小津安二郎『秋刀魚の味』をめぐって
そんな『秋刀魚の味』は、見方を変えればほんのり苦い。 そしてそれこそが、小津が教えてくれた、人生の味そのものなのだ。 娘を嫁がせて、式服のまま 守るも攻むるも鋼鐵の〜と軍艦マーチを口ずさみながら ひとりちゃぶ台でこっくりこっくり船を漕ぐ父親。 そこからの空ショット、階段、そして娘のいない部屋へ 最後はやかんからコップに水を入れゴクリ。 うなだれた姿の哀愁で映画は終わる。 失ったものと、まだ手元にあるものと、 そして、これから失うであろうものすべてを、 静かに愛おしむことができる余韻が広がっている。