事始めの使者、ゾンビの誘惑
長年、ホラー映画などに全く食指が動かない人間だった自分が
ゾンビものなんて、悪趣味だという潜入感をもっていたおかげで、
こうしたジャンルの映画と対峙するのが随分遅くなってしまったのが前提で、
そんな僕の狭い価値観を変えてくれた1本が
日本での『カメラをとめるな』であったことは付け加えておく。
要するに、ソンビモノを通して
ぼくは映画のエンターテイメントへの意識を刷新させられたってわけだ。
そのゾンビものも、いろいろあるけれど
そのの『カメラをとめるな』よりも映画史的には重要な1本である
ジョージ・A・ロメロによる元祖ゾンビ映画、
あるいはゾンビ映画の決定版『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』について
その思いを語ってみよう。
要するに、低予算、B級のくくりで考えれば
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』という一本の映画は
映画作りそのものへの可能性や
わくわく感、ドキドキ感を満たしてくれるわけだが、
まさに、映画作りの原点のような空気に満ちていると言うのか、
映画について、映画愛についてをも考えるさせられる作品なのだ。
そういえば吉田大八による『桐島部活やめたってよ』では
映画オタク高校生からのこの映画に関しての言及があるし、
あのジャームッシュですら、『デッド・ドント・ダイ』を制作し
ゾンビ映画に手を染める時代感覚を
無視できなくなったということもある。
見終わった感想は、ひとことでいうと、
けっこうやるなあ、という肯定的な充足に収まった。
モノクロームで、いたってシンプル、直接的な描写。
古典的だがハラハラドキドキ感はしっかり描き出されており、
ゾンビが人間を襲ってその死肉を食らう、そのせめぎ合いが面白い。
が、見終わって、時間がたつと共に
あれこれ考えていくこれがなかなか奥深いところに着地する。
レイシズムの観点や当時のアメリカ社会を反映した反ベトナムの意識などが
重なってきて、これを適当に扱うわけにはいかないという、
そんな思いまでもが立ち上ってくるのだ。
これもまた感心した映画の一本『ゲット・アウト』で見せられた
白人の黒人に対するレイシズムを思い出してもいいだろう。
白人社会における黒人の位置づけが
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』でも明らかに見られるのだ。
つまり、この映画の主人公でもあるのがベンという黒人男性そのものが
レイシズムではないか、との指摘がある。
何とかゾンビ地獄から抜け出したこの黒人青年は
自衛団によって撃だれてしまうのだ。
むろん、映画の流れを見れば、黒人だから撃ったわけではなく
ゾンビをひとり退治したにすぎないのだが、
その終わり方は実に衝撃的でさえある。
黒人差別全盛期の1960年代にあって
ロメロが描きたかったのは、まさにそういうことだったのかもしれない。
従来なら、この黒人青年はヒーローであらねばならず、
とある人家での壮絶なサバイバルゲームの勝者を
かくも無残に抹殺するところに、根深い人種問題が被さってくるのだ。
そう思うと、ホラー映画ひとつとっても
その背景を知り考える事は、映画を見みる教養として
重要な要素のひとつだと理解できるはずだ。
ちなみに、これをきっかけに改めてゾンビなるものの定義を再確認しておく。
ボコールと呼ばれるブードゥー教の司祭の特権儀式から
死者を読み替えらせて、その罪を労働力としてまかなう民間信仰に由来する。
そうした信仰から一転、「生きたものの肉を喰らう」とか
「ゾンビに噛まれた者もゾンビになる」
あるいは「その脳を破壊されるまでは死なない」といった
ホラー映画の新たな付加的な要素を
救世主としてエンターテイメントに持ち込んだのがゾンビ映画であり、
まずはその先鞭をつけたのが“ゾンビ映画の父”ジョージ・A・ロメロであり
この『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』というわけなのだ。
ロメロは『ゾンビ』、『死霊のえじき』とこのゾンビもの3部作を撮り
1990年には『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/死霊創世紀』として
リメイク版も撮っている。
ちなみに、本作ではリビング・デッド、
つまりは生きる屍として扱われ、正式にゾンビなる言葉が使われたのは
次作『ゾンビ』からである。
「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」では撮影や編集に至るまで
ジョージ・A・ロメロがひとりこなしたまさにオタク映画の鑑であり
その意味では『桐島部活やめたってよ』での
神木隆之介演じる高校生前田 涼也のような映画オタクの視点が
ただしいことをも証明して見せている作品なのである。
The Zombies:Time of the Season
その名もゾンビーズの、今聞いてもイケてるポップミュージック(じゃんるでいえばソフトロックというやつか)「Time of the Season」は、ロッド・アージェントのオルガンがフィーチャーされたご機嫌なナンバーだ。ちなみに、このゾンビーズからはホラーや死霊的要素を全く感じない。あくまでもバンド名にすぎないのだ。当初予定してたthe Mustangsというバンド名がたまたま存在してために、ベースのポール・アーノルドが提唱したのがこのThe Zombies、これだと絶対被らないよね、ってことだったらしい。それが功を奏したのか、デビュー曲「She ’s not there」が64年に本国イギリスで大ヒット。その勢いでアメリカでも人気を博し、68年にはこの「Time of the Season」が再びアメリカで大ヒットしたにもかかわらず、メンバー間のいざこざで望まれながらも解散してしまったという、実に勿体無いバンドだった。ちなみに、現在はコリンとロッドのオリジナルメンバー二人と新しいメンツを加え、新生ゾンビーズとして、まさに生ける屍、いや、生けるバンドとして活動を継続している。ゾンビはしぶといのだ。
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