。
いまの若い人たちが偏見なしにクイーンの音楽を聴き、
はまっていくのと全く同じことだからだ。

普段次から次と音楽を聴きすぎていると、
得てして先入観だけで、善し悪しを判断しがちなところもあるし、
存在が身近すぎて、じっくり聴くことがなくなってしまう。
こんな素晴らしい音楽もまだまだたくさんあるよなあ、
そう理解することは大切なことだと思う。

ただ、ブライアン・シンガーによる映画でのクイーン物語が、
短絡的とまではいわないが、やはり、
二時間程度で語り尽くせるはずもなく、
そんな薄っぺらい歴史ではないんだろうなとは思う。
でも、これをキッカケにクイーンを好きになるというのは
ステキなことだし、映画も俳優たちの演技も、
なかなか良質なものだったように思える。

フレディという人間を、クイーンというバンドを、
だからといって全て理解できたとは思わないけど、
素晴らしいバンドだったんだなあ、という感慨が湧いている。
フレディとメンバー間との絆にもグッとくるものがあった。
そして、あんなに人々を熱狂させるエネルギーを、
フレディ・マーキュリーという人は、
惜しみなく与えてくれていたんだという感動を
どう伝えたらいいのか。

ゲイだとか、バイセクシャルだとか
そんなイメージだけが先行して、
ちゃんとその魂に触れないのはバカげているよな、うん。
フレディ、あなたの偉大さをいまひしひしと感じているんだよ。
ありがとうフレディ。ありがとうクイーン。
そして、ありがとう映画『ボヘミアンラプソディー』に関わった人たち。 

ところで、フレディって人は随分面白い経歴をしているなあ、
という素朴な感想を記しておきたい。
インド生まれの両親の元に生まれで
ザンジバル島生まれたペルシャ系インド人(ゾロアスター教徒でもあった)として
イギリスに移り住んで、そこでまずは
アートスクール出身のグラフィック・デザイナー(自称イラストレイター)で
古着屋をやっていたこともあった。
愛猫家であったことなんかも付け加えると、
自分のなかでどんどんとフレディへの親しみが増殖していく。
そんなフレディが志し半ばで、やっぱり45歳の死は若すぎる。
けれども、その生き様や内容は十二分に色濃いものだから、
何も嘆くまでもないか。

最後に、クイーンは当初イギリスで火がつかず、日本で火がついた、
いうなればそのビジュアルから人気が出たアイドルバンドの走りだった
ということは言っておくべきか。
当時は日本のメディア(ミュージックライフだの、ロックショウだのがその代表だ)が
それこそあたかも古着の買い付けのように、
日本で人気の出そうなバンドを雑誌で大々的に紹介することで人気が爆発し、
当国へ戻って不動の人気を博すようなバンドがけっこういたと思う。
クイーンはまさにその元祖的存在で、ベイシティーローラーズやジャパン、
チープ・トリック、キッスあたりまでは、そういった扱いを受けていた。
だからといって彼らの音楽性がひよわでチンケなものかといえば、
全くその逆で、彼らは元々高い音楽性を兼ね備えていたからこそ、
後々の素晴らしい音楽活動へと繋がっていったということを忘れてはいけない。
ただし、その熱狂ぶりは異常なもので、純粋な音楽への愛を越えた、
過剰なまでのムーブメントのようなものであったこともまた否定できない。
もちろん、その大半が十代の若い女子が占めていた。
かくいう自分も、そうした空気に圧倒されて、
純粋に音楽だけを聴き入るということができなかったのだが、
別の意味で日本の女子たちの底力、眼力を垣間みた気がしている。

PS.クイーンの話題を書いたつもりが、
結局はグダグダとフレディ讃歌に終始してしまったが、
それはバンドとしてのクイーンに魅力がないという意味では当然ない。
他のメンバーについて語るだけの十分な知識が無い以上、
適当に書くのも気が引けるというだけのことだ。
曲に関してはあとで追記する。

最後に、クイーンのことばかり書いてきたが、
映画についても触れておこう。
監督のブライアン・シンガーについてはよく知らないが、
映画自体は、とくに悪いとは思わない。
ただ、あまりにも、強烈な個性のモデルがいるために
なかなか、客観的に、映画を分析したいとは思わないということだ。
好きか、嫌いかでいうと好きだ。

フレディ役のラミ・マレックに関しては
オーディションで役を勝ち取り
この映画を成立させるに大いに貢献したとは思うけど、
それは、単に似てる、似てないだけではなく
移民という共通のルーツ体験をもっているのも大きい。
つまり、役作りに真摯に向き合って、
フレディという人物像への愛と献身に努めたという、
その成果が十二分に伝わってきた。

その意味ではイミテーションでもイロモノキャラではない、
正真正銘の俳優魂を見せられた気がして、好感をもった。
とりわけ、『ボヘミアン・ラプソディ』の
ライヴ・エイドでのシーンの、フレディの一挙手一投足に
その情熱の成果を見た気がして、感動的だった。
まあ、この映画を離れて、フレディ以外の役をやるラミ・マレックを
いまのところは想像できないし、下手な監督に
うまく利用されずに俳優の道を突き進めるかはわからないし、
いまのところ、それ以上のことは言えない。
いずれ、気に入った映画のなかに
たまたまラミ・マレックを見つけたら、その時また
彼のことを書いてみよう。

