アート・デザイン・写真

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ロピュマガジン【ろぐでなし】vol.40 ポストパンデミック前編:アートでぶらり、美術鑑賞特集

絵を描くことは実に楽しい時間なのだが、 それと同時に、他人が描いた絵を見るのも、 これまた楽しいものである。 人間の個性とはつくづく、その人にしか宿らないことを教えられる。 絵は言葉とは違うものの、それでも人間性が如実に現れる。 アートとひとことでいっても、落書きもあれば、ファインアートもある。 また、コテコテの現代美術やコンセプチュアルアートまで、実に多種多様だ。 それこそ名の知られた画家の作品はいざしらず、 近頃では、素人画家や日曜アーティストにとって、 表現の場はいくらでもあるし、そのメディアもさまざまである。 デジタルを使えば、瞬間的なアートがその場で生成されてしまう時代だ。

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東京国立近代美術館「大竹伸朗展」のあとに

16年ぶりという東京国立近代美術館での「大竹伸朗展」では、 視覚にさえも重力が加わるのを改めて知った。 巨大なキャンバスはもちろん、 日常の漂流物をスクラップブックに詰め込み、 さびれた小屋をまるごとセット化し、 その究極が「ダブ平」という音響装置としての舞台を構築する。 大竹伸朗という巨人の、まさに、これら膨大で圧倒的な作品群への印象を、 あえて、陳腐な言葉や耳慣れない表現で置き換えてゆくことには、 こちらも深く注意を抗いながら、 全てを一瞬にして無に記される瞬間瞬間に出会ってしまった現実の前に 立ち尽くす。 だが、不思議にもそれゆえに、魂が浄化されてゆく快楽に溺れてしまうのだ。 これが芸術の快楽と呼ぶか、呼ばないかは自由である。

囚われの女 1968 アンリ=ジョルジュ・クルーゾーアート・デザイン・写真

アンリ=ジョルジュ・クルーゾー『囚われの女』をめぐって

映画のタイトルは『囚われの女』。 アンリ=ジョルジュ・クルーゾーの遺作である。 いったい、女はなにに囚われているというのか? 見終わった直後に、すぐには答えられない。 が、確かにおかしな女である。 こどもっぽさと女としての可愛らしさを同居させながらも、 なぜだか一人空回りばかりしている情緒不安定な女だ。 奇妙といえば、映画そのものが奇妙なまでに、視覚の刺激に満ち満ちており、 まずはそこに囚われることで、われわれも何かに囚われ 最後まで救いなき運命を辿る女ジョゼにつきあうことになる。

若冲 五百羅漢図アート・デザイン・写真

伊藤若冲という画家

筆さばき、精巧さ、あのイキイキとした色や形。 何よりもあの多産な作品群。 そして、時代を超えたイマジネーション若冲ワールド。 何度見てもウットリする。 なにしろ、描くことが大好きで、 短命だった当時の平均寿命からすると、 八十五歳まで生きのびて、 その証を残した、というのも驚きだけど、 好きな絵にしか関心を示さなかった、 根っからの絵描きマニア、というのだから、 これぞ天分という他あるまい。 好きこそものの上手なれ、とはよく言ったもので、 それこそ、家業の青果商にはほとんど関心を示さず弟に譲り、 自らは芸事や酒に溺れることもなく、生涯独身で通したという。

『虎図』長沢芦雪アート・デザイン・写真

長沢芦雪という画家

そんな波乱万丈の生涯を送った芦雪だが、 残された絵の腕前には唸らされる。 とりわけ270点にもおよぶ作品を残した 南紀滞在での充実期の、 その代表が「虎図」であり「龍図」である。 中には晩年「山姥」のようなグロテスクな作風もあれば 大の犬好きであったこともあって 「白象黒牛図屏風」の横たわる大きな牛のふところに ちょこんと佇むミニュチュアの子犬をはじめ、 現代でも人気を博すようなかわいい犬の絵も散見している。 そんな芦雪のことを想像すると、必ずも悪い人間だと思えなくなってくるし 憎めずふと愛おしさが募ってくる、そんな不思議な魅力があるのである。

瑛九夫妻アート・デザイン・写真

瑛九という画家

EI-Qこと瑛九という、ちょっと変わったペンネームの画家がおりましたとさ。 主に抽象画から版画、印画紙の特性を生かしたフォトグラムまで まるで光のごとくわずか48年の生涯を駆け巡ったアーティストである。 いわゆるフォトモンタージュというという マン・レイが試みた前衛的手法を新たに再構築したような世界を垣間見れば 瑛九もまた“光”に魅了された男であったことを理解するだろう。 もっとも、その作風を見ていると、 思わず影絵の男と言っていいのかもしれない。 どこかで観た風景ともいうべき物語が展開されている。

Wilfredo Lamアート・デザイン・写真

ヴィフレド・ラムという画家

その名もヴィフレド・オスカー・ドゥ・ラ・コンセプシィオン・ラム・イ・カスチーヤ。 キューバが共和国宣言をした年に生まれたのが このヴィフレド・ラムという画家の始まりである。 母親がコンゴ人とスペイン人との混血、父親が中国人という混血児であった。 (ちなみに、Wilfredo(ヴィルフレド)という名前だったらしく、 行政上のミスで「l」の一文字欠けた、「ヴィフレド」という名前になったらしい)

Henri Rousseauアート・デザイン・写真

アンリ・ルソーという画家

話は変わって、フランスのラヴァル出身の画家アンリ・ルソーの話をしよう。 晩年の「夢」と題された傑作のことを思い出した。 ジャングルの中に、ポーランド王妃の名前であるヤドヴィカ (ルソーがかつて恋していた女性らしい)という女性が 裸体で横たわっている不思議で幻想的な絵である。 ルソーの十八番といえば、なんといってもこのジャングルである。 密林こそがルソーが求めた楽園だったのだろう。 市中の景観や、人物画と並んで、このジャングルの絵は 遠近感や立体感といった視覚上現実を忘れることで、 自在に夢と戯れることのできるルソーの庭たる空間なのだ。 とりわけ、植物、葉っぱなどの造形には並々ならぬこだわりをみせ そのエキゾチックなムードは、幻想的であり のちのシュルレアリスムの予兆とよんでもさしつかえないほどに、 独創的な作風をすでに懐胎していたのである。