相米慎二『台風クラブ』をめぐって

台風クラブ 1985 相米慎二
台風クラブ 1985 相米慎二

台風少年少女合掌譚が行く

台風が来るたびに、なぜだかこの映画のことを考える。
相米慎二の傑作『台風クラブ』のことだ。
いわば定番といっていい流れなのだが、といって、
なんどもなんども繰り返し見た映画というわけでもない。
なので、前回いつ見たのかさえ思い出せないのだが
今回の大きな台風を機会に、見直してみたくなった。

相米慎二の映画が特に好きというわけではない。
何本かを見てはいるが印象に残っているのは
この『台風クラブ』のみである。
もっとも、今見直せば、
きっとまた違った感慨がわくかもしれない。
決して気にならない存在ではないが、
追う勇気もさほど持てないまま今日に至っている。
それはまたいずれ機会を待つことにしようと思う。

台風という気象になぞらえての
青春群像劇と言ってしまえばそれまでだが、
特にストーリーらしきものがあるわけではない。
台風に際して、学校に閉じ込められてしまう生徒たちによる
若さゆえの狂気に満ちた乱痴気騒ぎ。
台風をめぐる四日間の出来事を通して
大人に近づいてゆく刹那のストーリー。
携帯もなければSNSもない時代の、
まさに、思春期固有の情動が突き動かすドラマに
誰しもが一つや二つ重なり合う思いがあるはずだ。

確かに話としては破茶滅茶だ。
だが、思春期の少年少女たちのもつテンションが
この映画の原動力、すなわち台風並みの
ハイテンションで熱く駆け抜ける様が実に清々しい。
この辺り、この映画が熱狂的に支持される所以だろう。

それにしても、夜の学校のプールが
あんなにも妖しく楽しい場所であるなどと、
大人になった今、考えもしないことだ。
もっとも、同じぐらいの年代であっても
そんなことを考えたことすらないのだが、
この映画はまず、そんな場面から
五人の女子と三人の男子が織りなす群像劇の幕が開く。
しかもそこに死との戯れがラストへの伏線として描かれている。

台風がやってくると、
なぜかテンションが高くなるのは10代の特権か。
自分にも確かに経験はある。
台風という不穏な気象にやたらテンションが上がってしまうのだ。
そうして、僕はこの映画に失ったあの頃の自分を重ね合わせて見る。
映画はリアルに雨風の臨場感を伴って物語を高揚させてゆくが
とにかく、それ以上に恐れを知らぬ無軌道な十代のベクトルが
いたるところに炸裂していて飽きがこない。
「おはよう」「ただいま」「いってらっしゃい」を
呟き繰り返す男子生徒は、意中の女子に火傷を負わし、
挙句には犯罪スレスレの激しい性衝動にかられ追い回す。
十代固有のエロスは蒼白い焔で燃え盛るが、
決して甘美なものでもなく、どこか刺々しく、そして痛々しい。
レズまがいの戯れが繰り返され
誰もいない校庭で下着姿で踊り狂う女生徒たち。
喫煙、教師へのあらわな不信感とボイコット、そして家出。
一方で「死は生に先行するんだ。死は生きることの前提なんだ」
と哲学的な命題のはてに少年は教室からダイブする。
『犬神家の一族』スケキヨのパロディのような死に様。
果たして死んでしまったかどうか、映画は何も語らない。
その結末はなんとも馬鹿馬鹿しくも
それゆえに切なくなるシーンでもある。

そんな少年、少女たちの狂想曲には高揚させられるが
工藤夕貴だけは一人どこか違った方向を向いている。
おそらく設定は母子家庭で、
その訳ありの母親不在を前に布団で自慰にふけ、
その行動が家出へと駆り立てたのかどうかはさておき
大人への階段を踏み出す少女の暴走を、見事に体現してみせる。

地方の田園都市から一人電車を乗り継ぎ、
大都会東京は原宿駅へ降り立ち、
見知らぬ大学生風の男の後にのこのこ付いて
洋服を買ってもらい、挙句に部屋にまで上がり込んでしまうのだ。
すでに誰よりも大人としての一歩を踏み出しているのだが、
それ以上のことは何も起こりはしない。
見知らぬ都会で激しい雨風にさらされて徘徊する少女。
オカリナを吹く意味不明の白塗りフリークスたちに遭遇する少女。
だが、結局、何も起きはしない。
少女はかろうじて少女のままだ。
翌日、台風一過のよく晴れた校庭にできた水たまりをみて
いみじくもボーイフレンドが死のダイブを試みた
泥水のぬかるみを
「金閣寺みたい」などと呟いて嬉々として渡ってゆくラストシーンの美しさ。
どこまでも胸に刺さる青春の一頁として
網膜に焼き付けられる大好きな映画である。 

ちなみに、この映画を見たベルトルッチが
(第1回東京国際映画祭ヤングシネマ’の審査委員)
絶賛したという話が残っているのだが、
工藤夕貴を実際に自分の映画に抜擢することはなかった。
で、工藤夕貴を国際的な舞台へと後押ししたのは
ジム・ジャームッシュの『ミステリー・トレイン』で
そのハリウッドを夢見るこの女優の夢を叶えることになった。
“台風”がもたらした、ちょっとした夢物語、である。

はっぴいえんど:颱風

台風といえば、これ以上の曲はない。日本語ロックの金字塔「はっぴいえんど」の『風街ろまん』の中でもロック色の濃いナンバーだ。「来るぞ来るぞ。来たー」というあたりが最高に好きだ。

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