モニカ・ヴィッティスタイル『情事』の場合

L'Avventura (1960) Michelangelo Antonioni
L'Avventura (1960) Michelangelo Antonioni

ツンデレ情事顔のほころびにキュン

長年に渡り、あたかも我が物顔で
全てを知り尽くしているかのように
思いこんできた映画、アントニオーニの『情事』。
モニカ・ヴィッティという女優の、しかも顔そのものが
個人的に好きだということもあって、
我が家には三十年近くもポスターが貼ってあるからなのだが
実は遠い昔一度観たきり、ずっとご無沙汰で
中身の方もほぼ忘れかけていた有様であった。
そもそもアントニオーニの映画自体を
さほど見ていないというのが実情である。
『夜』『赤い砂漠』『欲望』この辺りぐらいのものか。
語る資格すらあるのかないのか、
それぐらい縁遠くも、長年慣れ親しんでいたはずのこの『情事』を、
ふと観たくなって今更ながらDVDで再見したのだ。

きっと時代を感じさせる、古びた作品だろうと、
どこかで舐めていたが、期待はいい意味に転んだ。
これが実に新鮮だった。
観てよかった。
いまなお観る価値の十二分にある映画だと、改めて思うのだ。
アントニオーニという監督は実に巧みな作家である。
画面には品というか気品があり、風格が漂う。
さすがにベルイマンや溝口と
肩を並べるだけの巨匠というだけのことはある。

主演のモニカ・ヴィッティも想像以上に素晴らしい。
我が目に狂い無し。
さすがはアントニオーニのミューズだっただけのことはある。
レネの『二十四時間の情事』の雰囲気を漂わせながら
同じスタッフに支えられているのが、
サシャ・ヴィエルニーのカメラワーク、
ジョバンニ・フスコのスコア。
どちらも職人気質ゆえの見事さを披露している。
いわゆる傑作と言われるだけの作品に仕上がっているもうなづけよう。

それにしてもイタリア男の手の早さときたら・・・
どこまでもイメージ通りで笑えるのだが、
それまでは大人の良い女の仮面を被っていたモニカ・ヴィッティが、
歌謡曲に合わせて唐突に酔っ払ったかのように、
ホテルでみせる嬌態の可愛さにはキュンとした。
ツンデレぶりが実に可愛いのだ。
まあ、途中あまりにも唐突にミステリアスに
失踪してしまう恋人を探しての道中だからといって、
そこで恋が芽生えるなんてのは、
いかにもありがちなストーリーではあるのだが、
やはりこのメリハリは凄い。

ただ、自分がいくら不貞の負い目があるからとあって、
泣きながら女にひれ伏す男のだらしなさぶりを許してしまうあたりが
女の女たる弱さだといわんばかりのメローな幕切れで、
結局は女の失踪の真相の方は
あくまでもダシに使われ謎のままということになる。
『欲望』でもそうだったが、アントニオーニという監督は
よほどこのミスティフィカション、謎が好きなのだろうか?
この謎のまま、と言うのが、
もっとも人の気を惹くための口実のような気がしないでもない。
大人の情事、ならぬ大人の事情と言うやつか。

まあ、さほど多くの作品を観ているわけではない監督に
安直な判断を下すにはいたらないが、
自分のなかでは、イタリア映画というと
フェリーニやベルトルッチあたりへの盲信が未だに根強いとはいえ、
今後はアントニオーニにもしっかりと敬意を払いたいと思い直した次第。

そして何よりモニカ・ヴィッティという女優の
あの気だるい色香に改めて心うばれるのであった。

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