QUEEN、名曲以外の名曲館を訪ねて

個人的な趣味で、好きなアルバムでいうと
やっぱり「Bohemian Rhapsody」が入っている
A Night at the Opera (邦題:オペラ座の夜)』ってことになるし、
そのほか、『Sheer Heart Attack』なんかも悪くない。
で、初期の代表曲「Killer Queen」や名曲「Somebody to Love」や
中期の「We Are The Champions」「We Will Rock You」、
ボウイとのデュエットソング「Under Pressure」、
そのほかや「Radio Ga Ga」・・・もうきりがないぐらいに有名な曲がたくさんある。
そんな曲は、とりあえずおいておいて、
そのほかにもいい曲がいっぱいあるから、
そんな中から、さらにお宝を求め探ってみよう。
もちろん、独断と偏見だから、ここに一貫性なんてない。
思いつきでならべてみた。

Brighton Rock from『Sheer Heart Attack』

実にドラマチック。男声・女声を使い分けるフレディ。津軽三味線みたいなカッティング、ソロでジミヘンギターを弾きまくるブライアン、エネルギッシュなロジャーのドラミング。
ロックバンドクイーンを最大限に誇示する曲。当時僕がロック少年だったら、はまっていたのかもしれないが、良さが判るまでは時間を要した。
この曲の良さを改めて実感したのはエドガー・ライトの『ベイビー・ドライバー』のサントラに使われ、劇場で爆音で聴いたからだ。ロックの疾走感は、人を昂揚させるんだな。

 Crazy Little Thing Called Love from『The Game』

うまいんだか、ださいんだか? 邦題:「愛という名の欲望」は、プレスリー賛歌ともいわれるが、軽妙洒脱なナンバー。アメリカでもイギリスでも大ヒット。そんなに金のかかっていると思えないプロモビデオにバイクと美女と戯れるフレディがアメリカングラフィティよろしくキメてくれる。

 Dragon Attack from『The Game』

名曲かどうかは分かれるところだろうが、
この曲のベースラインはクイーンのなかでも
ベスト5に入るぐらい格好いいのだ。
そういえば「Another one bites the dust」のベースも捨てがたいけど
ブライアンによる「Dragon Attack」には、
ドラッグソングとしての不思議な高揚感が伴うのか、
隠れた効能が潜んでいるのかもしれない。

39 from『A Night At The Opera』

アクの強い曲が多いクイーンのなかで、カントリーのようにそぼくで楽しい雰囲気のアコースティックナンバーで、ブライアンがボーカルをとっている。珍しくジョンがアコべを弾いている。映画『ボヘミアンラプソディー』では日本公演でのこの曲のシーンも挿入されていたらしいが、結局カットされたんだとか。

The Millionaire Waltz from『A Day At The Races』

「ボヘミアン」ほどのインパクト、知名度はないにせよ。構成、展開、なかなか面白い曲「The Millionaire Waltz」にも、フレディの天才ぶりがうかがえる。隠れ名曲ということになるだろうか。エルトン・ジョンのマネージャーでもあり、当時のマネージャージョン・リードのことを歌っているといわれているが、曲調は春の訪れを祝福するかのように希望にみちた感じがする。相変わらず、実にドラマチックだな。

 Good Old Fashioned Lover Boy from『A Day at the Races』

5thアルバム『A Day at the Races』からの一曲。フレディーがピアノを弾いて歌う名曲はいっぱいあるけど、僕が特にこの曲が好きなのは、ウーラ、ウーラ、とのコーラスにあるように、ずっと憧れていた良きイギリスのノスタルジックな感じがするからだろうな。

 Body Language from『Hot Space』

ファン間でも、さほど支持されているとはいえない1982『ホット・スペース』からのシングル。内容はゲイ・アンセムなのだが、クイーンにしては、というか、フレディにしては実にクールで
シンセベースのにはじまるトーンが新鮮に響いてくる。

In the Lap of the Gods… Revisited from『Sheer Heart Aattck』

『Sheer Heart Aattck』のB面の最初と最後に、奇しくも同じ曲名の曲が入っている。それがロジャーのファルセットヴォイスで始まる「 In The Lap Of The Gods」と「 In the Lap of the Gods… Revisited」だ。「神々の業」という邦題がついているが、どちらも甲乙つけがたく、うまく陰と陽が振り分けられえている。が、別々の曲なので、当時のライブのクロージングナンバー「Revisited」このスローバラードの方をあげておく。

クイーンってほんとすごいバンドなんだって改めて感じるんだけど
実に中身の濃い曲が多くって軽く流すってことができない。
聴いているだけで、グッと疲れてくるからやになっちゃうな。
もちろん、褒め言葉なんだけどね。

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