映画・俳優

赤い天使 1966 増村保造映画・俳優

増村保造『赤い天使』をめぐって

文字通り若尾文子扮する西さくらこそが「赤い天使」なのであるが、 彼女の場合は、ただ単に負傷兵の介護という枠に収まらず、 負傷した兵士の命をつなぎとめるために 手足を切断する際には、暴れ発狂する患者を抑える役回りはもちろん 挙げ句には、性的な処理までこなさねばならない。 おいおい、いやはややれやれである。 天使家業はラクではないのだ。 まさに身体を張ったその使命感には頭が下がる。 が、この映画が単に反戦映画の枠を超えている部分であり、 それを折れずに遂行する強さがどこまでも美しい。

四畳半襖の裏張り 1973 神代辰巳文学・作家・本

神代辰巳『四畳半襖の裏張り』をめぐって

春本風味を下敷きにしつつも、神代辰巳が 日活ロマンポルノの枠内でうまく撮り上げたこの作品、 そこに男と女の睦み事があっても、それだけじゃない。 観ればわかるが、猥雑とは似て非なる風情、情緒が漂うのだ。 本編は荷風の得意とした「入れ子細工」をとり、 旦那と芸者との“粋な”遊びを中心に 軍人と芸者との哀しき逢瀬、 老練と若い芸者の芸道をめぐるやりとりなどが 1時間強のなかに色とりどり詰め込まれている。

ロピュマガジン【ろぐでなし】vol.36 赤い誘惑 映画特集映画・俳優

ロピュマガジン【ろぐでなし】vol.36 アカにまみれた映画特集

タイトルに「赤」もしくはそれ相応の色を想起させる映画を 取り上げて、その映画自体についてあれやこれや書くだけのことである。 当然、各々の物語での「赤」の強度は違うし、趣も違う。 それは受け止める側の問題であり、 タイトルと作品の関連性に疑問を抱くのもある、 が、そこは無視して赤に宿る感性をなんとか引き出せればいいと思う次第だ

こちらあみ子 2022 森井勇佑映画・俳優

森井勇佑『こちらあみ子』をめぐって

そこで森井勇佑による『こちらあみ子』の話になるのだが、 こちらは紛れもなく傑作だった。 あみ子役の大沢一菜は実に強烈な個性の持ち主だ。 監督や周囲の思い入れもよくわかる。 しかし、ただ子役がいい映画というわけでもなく、 一本の映画としても、心に刺さるものがあった。 その意味では、冒頭の子役映画の罠にもってかれない映画だといえる。

さかなのこ 2022  沖田 修一映画・俳優

沖田修一『さかなのこ』をめぐって

とはいえ、この映画の真の魅力は、 そうした個性を重んじる「生き方」への提言であるとか 必ずしもジェンダーを超越した存在だとか そんなテーマ推しの映画ではないところにある。 つまりは、自然体なのだ。 確かに、のんが演じるミー坊は大の魚好き少年であり 背後にはそれを理解し、応援する母親の存在というものがあるにはあるが よくよくみていくと、それゆえ家庭というものが成立しなくなる、 そんな一面さえも出てくる映画として描かれている。

ある男 2022 石川慶文学・作家・本

石川慶『ある男』をめぐって

石川慶による『ある男』という映画がある。 原作平野啓一郎による文芸作品実写版だ。 こちら原作は未読ゆえ、その比較は出来ないが、 社会問題をも持ち込んだ硬質なテーマを 洗練された語り口で見せるに長けた映画で、かなり心を掴まれてしまった。 精鋭の俳優たちの演技も文句のつけようもない。 ここでは窪田正孝演じる谷口大祐ことXの存在感が目を惹く。

土を喰らう十二ヵ月 2022 中江裕司文学・作家・本

中江裕司『土を喰らう十二ヵ月』をめぐって

水上勉の『土を喰らう日々』というエッセイがベースである。 そのエッセイは、若き水上が禅寺で覚えた精進料理を紹介していて 単なる料理本というわけではない。 その想いはおそらくは中江裕司にもあり、 脚本はむしろオリジナルに仕上がっている点でユニークである。 水上勉という作家を特に意識したことはなかったが、 少年期に禅寺で修行体験を元にした川島雄三『雁の寺』を初め、 吉村公三郎『越前竹人形』、はたまた内田吐夢『飢餓海峡』などで多少は触れている。 この作家の食を通したどこか仏教的な生き様に、共感できる自分がいる。 食がテーマとはいえ、これはある種、人生訓でもあるからだ。

さがす 2022 片山慎三映画・俳優

片山慎三『さがす』をめぐって

映画を見るにあたって、なんの前情報もなかったからか、 最後まで見終わって、とても驚いた。 日本映画もここまできたか、それぐらいの重厚な力量を汲み取ったわけだか、  なるほどコリアンノワールな雰囲気からも、 片山監督は、ポン・ジュノの元(「母なる証明」)に助監督について、 現場ではかなり有能ぶりを発揮していたというし、 その後、撮った初長編『岬の兄弟』も続け様に見たが、これまた驚いた。 共に内容は重いが、日本映画の未来に大いに希望を抱かせる、 なかなか凄い監督が現れたものだ。

全員死刑 2017 小林勇貴映画・俳優

小林勇貴『全員死刑』をめぐって

『全員死刑』。 何だ、この強烈なタイトルは? 手を伸ばすべきか、無視すべきか? しばらく頭のどこかにひっかかってはいたが、 ずっとスルーしてきた映画である。 バイオレンスは当然、恨み、辛み、憎しみと言った 負のオーラをプンプン匂わせる。 が、どこかで悪趣味なものも観てみたい、 たまにはB級ものが観たくなるってのが映画好きの性だ。 映画は所詮娯楽。 かならずしも高尚なものたちのためだけにあるものじゃない。 そんな気持ちに抗えず、勢いで観てしまった。