映画・俳優

映画・俳優

ジョナサン・デミ『羊たちの沈黙』をめぐって

さて、本題の『羊たちの沈黙』に入ろう。 賞を総なめにしたぐらい、傑作ホラーサスペンス作品としての 呼び声が高い本作であるが、 公開当時は、ホラーというジャンルのせいもあって、 ちょっと距離を置いていた映画である。 その後、DVDで観て、確かにショックを受けた。 この映画は実によくできているなあ、というのが第一印象で サイコパスの恐ろしさ、猟奇的な犯罪者の心理が 実にうまく描かれていて、 まさに傑作の名に恥じない映画として、 世間の認識に、ようやくこちらが追いついたと安堵したものだった。

高橋洋『霊的ボリシェヴィキ』映画・俳優

高橋洋『霊的ボリシェヴィキ』をめぐって

高橋洋という作家はまず、 脚本家として『リング』『女優霊』で Jホラーというジャンルを確立した第一人者だが、 まだ、そう詳しく語れるほど知る映画人ではない。 しかし、『霊的ボリシェヴィキ』というタイトルの響きからして 単なるエンターテイメントを超えた何ものかを 想起させるには十分のインパクトがあったし、 この先、日本の映画土壌、このジャンルにおいて 可能性を感じる作家である事は間違いないところである。

小林正樹『怪談』映画・俳優

小林正樹『怪談』をめぐって

これから書いてゆく怪談話で 果たして昨今のホラーテーストに毒された層が盛り上がるかどうかまで自信はない。 いや、むしろ、その趣きに戸惑うことになるかもしれない。 どちらかといえば、アート色が色濃く 古典落語などが好きな人向きの話である。 小林正樹による映画『怪談』は、ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲の怪談話を オムニバス形式で取り上げた1965年度の作品で 誰もが楽しめるようなエンターテイメントではなく むしろ、格調高き、骨董のような深みのある映画になっている。 海外では、国内以上に評価の高い作品であり、 キャストの方も、当時の豪華絢爛たる俳優陣の熱演ぶりで 当然のことながら作品に箔を付けているほど出来がいい。 その上に、作品を支えるスタッフの充実ぶりが目を引く。

雨月物語映画・俳優

溝口健二『雨月物語』をめぐって

その役は朽木屋敷に棲まう死霊であり、 話のなかで、そこだけしか登場しないにもかかわらず その存在感たるや、かなりインパクトの強い役柄である。 能面のようなメイクと艶やかなで陰影ある魔性の女。 相手が森雅之演じる陶工源十郎で 命からがら屋敷から逃げ帰るシーンが圧巻だ。 藤十郎が過ちを悔い、家に帰らせて欲しいと懇願するところへ、 老女と姫が狼狽し、クライマックスを迎える。 織田信長に滅ぼされた朽木屋敷の若い姫君の 哀しい思いを背負いながら、無念とともに消え去っていく情念。 老女毛利菊枝とのコンビにおける怨讐の恐ろしさは 昨今のホラーにはない、独自のムード、美意識を漂わせている。 まさに魔に憑かれた男の無常感がそこはかとなく漂う中 奇気たるまぐわいの宴の余韻が残る

映画・俳優

スタンリー・キューブリック『シャイニング』をめぐって

いやはや、知覚の恐怖に費やす言葉はかように、 いかようにも豊富にあふれていて目が離せないのだが、 この恐ろしい映画の主役ジャック・ニコルソンが、 最初から最後まで、ひたすら、何か恐ろしいものに突き動かされ いわばあらゆる憎しみと怨念を背負った格好で、 妻や子をオノ片手に追い回す、 いわば狂気の沙汰を十二分に見せつけられているうちに、 単に映画は狂人譚の様相に支配されてゆく。 だが、『シャイニング』というのは、元は息子ダニーや特殊な能力のことであり、 その出所は、ジョンレノンによる「Instant Karma!」と言う曲の一説にある 「Well we all shine on Like the moon and the stars and the sun」 からだと原作者スティーブン・キング自身が語っている。

ろぐでなし VOL3映画・俳優

ロピュマガジン【ろぐでなし】VOL3.

昔から怪談話といやあ夏の風物詩、と相場は決まってはいるのだが じゃあ、幽霊ってのは冬になればなったで冬眠する、 なんて話は一度だって聞いたことがないし、 ゾッとすると言う意味ではむしろ、真冬に聞く怪談ほど 臨場感というかなんというか、そそるものもあるまい。 凍えんばかりにガタガタ身を震わせ、血の気が引くなんてのは これがホントのゾッとする話と言わずしてなんであろうか? そんなくだらない話の枕はこのくらいにしておくとして、 『ろぐでなし』プログラムVOL3.では、一つホラー映画についての特集を 組んでみようと言うわけである。

快楽の漸進的横滑り文学・作家・本

アラン・ロブ=グリエ『快楽の漸進的横滑り』について

1953年に『消しゴム』でデビューして以来 『覗く人』『嫉妬』など次々と文学的問題作を発表してきた作家ではあるが、 幸い、ロブ=グリエという人は生涯9本の映画を撮っており、 アラン・レネの『去年マリエンバートで』の脚本をも手がけているぐらいだから 映画というジャンルにも並並ならぬ意欲を示してきた作家と言える。 実はその作品の一つ『快楽の漸進的横滑り』について 何か書けるかというところから 長々と前振りを書いてきたのである。