メレディス・モンクに呼び戻されて

Meredith Monk 1942〜
Meredith Monk 1942〜

想念を操るシャーマンの声、魂の子守唄が聞こえる

声の魅力。声の魔法。
それは人のみにあらず、鳥や動物にも当てはまる。
その声というものが素晴らしいまでに
一つの純正の楽器だと教えてくれたのが
メレディス・モンクだった。

彼女の表現が、
いわゆる現代音楽のジャンルに属するのかどうかはさておき
作曲家でありヴォイス・パフォーマーであり、
同時に振付師、演出家、
時には映画・映像作家でもあることからも
その定義は曖昧で、何なら別段不要かもしれない。

初めて聞いたレコードはECMの『Dolmen Music』だった。
以来、このアルバムはまさに魂の子守唄として
長年にわたって自身の魂を癒してきてくれた大切な音楽だ。
「GOTHAM LULLABY」を聴くたびに
身体のなかに根源的な何かが
ふっと吹き込まれるかのようなそんな思いで熱くなる。
ちなみに「GOTHAM LULLABY」は
あのビョークがカバーをしていて
その解釈もまた面白いと思っていた。
メレディス自身も気に入っているという。
現代音楽というジャンルでは収まりきらない
彼女の音楽の指向性の幅広さを物語る。

ヴォーカルというと、ロックやポップスの場合なら
主に、メロディに乗せて歌を歌う人、
という立ち位置だと思うのだが、
メレディスの場合はそうした単純な認識から
全く別次元に連れて行ってくれる、いわばシャーマンだ。
声を使う巫女さんである。

もちろん、声のイノヴェイターとして認識されているし、
そんな単純なことをやっているとは思えない。
一旦そんな洗礼を浴びてしまうと、
普通のポップ・ミュージックに満足できなくなるし
ヴォーカリストの懐の幅にまで思いが巡ってしまう。

例えばアメリカ北西部の先住民である
チヌーク族にインスパイアされた『Facing North』。
その声は遥か太古の記憶を呼び覚ますような感覚と
遠い未来に孤高にたたずむ長年生き延びて来た民族としての血が
ひとつの音楽のなかに共存しあっているように響いてくる。

それにしてもこの豊かさは何だろう。
楽器の音色にも決して劣ることのない表現力。
場合によってはそれらを簡単に凌駕してしまうほどの力がある。
メレディス・モンクの表現力は
人間そのものの可能性、能力をはるか彼方へと
自由に誘ってくれるのだ。

話はまったくそれるが、
仮にホラー映画のサウンドトラックを
このメレディス・モンクがやったらどうなるだろう?
そんな突飛な想像がぼんやりと浮かんでいる。
これまでもコーエン兄弟の『ビッグ・リボウスキ』や
ゴダールの『ヌーヴェル・ヴァーグ』等で使われてきたが
あまり映画に沿った効果的な使われ方をした作品には
出会えていないように思える。

ホラー映画とモンク、ではちょっと組み合わせが異質な気もするが、
ホラーにも様々なタイプの映画がある中で
別に書き下ろしである必要もないのだが
今まであるコンポジションの中にも
精神性の恐ろしいまでに高い、
一筋縄では行かない曲もそれなりにあって、
時々、その雰囲気に畏怖してしまう。

例えば『Book of Days』のなかの「Madwoman’s Vision 」
人間の精神性に入り込むほどの狂気が漂っている。
単純に怖い映画に使えというのが安直な思いつきではないつもりだが
それこそ、この曲に見合う映画のクオリティとなると
相当に重い作品になるだろうし、
イコールスコア、とはならないかもしれない。
これはメレディスの脚本書き下ろしの映画作品で、
その物語を想定したコンポジションだから
別にホラーでもないし、
映像と音楽が見事に合致しているのは当然だが、
メレディスの楽曲が映像への喚起力に長けているのは
単なる偶然ではあるまい。

「私は無時間性、繰り返されるサイクルとしての時間の感覚を
表現しようと試みている」
『Book of Days』のライナーノーツにはそう書かれているが、
メレディスの声はある種の想念の世界に思えてくる。
それは霊性、魂の声といいかえてもいいかもしれない。
描かれる14世紀は中世の都市と現代を結ぶ一つの幻覚。
一人の少女が見た世界は果たして
正気なのか狂気なのか。
はたまたリアルなのかファンタジーなのか。
それらはおしなべて一つに繋がった体系の下に
自在に流れている精神性(意識)なのだと解釈するしかない。

ホラー映画と一口にに言ってしまったが
精神性を全面に押し出した映像、映画になら
メレディスの声、曲目は
かなりリンクする部分が出てくるんじゃないだろうか?
そんな風に思えるのだ。

ECMレーベルでのメレディス3選

Dolmen Music

やはり、このアルバムの衝撃につきる。
一曲目「GOTHAM LULLABY」につきる。
こんな狂気をはらんだ美しい音楽があるのだろうか?
そう思った。
事あるごとにきいて、自分のなかの狂気をなぐさめている。
不思議に落ち着く。
まさに魂の子守唄なのだ

Book of days

このアルバムはサントラにした同映画を見た。
内容は少し忘れかけているが、音楽に合致した、
中世の夢物語だった。
この先、たとえ、頭がおかしくなっても、
ここの住人なら、安心していきてゆけそうな世界だった。
賢者に見守られる少女の眼差しに、タイムスリップしてしまう。

Facing North

メレディスの声は北から聞こえてくる。
冷たく、透き通った空気とともにはこばれてくる。
それでも、その声はどこかやさしい。
それでも、その声はどこか怖い。
人間の営みを超越したはるかかなたからやってきたシャーマンの歌。
ここではアメリカ北西部の先住民であるチヌーク族への郷愁が
動きをともなって再現される。
たしか、彩の国さいたま芸術劇場で僕が見たのはこの公演だった気がするだけど、
記憶が曖昧だ。
フラハティの映像がなぜだかリンクして記憶にある。

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