成瀬己喜男『晩菊』をめぐって
成瀬といえば『浮雲』が代表作にして最高傑作との評価はあるが 掘ってみれば、なかなか良作が他にも目白押しの監督で、 個人個人の好き嫌いをためらわずにいえば この『晩菊』なんかもあの『浮雲』に 負けじ劣らぬ傑作然としているのがわかる。
成瀬といえば『浮雲』が代表作にして最高傑作との評価はあるが 掘ってみれば、なかなか良作が他にも目白押しの監督で、 個人個人の好き嫌いをためらわずにいえば この『晩菊』なんかもあの『浮雲』に 負けじ劣らぬ傑作然としているのがわかる。
何に対してなのか、わからない感情。 それはおそらく孤独を味わったことのあるものへの 共感なのかもしれない。 あるいは、物語に入れ込むことによるまなざしの同化であろうか、 失われたもの、失われつつあるものへの孤独な眼差し。 ひとりで生きてゆくことの厳格なたたずみに伏した涙を そこでそっと胸にしまいなおす行為の美しさ。 ぼくは久しぶりに味わった新たな『東京物語』の哀愁の前に 自分が失ってきたものの幻影を重ねているのだろうか?