くらげに刺されて、ニンマリと
日本の古い映画を観ていて、
ふと気になる女優に出くわすことがある。
思わずうれしくなってしまうものだ。
言うなれば、堀だし女優である。
そんな一人が渥美マリである。
和製ブリジット・バルドーなどと呼ばれたこともあったが
さすがに、そこまで厚かましくは推せない。
が、確かにコケティッシュではある。
いわゆる男受けのするそそるタイプであることはまちがない。
当時の隠微なアダルト路線に咲く、可憐な花として人気を誇った。
それゆえに、扱い方、売り出し方が露骨で、
10年にも満たない女優生活で、その名をとどろかせたのが
大映の通称「軟体動物シリーズ」。
いそぎんちゃくだの、クラゲだのというタイトルからも
その扱いぶりを示唆している通りに
会社側はお色気路線の軌道に乗せたかったのだろう。
しかし、当人にはさしたる覚悟もないままに
中途半端な脱ぎっぷりで、その筋のアイドルとしては
いささかものたりないアピール度しか残せなかった。
その意味では、悲しいかな、不幸な女優生活を余儀なくされてしまう。
当時、代役でメキメキ頭角を現した松坂慶子や
後輩の関根恵子あたりの活躍にジェラシーを感じつつ、
どうにも思い切ってはじけることなく自らの限界に直面した焦りからか、
自殺未遂騒ぎまで起こしている。
せめて関根恵子、秋吉久美子程度に腹が据わっていたら、
もう少し陽の目を浴び続けたかも知れない。
元は俳優一家の家系に育ち、バレエを習っていたというから、
それ相応に、将来を期待された女優でもあったはずだが
どこでどう転んでしまったか、
その短い女優生活からいつの間にか姿を消していた。
そんな渥美マリだが、とりわけ増村保造による二本、
『しびれくらげ』『でんきくらげ』は、映画として
悪くはない作品として輝きを保っている。
渥美マリを主演として、堂々とパンチの効いた作品を残しているのは、
紛れもなく、増村によるところの力が大きい。
間違っても、単なるお色気映画ではないし、
男に食い物にされるだけのかよわい女像には程遠く、
他の増村作品同様の強い女を演じている。
育った環境の影響で、男に翻弄されはするが、
そこで怯まず、屈折せず、むしろ男に復讐を企てるたくましい女を、
体を張って演じている。
この路線で突っ走っていれば、
若尾文子、とまではいかないものの、
活路が見いだせたはずだ。
増村によってますます磨きのかかった若尾文子と比べると
その生き様、腹の座りようが歴然としている。
若尾文子は、執拗な増村の演出でさえ
一度も裸体を見せたことはない(全て替え玉)
それなのに、その演技っぷりで、つまるところ
不屈の女優魂で一時代を築いた名女優として君臨したのだから
女は度胸、そう言いたくもなる。
もちろん、それゆえにますます伝説化してゆく渥美マリを
思って、密かにニンマリするのも悪くはない。
そうすることが花向けなのだ。
9月の海はクラゲの海: ムーンライダーズ
クラゲに関する歌ってあるのかな、とふと思って考えたら、まっさきに頭にうかぶのが、ムーンライダースの「9月の海はクラゲの海」だ。曲は岡田徹、詞はサエキけんぞう。切ない恋の思いをクラゲになぞらえるロマンティックな曲を普通に書くのはムーンライダースぐらいだよね。
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