昭和に花咲くお茶の間ドラマツルギー(CM編)

サントリーロワイヤル 1983
サントリーロワイヤル 1983

モノを売り、収益をあげるのが企業の本質だとすれば
いかに、効率よく、大衆に宣伝し、印象付けて購買に結びつけるか、
と言うのが命題であるのは、当然のことである。
その最も有効で、影響力を誇ってきたのがテレビ下でのコマーシャリズム
つまりCMというものであり
いつからかスポンサーありきのセットで成り立つメディアとして
長年、お茶の間を洗脳して来たことは間違いなく、
その是非は置いておいて
わずか15秒に込められたコマーシャルメディアと言うモノに
時代が反映されているのもまた、当然である。

まだ、自分自身、テレビに可能性や娯楽性を許容していた頃は
弊害など考えるまでもなく
さほど、疑いもなく、自ずとこのCM文化に浸っていた。
その中で、個人的に、印象に残っているモノ、
忘れ難い懐かしの映像をここに拾い集めて見た。
とりあえず、ここでは昭和を一括りにした中から、
10本程度を選んでみたが、
正直、その企業や商品に特別な思い入れがあるものはほとんどない。
その映像に込められたメッセージ性、というものにも
どれほど意味があるかはわからないが、
何某かの琴線に触れたことは間違いないし、
その中で、自分が好む人物、音楽、そしてコピーなどが
ひとつの一つの映像芸術として、成立していることに
改めて感動を覚えている。

わが15秒の懐かしズーム、マイヒットチャート

資生堂CM 口紅「初恋」

帰宅中に、偶然の出来事に恋に目覚めた少女のときめきを、セリフなく映像だけでみせてしまう資生堂の口紅のCM。この実相寺昭雄演出は、カンヌ国際広告祭グランプリ受賞しているほど出来がいい。少女は当時17歳。当然高校生だった薬師丸ひろ子がそのままセーラー服で出演している。クラッシックに造詣の深い実相寺はウルトラシリーズでも再三、その片鱗をみせつけたが、これはその凝縮版で、ショートフィルムとしても十分成立している。

サントリーロワイヤル  ランボー編

記憶を弄って、この一本と言われれば、真っ先に浮かぶのがこれだ。お茶の間にフランスの詩人ランボーが登場した衝撃がここにある。映像、音、コンセプト、どれをとっても、当時の自分はまさにこんな世界にどっぷりとハマっていたものだ。別段ウイスキーを嗜んだこともなかったし、アルコールそのものにさして興味もなかったこともあるが、サントリーのCMには随分と触発されたという確固とした記憶にささえられている。とりわけ、このシリーズはとても素晴らしく、次のガウディ編もランボー編に負けじ劣らぬ傑作だったと記憶している。音楽はマーク・ゴールデンバーグ。

国鉄 いい日 旅立ち」

莫大な累積赤字を抱えていた国鉄(今のJRの前身)の 「いい日旅立ち」キャンペーンCMは、日本旅行と日立製作所、両スポンサーにちなんで「いい日旅立ち」と銘打った、ディスカバージャパン流れの企画である。「ああ、日本のどこかに、私を待ってる人がいる」と、山口百恵の歌う「いい日 旅立ち」の前に国民の感情が煽られたというのは大げさかもしれないが、まさに昭和の面影のあるCMだ。ちなみに、映像の「くろしお号」は、京都・大阪と南紀を結んでいる特急で、ぼくの記憶では、当時はまだ天王寺駅 – 白浜を結ぶ関西ローカルの特別急行列車だったと思う。

サントリー レッド・オールド

おそらく、一定のおじさん世代にはたまらないのが「少し愛して。長く愛して」の名作CM。ヒロインは昭和の美女代表といっていい大原麗子。しぐさ、表情だけで見せてしまう。さすがである。演出はあの名匠市川崑だというからなるほどである。なにもかもが一流の仕事によって、今なお色褪せない記憶に刻まれるこのサントリー レッド・オールドシリーズは、これからも語り継がれていくのだろう。

