ザ・バンド『ラスト・ワルツ』をめぐって

LASTWALTZ THEBAND
LASTWALTZ THEBAND

アメリカンルーツロックの坩堝、ラストワルツで踊りあかそう

クイーン(フレディ・マーキュリー)の伝記的な映画の大ヒットで、
今後も“二匹目のドジョウ”を狙っての商業映画が、
いろいろ画策されるのは目に見えているが、
『ボヘミアン・ラプソディー』が、あくまで劇映画としての趣きが
基本にある作品だったから、
いわゆるミュージシャンのライブ映像主体の記録映画とは一線を画す、
そういうことにしておこう。

音楽関連の記録映画は、確かに記録映画としての価値はあるが、
映画と呼ぶには、いささか抵抗があるものも少なくないんじゃないかな。
その点、音楽に情熱をもっている監督といえば、
ヴィム・ヴェンダースを挙げないわけにはいかない。
元々ロックが大好きな監督で、『ブエナビスタ・ソシアルクラブ』や
『ソウル・オブ・マン』という、
なかなか秀逸な音楽ドキュメンタリーを手掛けていることからも、
その情熱は伺い知れよう。

その意味では、マーティン・スコセッシによる
ザ・バンドの『ラスト・ワルツ』もまた忘れる訳にはいかない。
記録映画的な側面と、ライブ映像としての記録とのバランスも良く、
音楽映画の傑作として誉れ高き本作には、
なんと7台のカメラとカメラマンの視線が
交差しているほどの力の入れようである。

『タクシー・ドライバー』のマイケル・チャップマンをはじめ、
『イージー・ライダー』のラズロ・コヴァックス、
『天国の門』『ディア・ハンター』で知られるヴィルモス・ジグモンドなど、
錚々たる顔ぶれが並んでいる。
舞台美術と照明には『ウエストサイド物語』で
オスカーを受賞したボリス・レヴェンだ。

こうした盤石のスタッフに支えられ、
1976年11月25日にサンフランシスコのウインター・ランドで行った解散ライブには、
おおよそ、アメリカン・ロック界を支えてきた
豪華なゲスト・ミュージシャンたちが、
皆ノーギャラで、このザ・バンドのために一同に会し、競演を果たした。
ゲスト・ミュージシャンの顔触れを挙げるだけで、居ても立っても居られない、
という人こそ、真の音楽ファンに違いない。

ボブ・ディランを初め、ニール・ヤング、エリック・クラプトンに、
ブルーズの大御所マディ・ウォーターズ、ヴァン・モリソン、ドクター・ジョン、
紅一点ジョニ・ミッチェルなどなど、こちらも錚々たるメンツが顔を揃え、
しかもそれぞれがまさに脂の乗り切った時期で、
当然ながら素晴らしい演奏、歌を聴かせてくれるのだから、
その場に居合わせていないことへの不運を嘆きたくもなるところだが、
その分の渇きを十二分に埋め合わせてくれるのが、
この『ラスト・ワルツ』という映画の凄さではないだろうか。
映画館で、しかも爆音で体感した感動をなかなか言葉に置き換えられない。

ピンクのジャケットに身を包みおしゃれにきめたドクター・ジョン、
ストラップを外してしまったクラプトン、
エネルギッシュでハイテンションすぎるヴァン・モリソンや
コカインをきめきめのニール・ヤングなど、見所は随所にあるが、
やはりザ・バンドの前身ロニー・ホウキンスのバック・バンドである
ザ・ホークス時代からの付き合いである
ボブ・ディランの参加によって、本編は最高潮を迎える。
ディランの登場からテーマにかけての盛り上がりは最高だ。
「I Shall Be Released」での合唱には鳥肌が立ってしまった。

ザ・バンドのメンバーへのインタビューを含めた、
バンドのフィナーレを飾るに相応しい伝説の時間がここには流れている。
インタビューで語られるザ・バンド苦難の軌跡が、
映画をより映画足らしめはするが、
なんといっても音楽の力は偉大である。
解散コンサートということもあって、リーダーのロビー・ロバートソンと、
その他のメンバーという括りにはなってしまうだろうが、
これはザ・バンドにとっても、アメリカンルーツロックの流れにおいても、
とても貴重で重要な記録として、歴史的名盤であることは、
誰しもが疑う余地のないところだろう。

元はツアー生活に限界を感じ、スタジオ派だったロビーと、
ツアーを続けたかった他のメンバー、
とりわけリヴォンとの間で軋轢があったとされるが、
そんなことをみじんも感じさせない盛り上がりである。

こんなとんでもない作品を、七十年代中盤に残すことが出来た奇跡に感謝だが、
音源のみでしか聞いたことの無い人にはぜひ映画館で、
もしくはDVDでもってプラスαを体感して欲しいし、
映像を見た後に何度も音源で聞き返すと、
さらにその幸福感を継続することができるのだ。
なんとも素晴らしいドキュメンタリー映画である。

リヴォン逝去の際のスコセッシのコメントを記しておこう。

ジム・キャロルがかつてリヴォン・ヘルムを評して、彼は人を泣かせることができる唯一のドラマーである、と言ったことがあったけど、彼の言った通りだと思う。リヴォンのドラムは本当にデリケートで、巧みで、ビート以上のものを僕らに感じさせてくれたから。彼は音楽に鼓動をもたらしてくれたんだ。しかも、彼の高音の声は、あまりにソウルフルだった。彼のバンドメートだったロビー・ロバートソンは、リヴォンが歌うために、”The Night They Drove Old Dixie Down” を書いたんだけど、彼がそれを映画『ラスト・ワルツ』のハイライトともなったウィンターランドで最後に歌った時、それがどれほど感動的だったのか、僕は一生忘れることはない。 

『ラスト・ワルツ』以降にはロビー抜きのメンバーで再結成され
1999年まで活動が続いたものの、
すでにドラムのリヴォン、ベースのリックは他界、
酒とドラッグに溺れたリチャードは自殺、
残ったのはキーボードのガースとロビーのみではある。
『ラスト・ワルツ』には良き時代のアメリカンミュージックと
ザ・バンドの集大成が、宝石にようにつまっているのだが、
やはり、ザ・バンドは五人揃ってこそのバンドなんだ
ってことを再確認するのである。

「ONCE WERE BROTHERS:ROBBIE ROBERTSON AND THE BAND」

音楽だけにしか興味のない輩もいるだろうが、
本編にもしスコセッシが絡んでいなかったら、
こんな素晴らしい映像が残っただろうか?
そんなことを考えながら見直すと、また感慨深い思いに浸ることができる。

The Last Waitz 

僕が長年聴いていたのは、こちらの初回盤。
すでにロビー・ロバートソンとRhinoの手による完全版が出ているので、
これから聞く人や、より多くを求める人はそちらがいいというかもしれない。
実際、音質も格段に上がっている。
でも、ぼくには、これで十分だった。
このアルバムだけで、十分楽しめたし、良さそのものは変わらない。
やっぱりディランの「I Shall be Released」が最高だ。

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