今みたいにインターネット経由の情報がまったくない時代。
よりどころにしていたのは、直にレコードショップへ足を運ぶこと。
そこからの情報収拾がてっとりばやかったのだ。
ジャケ選びも重要な要素だった。
そうして、片っぱしから面白いと思うものを買って聴きまくる。
(お金はないので、レンタル屋にも通い詰めた)
そこで、レコードに入っている解説を熟読する。
そこからまたどんどん知識は膨らみ、興味が掻き立てられる。
当時の雑誌媒体のメインといえば、
「ROCKIN ON」だとか「ミュージックマガジン」だったり、
あるいは「宝島」などがあり
そうしたものもチェックしながら
少しでも興味のあるミュージシャンの情報を仕入れていた。
情報通の友人もいて、情報交換も大いに役立った。
メインのニューウェイヴアーティストに関しては
ほぼそうしたもので、まかなえたが
やはり、そこから先も知りたいと思うのが
好奇心旺盛な輩の自然欲求だ。
そこで、阿木譲が出していた「ロックマガジン」に出会う。
ネオゴチックだの、ハンマービートだの、インダストリアルだの、シノワズリだの、
聴きなれない言葉が立ち並び、
知らないアーティストの存在が実に蠱惑的に飛び込んで広がっていった。
そして、関心をくすぐられ、掘り下げるということを繰り返していたのが音楽との向き合い方であり
十代の青春の日々だった。
Papa’s got a brand new pigbag:PIGBAG
Jonny:Holger Hiller
ノイエ・ドイチェ・ヴェレ(なんのことはないジャーマン・ニューウェイヴのこと)の雄、元Palais Schaumburgのホルガー・ヒラーのソロ第一弾「邦題:腐敗の坩堝」からのシングルで、このヒットナンバー「JONNY」は、サンプリングを駆使した奇妙でキッチュで、しかもどこかポップなまでに中毒性がある。
O Superman:Laurie Anderson
それまでのニューウェイヴ然とした、暴力的でカオスなものとは違い、あるいはキッチュさからもへだったインテリジェンスを感じるアルバム『BIG SCIENCE』でデビューした才女ローリー・アンダーソンは、ジャケットのイメージにあるようなアート・パフォーマンス風な印象で颯爽とシーンに現れた変わり種だった。この曲を聴けばどこか近未来的な予兆をはらんでいたことがわかるだろう。
Love Will Tear Us Apart:JOY DIVISION
23歳の若さで自ら、この世を去ったポストパンクのカリスマイアン・カーティス。ジョイ・ディヴィジョンが残した曲の中で「Love Will Tear Us Apart」はバンド史上最大のヒットを記録したが、いみじくも、その直後にメインが死を選ぶことでバンドは消滅し、ある意味神曲化された曲でもある。歌詞を追うと、不毛な愛、その苦悩が伝わってくる。いまなお影響を与え続けているカリスマはの墓石にはこのフレーズがしっかり刻まれている。
Launderette:Vivien Goldman
The Flying LizardsのヴォーカルであったVivien Goldmanは、当時、あのAdrian Sherwoodがプロデュースしレゲエ・ダブ路線楽曲を残している。それがこれ。音響面では、PILのキース・レヴィンが前面に絡んでサポートしているので音に類似性がある。
ラフトレードの「CLEAR CUT」というコンピレーションのなかにこのVivien Goldmanの曲が入っていたのをきっかけに、出会い良く聴いていた。
Bed Caves:Danielle Dax
カール・ブレイクとゲイリー・サッチャーが結成したポストパンクバンド、レモン・キトゥンズに参加していたダニエル・ダックスがインディーズ時代に手がけたソロ『POP EYED』は、ちょっとおぞましい解剖学のコラージュジャケットだが、全て楽器を自ら手がけて、ロー・ファイでキッチュなサウンド・コラージュを展開している。まるでどこかPILの『FLOWERS OF ROMANCE』を彷彿とさせるような、民族音楽ベースのゴチックノワールな実験性をもっており、強烈なインパクトを発している。ちなみに、さすがにまじまじとは見れないが、これは実際にレコードを買ってもっていたから、今なお頭から離れずのこっている。