サントリーウイスキー 角瓶 

なんといってもクラウトロックの雄カンのリーダー、ホルガー・シューカイの名曲「ペルシアンラブ」がCMに使われたという感動がなんといっても大きい。舟を漕いでいるのは三宅一生。それにしてもサントリーのCMは目のつけどころが違うとおもった。とりわけ、この当時のものは文句のつけどころがなく、ハイクオリティなものが多いと記憶する。

マクセル カセットテープ

芸術は爆発だ」という言葉のインパクトだけが一人歩きして、当時は絶えず「変なおじさん」的に扱われていた岡本太郎だったが、今見ると貴重な時代の刻印がしっかりと押され、本人のメッセージがこれ以上なく、ダイレクトに伝わってくる。ちなみに、ピアノも堪能だった太郎が直接ピアノを弾いているところに価値がある。

TDKビデオテープ

「15分もあれば、誰でも有名になれる」と言ったのはポップアートの巨匠ウォーホルだが、その張本人が、日本のCMに出ている、ということで、当時話題になった。テレビコマーシャルとウォーホルの組み合わせほどしっくりくるものはない。「イマジンを刺激する」というコピーは、いかにも八十年代的な雰囲気を代弁している名コピーといえるのだが、やはり、ウォーホルのインパンクトにはかなわない。

AGFマキシム

AGFマキシムのCMから。流れる曲は井上陽水の「エミリー」の英語バージョンの一節だが、完全版は聴いたことがなく、おそらく、公式には存在せず、このCMのためにのみ使われたのだろう。ブルーモノクロームの映像にセンスを感じるし、なんといってもデヴィッド・バーンの存在感がすごい。

サントリートリス「雨と子犬」篇

「元気で、とりあえず、みんな元気で・・・」なんと素敵なコピーだろうか。今見ても名作だ。京都の街並みを、一匹の子犬がただ走り回っているだけの、わずか15秒の物語なのに、ぐっと心をつかまれてしまう。いい時代だったとひとことですますにはもったいない。
「ダディダディダディダ」というスキャットは、菅原進の「琥珀色の日々」という曲のメロディが使われていて、これもまた素晴らしいと思う。

ANA ANA’s China 紫禁城ロケ編

全日空 ANA’s China 紫禁城ロケ編のCMで、このあたりを覚えている人は、一部のマニアしかいないだろうが、モデルがチャイナ服をバッチリ決めたDIP IN THE POOLの甲田益也子で、音楽がキング・クリムゾンの「ポセイドンのめざめ」という奇跡が重なったことで、胸が高ぶった記憶がある。残念ながら中国には一度も行けていないのだが。十分にエキゾティシズムをかきたててくる。

TOTO ウォシュレット

今でこそウォシュレットが当たり前の時代になっているが、この当時は画期的で実に目新しかった。ニューウエイブの女王たる戸川純がまだ、頻繁にテレビやドラマに出ていた頃のCMで、仲畑貴志によるキャッチコピー「おしりだって洗ってほしい」とともに、お茶の間に衝撃を与えたエポックメイキングなCMだったのた。

こうして、みてみると、やっぱりアルコール関係の、
とりわけ、サントリーのクオリティの高さが目立っていたな。
それと、やっぱり、アーティストたちの顔の圧がすごいということだ。
CMだから、もちろん、映像と音は重要な要素であるのは
いうまでもないが、ミュージシャンたちが
いかに絵になるか、ということを改めて再確認させられるのだ。

ともあれ、ぼくがテレビというものを信じていたのは
それこそ昭和だけで、それ以降はすっかり関心を失ってしまった。
実際に、これらの宝物を拾ってきたのYOUTUBEという夢の玉手箱からだ。
テレビから動画へ時代は完全に推移したと思う人間だからこそ、
これら昭和の映像が実に懐かしく、
そして、いまだ、イマージュの源泉足り得ているのかもしれない。

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