イーラをめぐって

Ylla 1911 – 1955
Ylla 1911 – 1955

イライラ感よ、さようなら。イーラのカメラ愛に微笑みを。

ある休日。
昼前にごそごそ起きだして食い物を探して町へ練り歩く
俺は熊なのか? 
みかけてもくれぐれも撃たないでおくれよ。
その熊は、結局いきつけの蕎麦屋で温かいそばを喰らい、
ふーと一息、まんぷくしたあと、
たまたま通った古本屋で、おやまあと手にした写真集が、
イーラ「動物の世界」と言うものだった。
ただ動物が可愛いと言うだけではなくって
なんだか、動物たちが人間を理解して
被写体に収まってる感じにおどろいた。
近すぎず、遠からず。
絶妙の距離が保たれている写真だった。

カミーラ・コフラーこと、
ウィーン生まれのハンガリー人イーラは、
ぼくが好きな女性動物写真家で、
パリで世界で初めての「動物ポートレート専門スタジオ」を開いたあと
アメリカNYにわたって動物写真を撮り続けた人だ。
その後念願のアフリカに滞在して野生動物を撮り始めるに至るが
不慮の事故で命を落としてしまう。
そんな根っからの動物愛がもたらした奇跡のような動物写真は
現代のあざとい眼差しなどとは無縁でどこまでも気持ちがいい。
その純粋かつ野心的なカメラアイは
今でも多くの人を魅了し続けているのもうなづける。

といって日本ではあまり知られていないのが実情か。
いや、子供向けの絵本なんかが出ているから
むしろ子供達に人気があるのかもしれない。
でも、大人だって、一度見たら忘れられないほど
イーラにはイーラでしか撮れない絶対の間があり、
それは、ほんとうに人間のような表情、
瞬間を切り取るに長けたスタイルを習得した
生粋の動物勘から来る産物だ。
だから、イーラの動物写真を眺めていると、
ほんとうに心が和むんだよなあ。

わたしは、家畜や飼いものでない動物は、強制されないかぎり、人間と関係をもつことはしないのだと思います。彼らの本能はわたしたちを避けることです。それがうまくいかなくなったときには逃げ出して、ひとりでいたいというのが、彼らの永遠の秘密です。
「動物の世界」(平凡社)より

動物を追いかけるのではなく、
彼らの視点に沿ってたつ。
そんな写真にはけっして厚かましさ、傲慢さなどはにじまない。
そこにはいつも自然体の愛がある気がして、
うむ、あなたならいいですよ、
と動物たちがすっと投げ出した表情が
そこにはあるってわけか、うふふふ。

そんなイーラは“お仕事中”にジープが転落して
非業の死を遂げたらしいのだが、
これも、動物社会では、日常茶飯事
当たり前のようによく起こる出来事という意味では、
初めから諦観めいた思いがあったようにさえ思えてくる。

というわけで、
忙しない時間を生きていると
どうしてもイライラしがちになるし、
物事はなかなか上手く自分の思い通りには運ばない。
そんな時に、イーラの写真集を眺めて
にっこりと微笑む、
雨がふっていても、傘などささず
なに食わぬ顔ですいすいあめんぼうのように一人歩く。
雨の路面は滑りやすく、こけなきゃいいけど、
こけたらこけたで、はははと笑えばいい。

まあ、そんなもんだ。
その点、動物ってのはいいなあ。
いつだって何食わぬ顔さ。
でも何かあったら一目散に逃げ出して
冗談なんか通じない。
臆病も臆病。
究極の臆病ものだ。
それをまじめに解釈する方が馬鹿馬鹿しい。

一段落したら、どこかにいこうと思っていたけれど、
動物園もわるかないなあ、
よし、キャメラをもってでかけるとしようか?

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