アンリ=ジョルジュ・クルーゾー 『恐怖の報酬』をめぐって

恐怖の報酬 1952 アンリ=ジョルジュ・クルーゾー
恐怖の報酬 1952 アンリ=ジョルジュ・クルーゾー

恐怖が来るぞ、来ると狂うぞ、いや死ぬぞ

たった一滴で人生を変えてしまう危険物。
それはな〜んだ?
その衝撃感動が高いという特性によって
ダイナマイトの原料として有名なあのニトログリセリンである。
一転、狭心症の治療薬としても知られている。
文字通り、毒にも薬にもなるという両極性を持つ、
このなじみがあるんだかないんだか
いまひとつよくわからないこのニトログリセリンを巡って
もっとも有名なストーリーをひもとけば、
ジョルジュ・アルノー原作の、
アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督の傑作サスペンス映画
『恐怖の報酬』について語らずにはいられない。
油田に起きた火災をこのニトログリセリンを使用して
爆風で消火するといった、
なんともダイナミックというか、荒手というか
我々一般の人間の常識からはちょっと想像を超えた
ハードなシチュエーションであるのだが
そのスリルと緊張感だけは、タイトルのインパクトからも
十二分に伝わってくるはずだ。

その緊張感を演出するために、
前半は長い前振りで仕事にあぶれた移民たちの嘆きの生活に割いておいて
その導線から後半一気に普通のトラックで500kmの輸送を命がけて敢行し、
その報酬を受け取るという話を映画にした作品である。

舞台は南米ベネズエラ。
まるでゲームの実写版といった感のある難所のオンパレード。
道は昔の洗濯板の如くガタガタだし、落石などの可能性のある山間部を縫って
時にターンするにも幅がないような道を行かねばならない。
フランスからの流れ者で食い詰めた
イブ・モンタン扮する主人公のマリオを始め
4人の猛者が二班に分かれてこの危険な賭けに挑むわけだが、
マリオと組む同胞のジョーは、途中何度も怯んで見せる、
いわばビビリである。
それを叱咤激励しながらの、マリオとの道中
ハラハラドキドキ、その緊張感に感情がゆれる。

といっても、これぐらいの難所なら驚くまでもない。
問題は、命に直結するニトロの威力である。
そこでのちょっとしたしくじり、気のゆるみは許されない。
よって、ルイージ、ビンバ組は途中、
まんまとニトロの餌食になってあえなくドッカン昇天。
(そりゃそうだよな、難なく運搬に成功した話じゃつまらないわなー)
しかし、主役はそう簡単に殺すわけにはいかぬのだ。
が、片割れのジョーは途中ドロドロ油ぬかるみ地獄のなかで負傷して
それが元で、ゴールにはたどり着いて喜びを共有できない。
“名誉の戦死”である。

結局四分の三はニトロの前に散り、この賭けはマリオだけが勝利した。
まさしくスーパーマリオである。
そうして、燃え盛る油田は無事消火に至ってメデタシ、
と思いきや、最後にはまたどんでん返しが待ち受けている・・・
あまりにもあっけないラストである。
救いなどどこにもない。
その辺り、言葉を費やしての野暮な説明より
映画を見ていただくしかない。

このクルーゾー版に感銘を受けてリメイクされたのが
フリードキンによる1978年度リメイク版だが、
今回まず、元祖『恐怖の報酬』のほうについて言及したのは
幻の傑作、フリードキンの最高傑作と誉れ高いリメイク版に触れる前に
その踏み台と言ってしまうにはあまりにもったいなく
元をきちんと見直して正しい認識をもっておきたかったまでである。
ニトログリセリンの運搬に命をかける男たちの悲哀は
いずれにもストーリー上共通の柱ではあるが、
やはり、恐怖へのアプローチが時代を越え、
国境を越えればこうも違うものかと
映画ならではの醍醐味を考え直させられるに至るのである。

Tangerine Dream ‎:Phaedra 

のちにフリードキンによる1978年度リメイク版で、サウンドトラックを担当したのがドイツクラウトロックの老舗バンドの一つ、タンジェリン・ドリーム。クルーゾーの『恐怖の報酬』がモノクロ仕様で、一見チグハグな選曲にも思えるが、こうやって、映画を見終わって再びこういう電子音楽に耳を傾けていると、やはりイマジネーションがどんどん膨らんでくるし、昨今のエレクトロニカなんかにも多大な影響を与えているのがよくわかる。現代では当たり前のようにサスペンスやホラー映画なんかに流れている風潮からも明らかだが、そうした人間心理に寄り添う確かな波動ここにはあるのだ。タンジェリン・ドリームの中でも一際評価が高く、スペーシーでスピリチュアルなシンセサウンドとシーケンサー反復を見事に融合した傑作の誉れ高き1974年の名盤『フェードラ』からのタイトルトラック。