田中春男

『集団奉行所破り』1964 長谷川安人映画・俳優

長谷川安人『集団奉行所破り』をめぐって

長谷川安人監督の『集団奉行所破り』は 東映時代劇の中でも特異な輝きを放っている一本だ。 注目すべきは、舞台が江戸ではなく大阪であること。 冒頭の市川小金吾の浪花語りには、思わず引きこまれる。 このリズムが映画をテンポ良く、コメディ調に運んでゆく。 チャンバラでもなく、勧善懲悪でもなく、もっと滑稽でもっと人間臭い。 波止場に吹く湿った風にきく話として、 かつて海を渡り盗み、戦い、笑っていた男たちが再び集う群像ものだ。 彼らはもはや海賊ではないが、 時代に追われ、波に居場所を失っても陸に上がった“元海賊”たちであり、 どこかアウトローとしての連帯関係にむずばれている。 だが、東映映画の定番の、あの波しぶきのオープニングのように 彼らの血の奥にはまだ潮の音がはげしくくすぶっていることを証明する。 そこには、脚本を手がけた小国英雄の、 構造と笑いを兼ね備えた知恵がみごとに息づいている。

『近松物語』1954 溝口健二映画・俳優

溝口健二『近松物語』をめぐって

それほどのことまでをしでかしての危険な恋愛沙汰ゆえに この話は、当時の大衆の胸を打ったに相違なく、 当然、都の民衆たちの耳に入らぬ訳も無く それを西鶴の方は、この姦通譚を 男女の情愛のもつれに重きを置いたが、 近松は、むしろ悲哀としてとらえ 浄瑠璃にして、世評を博したのを下敷きにしたものを、 依田義賢がその両者の間をとって脚本を書いたのが この映画版『近松物語』である。