ロピュマガジン【ろぐでなし】vol.36 アカをめぐる映画特集

ロピュマガジン【ろぐでなし】vol.36 赤い誘惑 映画特集
「赤」にまつわる映画

赤の誘惑

その昔戦後復興期に「赤線」と呼ばれる妖しい場所があった。
いまでいう風俗街、単刀直入にいえば売春街である。
一方で「赤旗」で知られるように共産圏でいう赤は
社会主義・共産主義の象徴的カラーとして、
戦時中には「赤狩り」という言葉さえあったほどだ。
幸いなことに、そんなことを一切知らずに生まれ育った。
そんなこんなで赤なんてなにかときな臭い色にせよ、
一方で情熱の色として、ずばり血の色として身近であり
今なお無尽蔵に脈打つのを感じる、そう、生命の根源でありつづけている色だ。

パッションカラーとして赤は
人間内部の精神の高揚を想起させる色でもある。
ここではそんな「赤」をめぐって特集してみたいと思う。
赤にまつわる映画特集というわけだ。
もっと深く内部に入り込んで
それこそ思想的な意味合いでの「赤」を
深く掘り下げようというほどの思いはない。
単に表層の戯れ、言葉のあやにすぎない。

よってタイトルに「赤」もしくはそれ相応の色を想起させる映画を
取り上げて、その映画自体についてあれやこれや書くだけのことである。
当然、各々の物語での「赤」の強度は違うし、趣も違う。
それは受け止める側の問題であり、
タイトルと作品の関連性に疑問を抱くのもある、
が、そこは無視して赤に宿る感性をなんとか引き出せればいいと思う次第だ。

子供の時分、TBSドラマに「赤いシリーズ」というのがあった。
多分に漏れず、ちゃぶ台で毎週楽しみに見ていた記憶があるが
すこしどろどろした人間たち、あくの強いストーリーのドラマが展開されていたと記憶する。
全てを覚えているわけではないが、
どことなく過剰で臭い芝居が脳裏に残っている。
子供ながらにも、知らず知らずにグイグイと引き込まれるような
そんなドラマだった気がするが、なにぶん感性が追いついていない時代だ。
機会があれば、またいつか見直してみたいが、
その脚本に増村保造の名が連ねられていたことなど
当時は知る由もなかったが、
たとえ知っていてもその凄さなど、わかるはずもなかった。
なるほど、今思えばどおりで中身が濃かったわけか、と思う。

映画監督としての活動は晩年だったが、
テレビドラマに進出しはじめてこれから、というあたり
80年代に他界しているそんな映画人増村だが、
そうした熱い作り手の想いがあって、たとえテレビドラマといえど
一定のクオリティと情熱を感じさせたのだと思う。
「赤」を感じさせるドラマの核は、いつの時代も人間たちの思いなのだ。

King Crimson : Red 

赤のイメージで連想するに、ぼくは真っ先にこのクリムゾンの「RED」が浮かんでくる。いうまでもなく、プログレの古典的名盤であり、プログレファンのみならず、ロックファンなら知らぬものはまずいまい。その冒頭を飾るのがタイトル曲「RED」、一曲挟んで、「One More Red Nightmare(再び赤い悪夢)」なんて曲もあるし、これを赤の代名詞としてここに取り上げる選択肢が的外れではないことだけは確かである。ハイライトは12分に及ぶ、高揚感満載のボーカル曲「STARLESS」だということに異論はないが、歌詞の内容からの深読みを考えると泥沼に陥りそうなので、ここでは、幸いインストのタイトルチューンを流れで取り上げたに過ぎない。このアルバムに対するロック史的な蘊蓄を語れるほどの知識も持ち合わせていないが、ただ、前期クリムゾンのなかで、このアルバムがもっとも好きというだけだ。そもそもクリムゾンという言葉にすでに「深紅」の意味がこめられているわけだし、要するに、赤の二重構造というか、勝手にそんな風に感じている。フリップ先生のギターは時に、水のごとく流れ、風のように自由でありながらも、火のように燃え盛るフレーズで聴くものを圧倒してきた。そんなフリップ以外のメンバー、ジョン・ウェットンの骨太のベースと、ビル・ブルーフォードの流れ弾けるようなグルーブとのバランスも絶妙なこのアルバムを、赤い誘惑にふさわしい一曲として捧げよう。

特集:赤の誘惑

  1. 赫の他人の睦みあい・・・神代辰巳『赫い髪の女』をめぐって  
  2. 天使は辛いが、愛は強い・・・増村保造『赤い天使』をめぐって 
  3. 赤い砂漠、死に至る病・・・アントニオーニ『赤い砂漠』をめぐって 
  4. プラトニックな赤、遠くて近い愛の形・・・キエシロフスキ『トリコロール/赤の愛』をめぐって  
  5. 機関車女貞子がゆく・・・今村昌平『赤い殺意』をめぐって 
  6. 航海先に立たず、お遊びはほどほどに・・・ポランスキー『赤い航路』をめぐって
  7. 仁義と輪、とは?・・・ジャン=ピエール・メルヴィル『仁義』をめぐって 
  8. 虫の知らせは無視することなかれ・・・ニコラス・ローグ『赤い影』をめぐって 
  9. 師に交われば垢抜ける・・・黒澤明『赤ひげ』をめぐって
  10. はめてはめられゼロ地点、それは地獄手前の赤い河・・・野田幸男『0課の女 赤い手錠』をめぐって