ビザ無し、国境なき、ディスビザールワールド
その昔、大井武蔵野館という知る人ぞ知る、
他の映画館ではとうていかからないような、
その手の映画に特化して上映する映画館があった。
人知れず通った記憶があり、随分と触発されたものである。
そんな今や一つのジャンル、カテゴリーになってしまっているのがB級映画。
B級と一言で言っても、そこには個人的な思いや、好みがあるから
良い悪いも、価値判断も千差万別。
なかにはカルト映画としての称号まで戴冠するものまであるが、
わざわざ楽しみ方を限定したくはない。
ないが、やはり、知らなきゃ語れない。
如何物食いもときには乙なもので、まずは百聞は一見にしかず。
もともと、ハリウッドの大作なんかは後回しで
古今東西、和洋違わず“ヘンな映画”があれば飛びついてしまう人間である。
要するに、我がアンテナにかかったかかった面白い映画というだけであり、
たまたま、マイナーだったり、認知度が薄かったりするだけの話だが、
中にはまったく映画史から見向きもされないままで、
なぜだか見限れないような類いの、マニアゴコロをくすぐるものがあり、
それゆえに、それを目の当たりにした当事者としては
なにかひとことでもつぶやかずにはいられないものをとりあげている。
よって、趣旨どおり万人に向けたものとは呼べないのかもしれない。
なかにはカルトオブキングな作品、
つまりその筋では誰もが知る人気カルトもあれば
それってそこまでカルトじゃないじゃん、というケースもあるかもしれない。
いずれにせよ、独断と偏見に満ちたB級映画を
あまり小難しくならず、できるかぎり、軽やかに語ってみたい。
B九の醍醐味は、理屈では計り知れないのだ。
とはいえ、相手はくせ者だ、ならずものである。
そんな簡単に扱えるような代物じゃない。
えてして、こちらが過剰に反応してしまって、
あることないこと、語り尽くしてしまうことになるかもしれないが
そこはひとつ、ご愛敬として勘弁願おう。
つまるところ、名作であれ、大作であれ、B級であれ
所詮、映画は映画なのだ。
その意味ではわざわざB級扱いをしなくてもいいのかもしれないが、
カルトの称号を与えることで、存在がさらにパッと輝くことはある。
これだけ情報にあふれた現在、
流石にほとんど話題にも上らないような、
まったく埋もれた怪作なんてものはなく、
同じカルト作品、B級のなかでも、語るべき順列はあるだろうが
思い入れの強弱こそあれ、
すくなくとも、個々ではどれが一番とか、
どれが優れているか、そんな優劣などは存在しない。
そもそもそんなことは誰にも出来ない。
映画の神様でさえ、そんな傲慢なことは許さないだろう。
ただ、僕個人が好きな映画、面白いものをチョイスしたまでである。
かといって、並列に扱うべきものでもないと心得てはいるつもりだ。
なにはともあれ、観ると意外とはまってしまうのがB級というものである。
たとえ、外れにせよ、駄作にせよ、
どこかひとつでも主旨をくみとりながら
その風味を楽しむことができればそれでいいのである。
テクストがまとまれば、第二、第三弾の特集を組んでみたい。
なにしろ、この領域だけは底なし沼のようなものだからである。
それを発掘し、分類するのはすこぶる楽しいのだ。
Klaus Nomi – Nomi Song
松本人志による「働くおっさん劇場」というバラエティに登場した、野見さんという強烈なキャラクターのことを覚えているのだが、ピエロか悪魔か、こちらは見た目からして音楽界の強烈なキャラクター、クラウス・ノミである。まさに業界ではカルトの名がふさわしい人物である。本人はオペラ歌手をめざしていたが、どう転んだか、菓子職人の道に入ったという変わり種である。よって「歌う菓子職人」の異名をとったアーティストでもあるのだが、デヴィッド・ボウイに見いだされ、そのバックコーラスもやっていたというから、その才能には確かなものがある。残念ながら、エイズを発症し36歳の若さで他界した。日本では「ザ・ドリームマッチ2020」で、ハライチ岩井勇気と渡辺直美が「塩の魔人・醤油の魔人」として、明らかにノミを真似たキャラクターに扮したことで話題になったが、ノミ自身は少し早すぎたのかもしれない。その名も「The Nomi Song」は、そんな彼のドキュメンタリー映画のタイトルにもなっている貴重なノミ賛歌である。オペラとテクノをニューウェイヴDVDではリリースされているのだが、ぜひ劇場公開して、そのカルトな存在を知らしめてほしいところである。
特集:独断と偏見とわが愛すべきB級アラカルト映画特集
- キング・オブ・カルトここにあり・・・石井輝男『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』をめぐって
- No.1になりたきゃ、炊飯器をだきな・・・鈴木清順『殺しの烙印』をめぐって
- カルトか、ホラーか、この様式ヴィーを見よう語ろう・・・アレクサンドル・プトゥシコ『妖婆 死棺の呪い』をめぐって
- 消し去れぬ思いに導かれて・・・デヴィッド・リンチ『イレーザーヘッド』をめぐって
- 地球に落ちてきた男を覚えていますか?・・・ニコラス・ローグ『地球に落ちてきた男』をめぐって
- 食料難には愛をもって備えよう・・・ジャン=ピエール・ジュネ『デリカテッセン』をめぐって
- アナーキー インザ刑務所・・・中島貞夫「暴動島根刑務所」をめぐって
- 人を酔わせるざくろの血を網膜に流し込む・・・ セルゲイ・パラジャーノフ「ざくろの色」をめぐって
- 無常ぐらし・・・実相寺昭雄『無常』をめぐって
- そもさん、せっぱの誘拐事件簿・・・伊藤俊也「誘拐報道」をめぐって
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