ロピュマガジン【ろぐでなし】vol.44 秋を嗅ぐ

ろぐでなし VOL.44

薹の立たない秋を纏いて

今回の特集は、特にテーマというべきテーマを掲げないでおこうと思う。
とはいえ、季節に乗じて、この秋の気配から感じ取れる作品を取り上げながら
この季節固有の、どこか寂しく儚いうつろいを取り上げてみたい。

暑さが一段落し、世を見渡せば味覚の秋、芸術の秋。
そんな生活の彩りの中、夏ほどに強烈でもなく、冬ほど過酷でもない、
この寛容な優しさに、身を任せながら、情緒を燻り出す
そんなコラムを描いて見たいと思う。

やはり、秋はいい。いいのだ、秋。
そんなことを静かに噛み締めながらも、
やはり、モノには道理、そして移ろいがあり、
それを感じることは幸せなことであり、
それを感じ取れる日本という国が年々愛おしくなっている。
幸い、ようやく、不穏な空気、気配が開けそうな世の夜明けを横目に
希望のわく、そんな思いと、少し憂いを滲ませるという相反する
複雑な思いもかくさずに、サウダージな詩的なひとときを
言葉に託したいと思う。

Harvest Moon : Cassandra Wilson

カサンドラ・ウイルソンの名盤『New Moon Daughter』から、ニール・ヤングの名曲「Harvest Moon」。まさに、この秋の夜風に、皮膚感覚で染み込んでくる。原曲は“長年連れ添った恋人への静かな愛の歌”だが、アルバムの “New Moon Daughter” からして、かつてアシャンティ族の格言 “病は欠けゆく月とともに来り、新月で癒される(“Sickness comes with the waning moon; the new moon cures disease”)” からの引用であるように、そこには「収穫の月=成熟した生命の循環」、すなわち、“再生”と“終わり”の二重性を暗示している。

ウィルソンの「Harvest Moon」は、恋人へのラブソングでありながら、人生の残照をも歌っている。声の奥にかすかに聴こえるのは、もう戻らない夏のざわめき、そして、ゆるやかに老いていく世界への慈しみだ。
彼女の歌声は「終わり」を恐れず、「終わりの中の静かな輝き」を讃えている。

特集:時を経ても薹のたたない、秋かぐわしき事柄特集

  1. 自然光を積む写真・・・「ルイジ・ギッリ 終わらない風景」展のあとに
  2. 赤いヤカンと諦観の美学・・・小津安二郎『彼岸花』をめぐって
  3. ホームはいずこへ?・・・山田太一ドラマ『岸辺のアルバム』をめぐって
  4. 拾って重ねる、愛のカタチ・・・アニエス・ヴァルダ『落穂拾い』をめぐって
  5. 低すぎやん、高すぎやん、空飛ぶ泥舟やん・・・藤森照信建築、茅野訪問記
  6. 歴史の裂け目に紛れ込んだ話・・・ダニエル・シュミット『デ・ジャ・ヴュ』をめぐって
  7. 100年前に投げられた骰子をめぐる四つの実験・・・マン・レイのサイレント映画をめぐって
  8. 赦しの季節・・・フランソワ・オゾン『秋が来るとき』をめぐって
  9. 夢見るアリスは漆黒に佇む・・・今道子の写真をめぐって
  10. 奴隷になるかペットになるか、人間のためされどころにカルトの味がする・・・ルネ・ラルー
    『ファンタスティック・プラネット』をめぐって
  11. 愛は毒を聖する。そうよ、あたしはさそり座の女・・・増村保造『清作の妻』をめぐって
  12. 近代ゴリラの最終抗議、ならぬ講義・・・豊島圭介『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』 をめぐって
  13. 秋とともに、ミュージック実行委員会  MORNING編
  14. 秋とともに、ミュージック実行委員会  AFTERNOON編
  15. 秋とともに、ミュージック実行委員会  NOCTURN編
  16. 秋とともに、ミュージック実行委員会  MIDNIGHT編