デキる男は指上手
女の人は男の指に惚れるというが、
男だって、女の指には何かと目が行くものだ。
『白い指の戯れ』か・・・
う~む、なんともシンプルだけどスマートで素敵な響きだこと。
何よりそのあたり、イメージがすっと浮かぶ。
北園克衛あたりのグラフィカルな詩を想起してしまうからか。
実にかっこいいのだ。
これが日活ロマンポルノのラインナップに
目に留まるのだから、観ない手はない、
それが僕をこの映画と対面させた理由だ。
いわば直感的に観てみたくなった作品だが、
監督は村川透、デビュー作である。
日活ロマンポルノで残した唯一の作品で
のちに『死亡遊戯』や『蘇える金狼』『野獣死すべし』と言った
ハードボイルドタッチの映画を撮る監督になる。
でも、どちらかと言うとテレビドラマでよく
その名前を聞くようになった監督で、
それは、松田優作とのコンビで一世風靡した
『探偵物語』なんかが最たるもので
今でも強く印象に刻まれている。
みていると、どうりでのちにテレビでみたようなカットや演出の
その萌芽がすでにみて取れるのだ。
だが、こちらは紛れもない映画だ。
テレビじゃここまではやってくれない、と言う演出が満載、
スタイリッシュで、刺激的だ。
ここでは、渋谷や新宿といった慣れ親しんだ街並みが
70年代のわい雑さの中にしっかり写り込んでいる。
だから、すんなり入っていける。
要するに、アメリカンニューシネマタッチのポルノ、とはいえ、
ねちっこいエロス描写がない。
明るいポルノと言うわけでもないが、
これが70年代当時なら、テレビで堂々放映されていても
なんら不思議じゃない程度のエロさだ。
つまりは、時代をちょっと先取りした感覚に溢れた作品として、
日活ロマンポルノでは、いささか異質な感じも受ける。
村川透にはこのままの路線でポルノを開拓していってほしかったなあ、
なんていう思いが、つい込み上げてくる作品だ。
ヒロインゆき役は、伊佐山ひろ子。
確かに若いが、特に美人と言う訳でもないし、
田中真理みたいにスタイル抜群で美しい肢体を見せつける女優でもないが、
なんだか、記憶に残る女だ。
正しくは、貼りつく、という方が正しいかもしれない。
そう思っていたら、同年に撮られた神代辰巳の『一条さゆり 濡れた欲情』での
ストリッパーさゆり役はすごかった。
あるいは『女地獄・森は濡れた』で、これでもかこれでもかと
サディズムの洗礼を浴びる女幸子しかり・・・
藤田敏八の『エロスは甘き香り』なんかも実に雰囲気があったな。
もともと、劇団出身で、その先輩にあたり、
本作にも刑事役で出ている粟津號からのご推奨で
アルバイト感覚で、始めた作品でもあると言うのだが、
たまたま脚本が神代辰巳で、その流れで
一気に彼女の女優魂に火をつけて、
一躍演技派女優として、駆け上がってゆくことになるのだが、
ここは記念すべきデビュー作でもある。
そんな伊佐山ひろ子によるコケティッシュさが実にそそる。
どこか生意気で、それでいて一つ一つが実にフェミニンな女優なのだ。
その相手が、これまた一癖二癖ある俳優荒木一郎である。
レイバンのサングラスをかけ、
常時クールにスリの常習犯グループのリーダー格を演じているが、
これは日活ではないが、東映での中島貞夫の
『ポルノの女王 にっぽんSEX旅行』なんかの三枚目風を演じたほうが
どちらかといえば好みだったが、これはこれでキマっている。
こうしてみると『白い指の戯れ』での荒木一郎が、不思議と
『勝手にしやがれ』のジャン=ポール・ベルモンドや
『俺たちに明日はない』ウォーレン・ベイティあたりの
ちょいワル感がかい間見えてくるのだ。
普通に、ちょっと背を伸ばせば届くような加減がいい。
それにハマってゆく伊佐山ひろ子との絡みもバッチリだ。
仲間たちと大きな仕事をした後に、隠れ家のベッドで愛を交わす二人。
伊佐山ひろ子の洋服を、いかにも手馴れた手つきで
タバコ片手にブラのホックを外し、
その甘美な肉体をあらわにしてゆくゆく荒木一郎の男っぷりに思わず釘付けになる。
そんな時に、「女に生まれてよかった」なんて言うセリフを
女自身の口から囁かせるシーンがなんともかっこいい。
その後、荒木一郎から伝授されるスリの手口を
男がいなくなった後に、裸で練習する伊佐山ひろ子も実に愛おしい。
監督は村川透だが、脚本神代辰巳の世界が随所に忍んでいて
それがこの作品をさらに愛おしい次元へ押し上げているのかもしれない。
男と女の睦みごとに、大島の『日本春歌考』を思い出さずにはいられない、
「ドンチャカ足あげた、あーこりゃこりゃ」云々カンヌン、ってな春歌が流れれば
荒木一郎のお家芸、ギター片手のバッカジャナカロカ・ルンバから
一気に阿波踊りへと展開するアヴァンポップな浴槽泡まみれの乱行模様なんてのは、
あのゴダールも、若き日のベルトルッチも真っ青の目の覚めるシーンだ。
そんな風に、随所に心鷲掴みされる映画だが、
日活ロマンポルノと言う制約の中で、目一杯に弾けた青春群像が描かれている。
話としては、この白い指が、肌を這う官能的な指と言うだけでなく、
つまりは、スリという仕事ワザという二重構造の中の戯れを誘導するものであり、
そこに、男と女のスリリングな恋事情が絡むといった流れは
ロマンポルノらしからぬ展開だとも言えなくもないのだが、
こう言うのを見ると、少々裸の絡みがあろうがなかろうが
男の一本槍な単純な欲望が、果たしてこの程度のエロで
どこまで満足できるのかなどと思うが、
エロティシズムなどを超えた次元で考えると、
男からすれば、都合の良いバカな女に見えるであろうこのヒロインに
「うんわかる、わかるわ」なんていう
女の同調の声がどこからともなく聞こえてきそうだし、
そんな女子の感性の方によりヒットする映画なんだろうなと思うがどうだろう。
荒木一郎/自選ベスト15 いつか聴いた歌
昨今は、海外からも随分熱い視線を浴びる日本のシティポップ。
久々にじっくり荒木一郎を聴いて、ここにも十分な土壌があるな、
そう思わずには入れない。
こりゃあ俳優荒木一郎の方ばかりにうつつを抜かしている場合ではありませんぞ。
そんな当人自ら選曲した15曲入りCDは改めてその才能のほどをうかがわせる。
もともと、大のジャズマニアでもあり、ドラムを叩いていた時期もあるほどの音楽通。
それでいて、楽曲センス抜群なのだから、いやはや、おそるべき才能の持ち主だこと。
俳優業や歌手業だけではなく、幅広くカルチャーを網羅した
まさに昭和のマルチな遊び人。
モテないわけがないよな、なんて改めて思うのであります。
いいな、荒木一郎、よっ、色男!
洒脱で大好きなナンバー「ジャニスを聴きながら」で
改めてリスペクトをしておこう
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