成瀬巳喜男『浮雲』をめぐって
不倫関係にかぎらず、多かれ少なかれ、 男女関係というものの行く末は こうした一瞬の輝き、一瞬のときめきを求めて たとえ、結果がわかっていても、その甘美さの前には抗えず、 逃れられない人間の業そのものなのかもしれない、と思う。 ただ『浮雲』では、その深い業へのカタルシスが、 刹那にもとめる激しい肉欲でも、 官能を貪ることで満たすことはできないのだ、という、 そんなメッセージのような気配をも同時に読み取りうるのである。 こんな恋愛映画が日本にあったのだ。 そこは、日本人だからこそ、 理解しうるであろう男と女の駆け引きだからこそ、 よりいっそ愛おしいく思うのかもしれない。