岸田森スタイル『血を吸う』シリーズの場合

呪いの館 血を吸う眼 1971 山本 迪夫

演戯を求めて森をさまよう吸血俳優記

こいつの正体がわかったぞ!ただのキチガイだ!
「呪いの館 血を吸う眼」佐伯のセリフより

岸田森という俳優を覚えているだろうか?
実相寺昭雄監督による円谷プロの空想特撮シリーズをはじめ、
岡本喜八作品などで知られる
知る人ぞ知る、“怪優”と呼ばれるにふさわしい、
昭和を代表する個性的な俳優のひとりである。
ご多分に漏れず、そんな岸田森が大好きだった。
従姉にあの岸田今日子、元妻が樹木希林・・・
そういうと、その個性の輪郭が少しは縁どられるかもしれない。

ショーケン&豊のコンビによる70年代を代表する
伝説のテレビドラマ「傷天」で
そのいとこ同士がコンビを組んで
謎の探偵事務所をやっていたのを思い返す。
そのなかのNo2で主に片腕として
指示系統を担っていた辰巳五郎というキャラは
なかなかの怪しい気配満載で、
主役を際立たせるうえでは欠かせない役どころであったが、
この人たちでなければ醸し出せない阿吽の呼吸が実に面白かった。
この岸田森とショーケン、豊のコンビは
実生活でも気の合う仲間だったらしい。
そんな岸田森について書いてみよう。

岸田森という人は実に好奇心旺盛、
どんな役でもやりたがった人であった。
まさに俳優こそが天職だったのだろう。
とりわけ、面白い役所は役者冥利につきるといった塩梅で
ドラキュラといえば岸田森、岸田森といえばドラキュラ、
とまでいわれるドラキュラものはまさにはまり役だったとか。
(実際ドラキュラのルーツであるルーマニアにまで
出かけていたりする、そんな人なのだから恐れ入る)
そこで作り上げた役へのこだわりは
監督のイメージやモティーフに対し
自分でもいろいろ色を付け加えてゆく、
子供のようにうれしがるタイプの俳優であったために
おのずと出る作風が限られる俳優でもあったが、
そのフィルモグラフィーをみればわかるように、
実に懐の深い俳優でもあった。
(その辺りはドラマ『傷天』の辰巳五郎という役をみれば顕著かもしれない)

そんな岸田森、当たり役の吸血鬼シリーズから、
『呪いの館 血を吸う眼』について書いてみることにしよう。
監督は山本迪夫(やまもとみちお)。
この「血を吸う」シリーズは三部あって、これは二本目。
いまでいうホラー、というのとはちょっとニュアンスが違うように思える。
確かに幻想的、というか、
心理的に怖くなるようには作られてはいるが、
SFXじゃないし、かなりアナクロニズムが支配している映画だ。
でもこれが面白い、やはり一昔前の和製ホラーはいいのだ。
そして、なんといっても岸田森扮する吸血鬼は最高だ。
血を吸われると吸われた人間も吸血鬼になり、
首筋には血を吸われた形跡が残る。
繪に書いたようなベタな吸血鬼像だが、
やはりはまり役だといっていい。
顔、表情をみても完全になり切っているのだから、
この役への入れ込みようが伝わってくる。
拍手を贈ろう!

湖畔に住む画家志望の秋子は
少女時代の恐ろしい幻覚(夢)がトラウマになっている。
それがある日、なにものかによって
湖畔に棺桶が担ぎ込まれてから・・
そこからどんどん加速して怖くなってゆく。
結局恋人である医師の催眠療法の記憶をもとに
原因を突き止めドラキュラは死に絶えるが、
妹夏子は吸血鬼の餌食になる。
ただし、吸血鬼が能登半島の海岸沿いの洋館に
親子二代で棲みつく、というのが
いかにもB級っぽくておかしいのだが、見所は満載だ。

ちなみに、画家志望の姉の妹役で
江美早苗という女優が出ているが、
映画では吸血鬼に血を吸われる役だが、かなりの活躍ぶり。
とても可愛いな、と思って調べてみると、
なんと「新婚さんいらっしゃい」の初代アシスタントらしくって
その後、作詞家としても活躍した人だというから、
なんとなく微笑ましく思ってみたが、不幸にも、享年36歳、
元恋人の男に殺害されたという悲運の持ち主であった。
「金井克子」「由美かおる」「奈美悦子」の四人で西野バレエ団の「レ・ガールズ」
なんていうものの一員でもあったというから、
映画以上に現実の方がずっとホラーだよなあ、
なんて思うのであった・・・

さて、岸田森に話を戻そう。
このほか、ドラキュラ以外でも、
個性的な存在感を発揮したものは数えきれない。
円谷プロによる特撮テレビドラマ『怪奇大作戦』では
SRI(科学捜査研究所)の一員として
科学犯罪に挑む頭脳派牧史郎を演じた。
欠番となった24話『狂鬼人間』では
当時の自宅を撮影に提供してまで臨んだという逸話がある。

また、勝新や兄富三郎とも公私ともに深い付き合いがあり
『座頭市』シリーズや『子連れ狼』シリーズにも度々顔を覗かせた。
中でも印象的だったのは、主役である座頭市に斬られず、
ゲストの用心棒こと、三船に斬って捨てられる、
岡本喜八『座頭市と用心棒』の九頭龍という刺客だ。
日活ロマンポルノでも神代辰巳の下で
その偉才ぶりを発揮した『黒薔薇弁天』でのブルーフィルム監督。
あるいは主役ショーケンに対する脇役ではあるものの
篠田正浩による『化石の森』での不気味なスキンヘッドの聖職者など
どれもが忘れがたい強烈な個性で
今尚、記憶に焼き付いて離れないものばかり。
享年43歳とは返す返すも惜しい昇天である。
いかにも昭和の風土にどっぷり浸かった、
太く短く、映画や舞台の血を吸って死んでいった
この怪優ぶりに今再び胸躍らせてみるのも悪くはない。

Bela Lugosi’s Dead:BAUHAUS

単なる吸血鬼つながりというだけだけど、イギリスのポストパンクバンド、バウハウスの、こちらは正統派吸血鬼を演じたことで有名なハンガリーの俳優ベラ・ルゴシのことを歌ったナンバー。そういえば、バウハウスのフロントマンだったピーター・マーフィー、もしくはギタリストのダニエル・アッシュの方が、岸田森よりよっぽど吸血鬼キャラが似合う雰囲気を醸していたっけか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です