砂丘と子宮の冥府魔道を拝もう
「一刀の若山か、若山の一刀か」
子連れ狼ときけば、萬屋錦之介のTVバージョンの方が
どちらかとえば人口に膾炙しているのかもしれない。
が、やっぱり若山富三郎の拝一刀なんだよなあ、というのが個人的嗜好。
小池一夫の原作漫画を読んでいるものからすると
拝一刀像の体型はずんぐりどっしり型で、
この若山の一刀を受け入れがたいのかもしれない。
しかし、映画は所詮映画なのだ。
それは『キル・ビル』のタランティーノをはじめ、
多くの熱狂的ファンがいることや
実際に海外で編集版が流布されているのが
この若山=拝ということもあって、そこは何のためらいもない。
それにしても『子連れ狼』は今見ても面白い。
今時、こんなエンターテイメント性のある映画を撮れる人はいるだろうか?
オマージュや引用で沸いた『キル・ビル』を以てしても
オリジナルの面白さとは次元が違って見えたものだ。
まさに自由な時代劇に活劇の真髄を見る。
俳優、スタッフ、そしてそれらを支える映画を生業とするもの
はっきりいって、あらゆるものが違うのだが
われわれ観客を含め、ひとことで言えるのは
全ての熱量の違いと言っていいのかもしれない。
劇画小島剛夕の大五郎というキャラクターへの言葉が
それを代弁しているように響く。
「自分の子供だったらこんな風にしたいという愛情を込めて描いてきた」
壮絶な復讐劇で有りながらも、この愛しさあっての子連れ狼なのである。
主役の若山富三郎は当時東映専属の俳優で
倒産間際の大映スタッフを抱えた
弟である勝新の「勝プロ」大映配給への出演に関しては
当然一悶着あったらしい。
それでも、元は原作のファンであった
若山富三郎の『子連れ狼 』への熱意が凄まじく
その想いと共に、いろんなしがらみをも乗り越え
堂々主役の座をつかむとともに
事実上東宝配給の運びとなったのがその経緯だ。
シリーズ6作品はそれぞれに見応えがあり、一気に見てしまうが、
なかでもカルト的人気を誇るのが『子連れ狼 三途の川の乳母車』。
監督は名匠三隅研次である。
そのものすごいアクションの連続は見応え十分。
その中で、若山富三郎の目力とキレはさすがだ。
拝一刀の剣術は、いわゆる水鴎流の名手ということになっている。
江戸時代からある居合の流派の一つなのだが
実際に映画で展開される剣術は、水鴎流をベースにしつつも
エンターテイメントの極みでもって、あれやこれや術を行使する。
あの体型にしては実に身のこなしが素晴らしい。
それが映画版拝一刀の凄さである。
そもそもが、格式などはどうでも良いぐらいの無手勝流。
シリーズ『子連れ狼 地獄へ行くぞ!大五郎』での
手押し車を橇に仕立てた雪山でスキースタントは圧巻だった。
面白ければそれで良いのだと言わんばかりである。
三隅研次が難色を示して降りたくらい発想が飛んでいる。
それはこの映画制作に関わった「勝プロ」の趣旨でもあり、
二言のないところを遺憾無く発揮しているといえる。
大五郎が乗っている乳母車に仕掛けられた
仕込み杖や自動マシンガンなどを見れば分かるように
もともと創作の意図は常識を越えるものだ。
何しろ、時の幕府の「公義介錯人」(架空の役職である)
つまりは今でいう死刑執行人であった拝は剣の手練れである。
子供を連れた剣豪、幕府お抱えの公儀介錯人をも勤めた拝一刀が
大五郎とともに金500両での刺客請け負いで
「冥府魔道」の旅をゆくというストーリーは
勝新の当たり役「座頭市」にも負けじ劣らぬキャラクターで
人気を博したシリーズとして語り継がれてきた。
話を『子連れ狼 三途の川の乳母車』に戻そう。
この回がカルト的人気を誇るのは、何と言っても松尾嘉代扮する
明石柳生の女当主・鞘香が率いる別式女軍団の存在だ。
当然のように、一刀親子を苦しめる刺客だが、
鞘香の危険な色香は時代劇の枠を超えている。
まずは、忍びを試すシーンでの気持ちいいほどの残虐切り刻みシーン。
身体のパーツがまるでジビエでもおろすかのように
スパンスパンと肉体を切り刻んでゆくグロ面白さ。
農民に化けての一刀襲撃で乳母車に突き刺さる大根の妙。
究極は着物を脱いでの黒レオタード脱皮シーン?
水中から上がった身を3人で寄せる官能シーン。
とにかく枚挙に遑がないほど、
これでもかこれでもかと繰り出されるアクションの数々が凄まじい。
タランティーノでなくとも、一気にもっていかれる。
そしてハイライトは何といっても刺客たちと
護送人三兄弟の弁天来との砂丘のスプラッター満載の決闘シーンだ。
まるで『エル・トポ』ホドロフスキーを彷彿とさせる凄まじい血しぶき。
砂丘に潜んだ忍びたちが次々に射止められてゆく。
喩えるなら、砂丘の人間潮干狩りである。
トリを飾る拝一刀がその三兄弟を一人一人片付けてゆく。
そして立ち去る親子を松の陰から女の眼差しを投げかける鞘香。
もはや刺客の荒々しさは残ってはない。
ちなみに原作からは「八門遁甲の陣」と「虎落笛」が
換骨奪胎されとりこまれこの一話を形成している。
漫画にはないダイナミズムと映画ならではの
ロマンティズムが交差する『子連れ狼 三途の川の乳母車』。
色褪せぬ半世紀前のエンターテイメント、
とはいえ、とにもかくにも痺れる映画なのである。
子連れ狼:若山富三郎
子連れ狼のテーマといえば、児童合唱団とともに録音された橋幸夫の「しとしとぴっちゃん」の方が有名だが、こちらは正真正銘、若山大先生が歌った映画での主題歌。もっともこちらは『子連れ狼 三途の川の乳母車』ではなく、第三作『死に風に向う乳母車』のなかで使われた。1972年映画公開当時発売されたシングルで、作曲がかまやつひろし。やはりかっこいいのだ。
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