ロピュマガジン【ろぐでなし】vol.45 空想巡回映画館 ただいま上映中

ロピュマガジン【ろぐでなし】vol.45 空想巡回映画館 ただいま上映中
ロピュマガジン【ろぐでなし】vol.45 空想巡回映画館 ただいま上映中

あなたの心にお話をお届けします

今、どこにでもスクリーンがあれば映画館になるという移動映画館
通称キノ・イグルーという文化がある。
最新施設の映画館にて、大スクリーン大音響での鑑賞も
それはそれで醍醐味なのだが
地方の映画館や名画座などがどんどん取り壊されていく中
環境を取り込んで、映画を体験するというコンセプトには大いに関心がある。

そうえいば、ビクトル・エリセの名作『ミツバチのささやき』の中に、
トラックで村を訪れる移動映画館の巡回上映があって、
子供たちが『フランケンシュタイン』の映画に初めて触れ、
胸をときめかせるシーンがあったけ。
幼い少女が生まれて初めて見る驚きの眼差しに、
思わず食い入るように見つめるあのワンシーン。
忘れられないシーンである。

そこで、今回のテーマは、僕が勝手に考えたのが
空想巡回映画館「キネ・ロピュタ」。
そのプログラムをここに並べてみようという企画だ。
もちろん、子供からお年寄りまで、
映画好きにはたまらない作品ばかりをセレクトしよう。
とくにテーマや、ターゲットは考えない前提だが、
最初から最後まで見終わったあとに、なにかじんわり人生が立ち上るような
そんな作品で構成してみたい、と思っている。
もっとも、そこはわたくしめの独断と偏見によって成り立つ、
あくまで空想の世界なので、
個々の感想まで強要するつもりはないし、
これが実際に実現されるかどうかはまったく想定してはいない。

とはいえ、これだけストリーミングやホームシアター文化が根ざしている今、
まずは映画館に出かけてみる前に、映画の面白さ
映画というものの素晴らしさがここににじみ出せばいい。
風のように、それを肌で感じ取れる映画ということだけは約束できると思う。
なんなら、学校教育のなかで、もう少し映画の価値が現場に浸透し
そうしたプログラムが授業の一環にでもなればいいのにな、などと考える次第。

そこで、プログラムを始める前に
Life is Carnival!
君が思わず期待することばはおそらくこれにちがいあるまい?  
「LIFE」を「CINEMA」に代えてもらえれば良いだろうか。
はじめに素敵な映画の体系を考える際に心がけるのは、
今は亡き淀川センセイのあの名調子。
あの方の映画への愛というのが基本的にある。

はあ、私が言いたいのはですね、対象を心から愛おしむことなんです。
もちろん尊敬の念、讃嘆の念を忘れないことなんですねえ。
それと同時に、愛するがゆえに厳しい厳しい言葉、あるかもしれません。
あいまいに着飾らず、思いをはっきりさせるべきところなんです。
とにかく、映画って素晴らしい贈り物ですよぉ〜。
ああ、わくわく、ドキドキしてきましたねえ。
たまりませんねえ。

とはいえ、ここでは映画批評なんぞに重点を置くつもりはない。
言葉は多少小難しくとも、見方が少々ひねくれていようと
あとは観る者の自由にまかせて、私はガイドにすぎません。
では、映画としての醍醐味はなにか?
そうしたものを、自ら果敢に求めることを一旦置いておいて、
花を求めるミツバチのように
まさにその驚きや瑞々しさに、思わず吸い込まれるような
そんな瞬間、そんな手招きのある作品を念頭に、
まずは映画を一緒にみることといたしましょう。
さあ巡回映画館のはじまりですぞ。

8½ theme – Nino Rota

巡回映画のプログラムに、大好きなフェリーニの「8½」を入れなかったのは、少々心残りがあるのだが、映画に関してはすでにこちらに記事を書いたので、興味があれば参照してみてほしい。その代わりに、ライブコンサートの前振りのBGMのように、このプログラム開催にあたってのテーマ曲として、フェリーニ映画に欠かせないニーノ・ロータのスコアで、ひとまず盛り上がりたいと思う。「8½」のテーマ曲はその一曲のなかにジェットコースター並の起伏があり、実にドラチックなのだが、「Life is carnival」の言葉通りを体現した映画のような、そんな興奮と哀愁を感じ取ることになるだろう。この曲を大音量で流しながら、移動映画館のトレーラーを走らせる、といった、ちょっとばかり迷惑だけど、どこか夢のようなワクワク感を感じてもらえれば、それだけでこの企画は成功だといっていいだろう。いつしか、そんな世の中になれば、どれだけ楽しいことだろうか? そう思う次第である。

特集:第一回 空想巡回映画館「キネ・ロピュタ」特集

  1. 科学のロマンかそれともエゴか? 怪物をめぐる哀愁学・・・ジェームズ・ホエール『フランケンシュタイン」をめぐって
  2. 子はかすがい。いるだけ、そのままでいいとしるべし。・・・ルキーノ・ヴィスコンティ『ベリッシマ」をめぐって
  3. 成瀬己喜男『妻よ薔薇のように」をめぐって
  4. 静かなる血を求めて・・・トーマス・アルフレッドソン『ぼくのエリ 200歳の少女』をめぐって
  5. 愛が石になるとき。シュヴァルを突き動かしたもの・・・ニルス・タヴェルニエ 『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』 をめぐって
  6. 出口のない世界で、それでも・・・ラッセ・ハルストレム『ギルバート・グレイプ』をめぐって
  7. 黄泉比良坂のマタグラ劇場・・・鈴木清順『ツィゴイネルワイゼン』をめぐって
  8. 港町ナント、男と女の泣き笑いの詩情・・・ジャック・ドゥミ『ローラ』をめぐって
  9. 美女と野獣の夢物語、禁じられぬ夢を抱いて・・・ロベール・アンリコ『ラムの大通り』をめぐって
  10. 時速8kmの赦し・・・デヴィッド・リンチ『ストレイト・ストーリー』をめぐって