佐木隆三

冷血 1967 リチャード・ブルックス文学・作家・本

リチャード・ブルックス『冷血』を視る

そうした文学的傑作から、リチャード・ブルックスよる映画版をみると 「忠実な映像化」という枠組みからは微妙に逸脱して 新しい倫理観と表現手法に挑戦しているのがわかる。 被写体との距離を取るカメラ、断片的な記憶の再構成、 そして観客を不快にさせることでしか語れない真実が暴き出される。 同時にこの映画は、 文学と映画という表現形式の本質的な違いを浮かび上がらせている。 つまり、事実をどのように"物語る"か、その構造の差異が興味深い。 とはいえ、動機そのものは映画にも読み取れない闇として描かれていた。

復讐するは我にあり 1978 今村昌平文学・作家・本

今村昌平『復讐するは我にあり』をめぐって

映画版『復讐するは我にあり』では、 緒形拳扮する榎津巌という殺人鬼が 実話を元に書かれた原作に基づき 別解釈を加えられ、映像化された作品だと断言できる。 原作は、丹念に事実を洗い出し、その被害者側の視点にたって この榎津巌という人間像をあぶり出そうとする話だったが、 ここではさらに、原作と映画はあきらかな別物、という視点にたって この問題作をみなおしてみた。

『すばらしき世界』2021 西川美和映画・俳優

西川美和『すばらしき世界』をめぐって

西川美和による『すばらしき世界』は 佐木隆三による小説『身分帳』という原案からの映画化である。 そうした失敗者、元ヤクザの男が刑期を終え出所後 この社会でどういきてゆくのか、 周りの人間たちの反応とともに、 そうした世間の冷たい視線を浴びながら 生きてゆこうとする男のあがきその様子が描き出されている。