秋とともに、ミュージック実行委員会  AFTERNOON編

秋とともに、ミュージック実行委員会  AFTERNOON編
秋とともに、ミュージック実行委員会  AFTERNOON編

陽だまりと影のあいだで

秋の午後。色とりどりの街並みをながめながら、散歩する。
太陽は近くにある友ではあるけれど、やがてはサヨナラをいわねばならない。
あなたはその瞬間、瞬間になにを思うだろうか? どんな色を重ねるだろうか?
日中の暖かさに身を任せ、のんびりすごすのもいい。
友達とワイワイおしゃべりをするのもいい。
読書をしたり、ひとりごち、もちろん休息するのもいい。
けれども、時間はひとりでに流れる。陽射しが陰るその一瞬に、まばたきせずにいられるだろうか?
そんな午後のひとときを共に過ごす音楽をかけよう。

秋の午後〜黄昏時を愛でる10曲 「陽だまりと影のあいだで」

Syd Barrett-Terrapin

ギターの一音ごとに、太陽に身悶えする正午。大好きな陽の光がまぶしすぎて、心がゆるく溶けていく。心地よい温度が眠りを誘う。ぼくは少しばかり退屈のさなか、しかも不器用な魚にように、少し濁った水のなかを目を瞑って泳いでいるかのよう。まるで真昼の酩酊だ。シドの声は、まさにそんな夢と現実のあいだをいききする。でもぼくは決して狂ったりはしない。そのアンニュイで意地悪な微笑みは、午後という名の海へとつながっている。

Eric Clapton – Rocking Chair

ランチのあとの静けさ。満腹感。あわてなくていい。心配しなくていい。だれかにそう言って欲しいのだ。ぼくはロッキングチェアの上で、時間のゆらぎを数えている。クラプトンのギターが、心拍と呼吸をひとつに溶かすひとときは、極上だ。午後の太陽は窓辺で休み、ぼくは音の中でまどろむ。ここまでくるものは達人と呼ばれるはずだ。神の域にて、その手のひらで寝そべりながら、読書でもしよう。

Cassandra Wilson – Olomuroro

大地の匂い、風のうねり、光の粒。そして言霊の力を呼び起こす。
ウィルソンの声が、大地の記憶を引き連れて、真昼のカーニヴァルを繰り広げる。生命の歓びは、同時に大地の波動、ハーモニーを伝えてくる。子供たちの足音が、午後の太陽を追いかけて生命をみなぎらせるのだ。これぞまさに動的スピリチュアルへの確信だ。

Screamin’ Jay Hawkins – Little Demon

自分にご機嫌を取るという魔法を覚えよう。それは人目を気にしないこと。自分らしくあること。そしてちょっとばかり、やんちゃになることだ。髑髏を片手にスクリーミン・ジェイの悪戯な叫びが、午後の血流をめぐらせるはずだ。狂気はいつもユーモアと隣り合っているのだ。光は笑いながら、悪魔でさえ踊り出すだろう。背中に届かないもどかしさと痒さのなかで、開きなおって笑い転げるしかないではないか。

Talking Heads – This Must Be the Place

玄関の扉が開き、午後の部屋にも風が流れ込む。
人の声、グラスの音、笑いが混ざりあうにぎやかなひと時。
ここが“居場所”だと感じるのは、音楽が心の壁をやさしく壊す瞬間ゆえの特権。トーキング・ヘッズの「This Must Be the Place」で人はいとも簡単に、そして柔軟に溶け合うことができるのだ。そう、バーンのくねくねダンスを思い出しながら、ぼくは何もかもほっておいて、思わず踊ってしまう。

Portico Quartet – Pompidou

街が沈黙し、思考がガラスに反射する。形而上的な影。内省のまどろみ。ハングドラムの金属的な呼吸がそれらを整える。
冷たい都市の輪郭と、そこに射す淡い日差しのクールさよ。
孤独は決して無駄な寂しさではない、心の奥では優しさと温かさを保ち続けるのだ。ポルティコカルテットの北欧的な造形の音が彩る午後3時。透明な自由のかたちに心が和むブレイクタイム。

bill frisell – strawberry fields forever

ギターが淡い郷愁を紡ぐ。ビートルズの名曲の佇まいの輪郭をなぞることで、過去と未来が曖昧になる午後の光のジャングルを抜け出そう。記憶は悲しみではなく、ただやさしい色をしているといったふうに、その癒しの眼差しを受けとめよう。天才フリゼールの指先は、みごとに時間を止めてしまうだろう。その余韻が永遠に思えてくる。それは淡くもストロベリーの甘い匂いがするのだ。ストロベリーフォーエバー、これぞ理想郷。

Fred again.. & Brian Eno – Radio

遠くの声、波のようなノイズのなかに世界がみえる。
世界がひとつの夢の周波数で揺れている。これを知性といわずしてなんという? 午後が現実を脱ぎはじめ、空気が詩に変わる。気がつけばぼくは裸で草原に寝そべっている。しかし、光と音がひとつの幻を編んでいくのも、全ては日常の延長上に築かれる安心感でしかない。ああ眠い。眠り続けたい。フレッド・アゲイン こと、フレデリック・ジョン・フィリップ・ギブソンはイーノとの出会いがもたらした奇跡を夢のなかでひとりごちながら、現実をコラージュしてゆく。

Willie Nelson & Norah Jones – Walkin

疑問もない、恐れもない。黄昏を歩くふたりの影がある。ゆっくり、そして味わい深く。言葉なぞいらない、ただ呼吸を合わせるだけでいい。孫のような娘と老境の旅人の影が重なったり離れたりする。映画の中、あるいは本の中、どこかでみた情景だ。ウイリーとノーラ。夕陽が金色の道を照らし、世界がいっせいに柔らかくつつまれる瞬間に、ぼくもあとを追いかける。

吉田美奈子 – サンセット

太陽がゆっくり沈みゆき、空が深呼吸をする瞬間の美しさ。黄昏時のロマンチシズムに抗えるものなどいない。吉田美奈子の声が、海と空の境界を撫でるようにくすぐってくる。その声の躍動は、まさに生きる喜びといっていい。別れ間際に宿る希望と孤独と現実。星々が微笑みながら、夜の幕を引いていくのを見届けつとしよう。

SONG LIST

  1. Syd Barrett – Terrapin
  2. Eric Clapton – Rocking Chair
  3. Cassandra Wilson – Olomuroro
  4. Screamin’ Jay Hawkins – Little Demon
  5. Talking Heads – This Must Be the Place (Naive Melody)
  6. Portico Quartet – Pompidou
  7. Bill Frisell – Strawberry Fields Forever
  8. Fred again.. & Brian Eno – Radio
  9. Willie Nelson & Norah Jones – Walkin
  10. 吉田美奈子 – サンセット