仲代達矢

他人の顔 1964 勅使河原宏文学・作家・本

勅使河原宏『他人の顔』をめぐって

文学と映画というのは、基本、似て非なるものであるが 映像化されても、その中身が害われず むしろ、視覚的な魅力が加味されて新たなる傑作然として 今なお記憶に刻み付けられているのが『砂の女』であったが、 その作品を映画化した勅使河原宏によって またしてもこの『他人の顔』も原作の妙味を残しつつも、 映像言語としての面白さを引き出し、 新たな発見を見せてくれた作品として、忘れがたい記憶を刻んでいる。 いずれも安部公房の小説があらかじめ映像を意識して書かれたように思えるし、そこを加味し脚本をアレンジしているのもミソだ。

切腹 1961 小林正樹映画・俳優

小林正樹『切腹』をめぐって

若き日に見たこの『切腹』には そのような人道的倫理の方に囚われていて 仲代演じる素浪人に、感情移入してみていたものだが 今はもう少し、引いた視線で物事を見ることができる。 その分で言うならば、この映画に正義はない。 何が正しく、間違っている、という絶対はない。 ただそこに、「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり」という 葉隠の精神があるとはいえ、 それが果たして美徳なのかどうか、 根源的問題に立ち返ってみる、という冷徹な視線が宿るのだ。