フェルナン・レジェという画家

Fernand Léger
Fernand Léger 1881-1955

軽さの運動力学、ポップ・アートのレジェンドに乾杯

フェルナン・レジェという画家の名前をだしてきて
いまどき、どのくらいの共感がえられるのかはわからないが
レジェの絵から受ける躍動感はさすがだと思うし、
現代でも通用するポップな精神性が脈々と宿っている。
けして古めかしくもないし、わるくないものだ。

そのスタイルはピカソやブラックのキュビズムに影響を受けながら
モンパルナス周辺にてシャガールやモディリアーニなどと
二十世紀初頭のパリの空気感のなか
共同住宅兼アトリエ「ラ・リュッシュ」で互いに感性を磨きながら
躍動的なゲイジュツ運動に荷担していった
時代の息吹を端々に感じさせる画家である。

版画のように太く明確な縁取り、鮮やかな色、フォルム
オブジェクティブで記号のような機械造形がちりばめられ
今時のイラストレーションのなかにも
その影響がどこか顔をのぞかせるようなものに
しばし出くわすことがあるほどだ。
まさにポップアートの走りとしてのレジェ
すなわちLéger(軽さ)の美学がそこかしこにあるのだ。

だが、レジェの価値、評価は絵画だけにとどまらない。
1924年、映画作家のD・マーフィーとともに制作した
『Ballet Mécanique』という短編の実験映画を残しているレジェ。
マン・レイが撮影とトリックで参加し、ジョージ・アンタイルが音楽を
それぞれに斬新なスタイルでサポート。
その先見たる時代の未来的な視線はクローズアップへの固執と
機械文明へのオマージュ満載
物質の運動性をいち早く映像で強調した先見性にある。

ジガ・ヴェルトフによって記録された
映画史における重要な作品『カメラを持った男』が撮られたのはこの五年後である。
その瑞々しい映像による連続性、運動性を『Ballet Mécanique』はモンタージュする。
100年前の出来事には思えない、まさにモダンな喧騒がある。
だが、このまま映画を続けずに、絵画の可能性を追求し
ポップアートの先駆けとして名をはせたレジェ。
まさにポップ・アートのレジェンドと言っていいかもしれない画家だが、
その精神性の強いメッセージが動きをともなって快楽を増してゆく。

Ballet Mécanique、機械文明への歴史的高揚感の系譜

シナリオも筋書きもへったくれもない世界。
意味などない。ただイマージュの洪水が続く。
これが1920年代の実験映画というやつだ。
女性のモデルは、一時マン・レイのモデル兼恋人だった
通称キキ・ド・モンパルナス(モンパルナス界隈の画家達のミューズだったことから)
ことアリス・プランで、この映像からのカット写真はマン・レイの作品にも登場する。
途中、音楽を担当したドイツ系ユダヤ人のアメリカ人作曲家
ジョージ・アンタイルが一瞬顔を出している。
アンタイルは自ら「音楽界の悪ガキ」を自認していたほどの人物だが、
そのジョージ・アンタイルの音楽は、これぞ前衛映画の伴奏になっている。
サイレンの音やプロペラエンジンの音などが伴奏に組み入れられ、
映像の運動性のアクセントとして効果的に使われている。
これは、1917年に催されたバレエ『パラード』でサティが試みたスタイルからの影響もみてとれる。

Ballet Mécanique:上野耕路

実験映画のスコアとなると、この上野耕路版は王道だ。 1985年にその名も「Music For Silent Movies」というアルバムに収録されている

Ballet Mécanique – Ryuichi Sakamoto from Playing the Orchestra 2014

全く同時期、教授も1986年の『未来派野郎』のなかでこの「Ballet Mécanique」という曲を作曲している。
こちらはマリネッティの未来派というアルバムコンセプトをダイレクトに反映させているが、レジェの映画以上に、現代的であるものの、レジェのもつ指向性、つまりはポップ指向を見事に昇華した楽曲といえるかもしれない。ボーカルパートが入って居るので、これはこれで独立したポップミュージックとして聴くこともできるが、このオーケストレーションをフィーチャーしたバージョン聴けば、この曲の良さ、本質がが理解できるかもしれない。

Ballet Mécanique :やくしまるえつこ & 砂原良徳

こちらは劇場版アニメ「ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」の挿入歌として、坂本の原曲を、ほぼ忠実にカバーしたバージョン。アレンジはマリンこと、砂原良徳、ボーカルはやくしまるえつこ。ここまでくると、レジェの実験映画の残像は完全に消えさってしまうが、100年前に夢見た機械文明への高揚感の変遷が、時代を通じて進化する一環として捉え直すのも面白いかもしれない。

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