進藤英太郎

『近松物語』1954 溝口健二映画・俳優

溝口健二『近松物語』をめぐって

それほどのことまでをしでかしての危険な恋愛沙汰ゆえに この話は、当時の大衆の胸を打ったに相違なく、 当然、都の民衆たちの耳に入らぬ訳も無く それを西鶴の方は、この姦通譚を 男女の情愛のもつれに重きを置いたが、 近松は、むしろ悲哀としてとらえ 浄瑠璃にして、世評を博したのを下敷きにしたものを、 依田義賢がその両者の間をとって脚本を書いたのが この映画版『近松物語』である。

山椒大夫 1951 大映 溝口健二映画・俳優

進藤英太郎スタイル『山椒大夫』の場合

画面における迫力、人間味。 悪というか、邪念というか 人間としての業の奥行きをこれほどまでに 凄みを持って滲ませる俳優進藤英太郎は素晴らしい。 山椒大夫はちょっと誇張の域を出ないが 守銭奴、あるいは吝嗇な人間、 はたまた助平爺や物分かりの悪い頑固おやじなど 完全なる悪、ではない小市≈民的な悪の権現として この人ほど似つかわしい役者を知らない。 それは名匠溝口作品で証明されている。