ロピュマガジン【ろぐでなし】vol.38 忘れじの刻印、フランス映画特集

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ロピュマガジン【ろぐでなし】vol.38 忘れじの刻印、フランス映画特集

良き伝統に、眩しきリュミエールを感じよう

その昔、我々日本人にとって、
ある種盲目的なまでのフランス崇拝の気運があり、
とりわけパリときけば、だれもがときめくあこがれの異国だった。
古くは、パリに魅了され、帰化までした画家レオナール・フジタ、
フランス人と結婚し日本を代表する女優として名を馳せた岸惠子、
元祖パリコレ、フランス芸術文化勲章まで戴冠したケンゾー等、
ファッション、文化、食、そして人までがその魅力の発信源にあった。
かくいう自分自身も、十代の頃を思うと、
澁澤龍彦に触発されフランス文学に目覚め
ゴダールやトリュフォーといったヌーヴェル・ヴァーグからの洗礼を受け、
ゲンスブールやピエール・バルー、ブリジット・フォンテーヌなど
独特の音楽に育まれた情緒を堪能し、
数々のサブカル的なフランス文化に触発されてきた。

いずれにせよ、フランスという国への認知、および情報源は随分昔のものだ。
実際に自分の目に映る良きフランス像は90年代以前のものであり
現状はよく知らないのが正直なところ。
当然関心もずいぶん薄まっているように思える。
なにがそうさせたのか?
ということを書く、いわゆる国家論、文化論をやりたいわけじゃない。
僕自身が魅了されてきたものについて語るだけだ。
過去をノスタルジックに回想したわけでもない。
その中身に、いまもって魅了されるものがありつづけるからだ。

今回はそういうなかでのフランス映画をとりあげてみたい。
なにしろ、リュミエール兄弟によってもたらされた映画発祥の国。
映画に革命をもたらしたかのゴダールが君臨した国だ。
そのことは忘れてはならない。
だからといって、映画とはなにか?
という大々的なテーマを掲げたいわけでもない。
あくまでも、好きな映画の一本がフランス映画であり、
古かろうが、新しかろうが、映画の魅力に抗えない、
独自の映像空間に誘われるこの磁力を前に
すなおに反応するだけなのである。

リュミエールに始まる歴史にまでさかのぼらずとも
戦後のいわゆる伝統的なフランス映画から
ヌーヴェル・ヴァーグの息吹を浴び、
ポストヌーヴェル・ヴァーグ諸々を経て、
普遍的な映画産業へと回帰しようとする流れに
個人的な視線は吸い込まれてゆくのだ。

とはいえ、日頃フランス映画を中心に観るわけでもないし
目下の関心の中心でもない。
近年のフランス映画で、特に、だれかを特別視するような作家もいない。
あくまでも、これまで僕自身を培ってきた土壌の上に咲く
フランス映画作品であり、個人的な嗜好の範疇を超えるものはない。

ある意味、時間が止まった世界の住人として見かねない先入観から
逃れえないといえるノスタルジーを引きずっているかもしれない。
それでもそれぞれに受けた印象は、時代を経て刷新されはするものの、
その感動や印象がけして色あせることなどないのだ。
今見ても、何かしらの発見や驚きがあり、感動がある。
そんなスクリーンを通して伝わってくる作り手たちの魅力的な空気を
言葉のみで伝えるには限界があるとはいえ、
できる限り埋めうるものを中心にカタチにしたにすぎない。
これは後生大事にしまってあるガラクタの宝石箱からの発信であり
美化しようというよりは、その魅力をただ伝えたいだけなのだ。

Samba Saravah – Pierre Barouh

フランス映画の良きイメージのひとつを背負った雰囲気の、クロード・ルルーシュの「男と女」のなかで、主演と音楽で魅力を放ったのがミュージシャンであり、詩人ピエール。良き自らも「SARABAH」というレーベルを創立し、数多くの無名のミュージシャンたちをバックアップしてきた人物だ。曲はその「サラヴァ」精神にとんだ哀愁と軽やかを兼ね備えたブラジルテイスト満載で、バーデン・パウエル、ヴィニシウス・ヂ・モラエス、ピエール・バルーによる共作だ。この頃、ピエールとアヌク・エーメの蜜月期であり、彼らにフランス映画の導き手になっていただこう。

特集:忘れじの刻印、フランス映画特集

  1. 武士道か、ダンディズムかそこが問題だ・・・ジャン=ピエール・メルヴィル『サムライ』をめぐって 
  2. 探し物はにゃんですか?・・・セドリック・クラピッシュ『猫が行方不明 』をめぐって
  3. ニセモノは不要。真の見世物文化のコクを銀幕の名作で見届けよう・・・マルセル・カルネ『天井桟敷の人々』をめぐって
  4. 恐怖が来るぞ、来ると狂うぞ、いや死ぬぞ・・・アンリ=ジョルジュ・クルーゾー『恐怖の報酬』をめぐって
  5. ミステリアスな粗忽ものは帝王のひと吹きの前のともし火である・・・ルイ・マル『死刑台のエレベーター』をめぐって
  6. かくかく然々、危険な物語の綴り方教室・・・フランソワ・オゾン『危険なプロット』をめぐって
  7. 萌えよドラゴン、母と娘の宝探しロードムービー・・・ジャック・リヴェット『北の橋』をめぐって 
  8. 不思議な国のラブラブちゃん・・・ルネ・クレマン『雨の訪問者』をめぐって
  9. 記憶の細道に伏す物語、ここにあらんや・・・アラン・レネ『去年マリエンバード』をめぐって 
  10. あこがれからあばずれになった娘の話・・・フランソワ・トリュフォー『私のように美しい娘』をめぐって