ジャンルで音楽を聞く習慣のない自分は
無意識のうちにブランドやイメージでなら
ちゃんと体系化して聴いていることがあることにふと気づいた。
つまり、ジャズがききたいのではなく
ズバリECMの音楽が聴きたいのだと。
そういうことだ。
実際に、いまやジャズなんていうくくりでは
収まりきらない素敵な音に満ち満ちている。
その個性は他の追随を許さないほど強固であり厳格なのだが
ある意味とてもシンプルである。
そこに行き着いてしまう感性はというと
なんといっても替えの利かない音楽だからであり
ECMの音には絶対の美学が宿っているからである。
それは一つのブランドしか着ない
おしゃれな感性と同じような気がする。
すべてのECM音源が自在に拝聴できる素晴らしい時代に
ふたたび、この特筆すべきサウンドカラーを
発信しつづける豊穣なライブラリーから
新たな発見をする前に、
自分なりに過去聴いて来たECMレーベルの
少ないコレクションのなかから
自分好みの音を今一度再認識しておく意味でのベスト
コレクションをまずここに挙げておきたいと思う。
音買いセレクション(ECMシリーズ)其の壱
The Köln Concert:Keith Jarrett
ECMが排出したアルバムのなかでもっともポピュラーで
もっとも売れたアルバムの一枚である。
キース・ジャレットの生のリリシズムは単なる静謐から
ひしひしと伝わる情感を携えたライブ盤ならでは息吹が宿る。
クラシックでもジャズでもない魂の旋律が記録されている名盤。
まずはこの一枚から入るのもいいかもしれない。
As Falls Wichita, so Falls Wichita Falls: Pat Metheny
パットとライル・メイズの共同名義の一枚。
数多いパットのリーダーアルバムより
この二人名義の絶妙なハーモニーに支配された強力な一枚を支持したい。
カンサス州ウィチタがテキサス州ウィチタ・フォールズにかけられ
二人の奇跡の邂逅を祝うかのような素晴らしい出来を披露している。
The Following Morning: Eberhard Weber
10枚ものリーダーアルバムがあり
ECMを代表するベーシストの一人。
エレクトリック・ダブル・ベースの太く、濃く、暖かく、
そんなメロディアスなベースの音が印象的で
エバーハルト・ウエーバーのなかでもミニマル志向の強い一枚、
個人的にもっとも好きな一枚でもある。
SOMEWHERE CALLED HOME:NORMA WINSTONE
ジャケットの世界そのものの静謐な音。
まさに北欧の空気感に溢れた美しい音が聴ける。
優雅で気高いノーマ・ウインストンの声。
公私に渡るパートナージョン・テイラーのピアノもまた素晴らしい。
Dolmen Music :Meredith Monk
メレディス・モンクというのはECMならではの人選だと思う。
ミニマルな現代音楽のなかに
狂気を孕んだメレディスの声が
魂の奥底から聞こえてくる名盤だ。
このアルバムは個人的にECMベスト3には入れたいほど大好きな一枚。
Man in the Elevator (Der Mann im Fahrstuhl) :Heiner Goebbels Goebbels/Muller
ECMにしてはめずらしいアヴァンギャルドなアルバムで
ボーダーレスな音楽活動を展開して来た
ハイナー・ゲッペルズのアルバムを取り上げよう。
ロックファンならあのヘンリー・カウの元メンバー
といえば親しみがわくかもしれない。
そしてこのレーベルでアート・リンゼイのギターや声が聴けるなんて
なんという懐の深さなのだろうか。
Cloud About Mercury:David Torn
ECMに何枚かリーダーアルバムを残す
デヴィッド・トーンとマーク・アイシャムに
ビル・ブラッフォードとトニー・レヴィンのクリムゾンのリズム隊が加わった
これまたECMには珍しくロック〜フージョンチックな
サウンドスケイプが構築されているが
そのどちらでもないECMとしての音が聴ける
ものすごく野心的な一枚だと思う。
Avant Pop: Lester Bowie’s Brass Fantasy
ブラス音楽ブームというのがあるのかどうかは知らないけれど
一時そういう音楽を聴き続けたこともある。
中でもアート・アンサンブル・オブ・シカゴのメンバーである
レスターのリーダーアルバム。
文字通りのファンタスティックなブラスワールドが大好きだ。
Andina: Dino Saluzzi
ECMの中でも好きなミュージシャンの一人サルージ。
アルゼンチンタンゴの流れを汲む音楽。
バンドネオン音の中にある郷愁とイマジネーションの広がりが
こんなにも豊かで、情感溢れる物語を紡いでゆくのだ。
ピアソラにある官能性とは違った
元素的な音の広がり、土着性がある。
Cello: David Darling
ジャン・リュック=ゴダールの映画に使用されて
そこからダーリングの音にはまってしまったのだが
とにかく、ダークで深い。
まさに、森のような音楽がチェロという楽器によって
奏でられるアンビエント性が染み渡る。
しかもECMでの録音にある音の残響で
イマジネーションがさらに深みが増している。
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