History of a Kiss:Gabi Delgado
元DAFの片割れ、ガビ・デルガドのソロ『Mistress』は、DAF当時の激しく硬派な印象からは一転して、洗練されたごきげんなエレクトリックファンクのノリに、あのささやきのセクシーボイスが絡むポップなノイエ・ドイチェ・ヴェレを展開している。プロデュースにはあのコニー・プランクと、ドラムにはジャッキ・リーベツァイトが参加。
The Modern Dance:Pere Ubu
鬼才で巨漢デヴィッド・トーマス率いるペール・ユビュ(レル・ウブとも表記される)は、アルフレッド・ジャリの戯曲「ユビュ」から名付けられたアメリカのバンドだがインダストリアル・フォークと名乗っていたが、
少し特異な位置付けにある実験的でオルタナ、ガレージロックなどの要素に満ちたポップミュージックを展開してきたバンドである。
そのボーカルスタイルは、ちょっと素っ頓狂で、あのデヴィッド・バーンなんかにも影響を与えているように思う。実に個性的だ。
Ear to the Ground: David Van Tieghem
主にイーノやトーキング・ヘッズ、ローリー・アンダーソンといったNYのミュージシャン達との共演で知られる、デヴィッド・ヴァン・ティーゲムは、このPVにあるように、リズムをすでに身体性に組みこんで、路上にあるもののみならず、なんでも打楽器にかえてしまう知的でクールな印象を与えるパーカショニストであり、サウンドデザイナーである。これを見ると、なんでも叩いてリズムをとりたくなってしまうんだよな。ぼくはこれをティーゲム遊戯と呼んで真似していたものだ。
ANIMATION: Cabaret Voltaire
スロッビング・グリッスルと並ぶインダストリアル・サウンドの草分け的存在として、七十年代後半ラフトレードからデビュー。ダダイズムやカットアップ、コラージュといった実験的音楽性を全面に押し出した格好で、影響力を誇っていたバンドキャバレー・ヴォルテールだが、八十年代に入ってインダストリアルな要素を残しつつ、ダンサブルで、ポップなエレクトロニックダンスミュージックへと転身。この1983年の『The Crackdown』あたりに、その辺りのエッセンスが凝縮されている。
このほかにもまだまだある。
元祖音響派ON-Uサウンドを設立したエイドリアン・シャーウッド絡みの、
ニュー・エイジ・ステッパーズ、マーク・スチュワートや
あるいはスカ、2トーンと呼ばれたザ・スペシャルズやマッドネス、
スミスやヤング・マーブル・ジャイアンツ
モノクローム・セットといった
ラフトレードに代表されるネオ・アコースティックやギターポップたち、
そのほかにも、ニューウェイヴの枠には収まりきれないような音楽
例えばアート・ベアーズ、ヘンリー・カウ、スラップ・ハッピー、
ザ・ワイヤーといった前衛的なアートロックなどを含め、
実に多様で実験的な音楽が無数にあふれていた。
こうしたものを総じてニューウェイヴとひとくくりにするには
どだい、無理がある。
が、同時にまた、ニューウェイヴと呼んでしまえば
手っ取り早く収まって通用してしまう、そんな時代でもあったのだ。
今聴いてもかっこいジャズファンクでアフロ&コズミックなナンバー。思わず踊り出したくなるPIGBAGの「 Papa’s got a brand new pigbag」は、言わずもがなファンクの帝王JBの曲をもじったもの。この曲は、確か何かのCMで使われていた記憶がある。ポップグループの分派ではないが、ポップグループを解散後、ベースのサイモン・アンダーウッドが参加し、中心になってブリストルで結成されたPIGBAGは、ポップグループの進化形だ。