ミツバチのささやき

『フランケンシュタイン』1931 ジェームズ・ホエール映画・俳優

ジェームス・ホエール『フランケンシュタイン』をめぐって

よって、ジェームス・ホエールの『フランケンシュタイン』を、 ただの古典ホラーといって片付けてはもともこもない。 その核心には、稲妻が死体を打つ瞬間よりも、 怪物のゆっくりとした“まなざし”、 内なる感情のゆれを見つめていていたい瞬間があるからだ。 怪物は、怪物として、すでに誕生した瞬間から 世界にとっての“異物”として扱われることを余儀なくされる。 しかも脳のなかみは象徴的なまでに粗暴な殺人者のそれ。 実のところ、彼はまだ何も知らないし、なにもしでかしてはいないのだ。 そこには善悪も、暴力も、恐怖もない。 むろん、企みや野望も持ち合わせてはいない。 いわゆる赤ん坊そのものである。

瞳をとじて 2023 ヴィクトル・エリセ映画・俳優

ヴィクトル・エリセ『瞳をとじて』をめぐって

だれでも忘れられない映画というものがある。 ぼくにとって、ヴィクトル・エリセの『ミツバチのささやき』は そんな記憶に生き続ける一作品である。 スペインの映画作家ヴィクトル・エリセにとって、デビュー作であり 以後、約10年のスパンでポツポツと作品を撮りながら、 ここ約30年の歳月の沈黙を経て、完成させた『瞳をとじて』 満を持して、この寡黙な作家がようやくスクリーンに帰ってきてくれた。 今年83歳を迎えるエリセにして、長編4作目。

こちらあみ子 2022 森井勇佑映画・俳優

森井勇佑『こちらあみ子』をめぐって

そこで森井勇佑による『こちらあみ子』の話になるのだが、 こちらは紛れもなく傑作だった。 あみ子役の大沢一菜は実に強烈な個性の持ち主だ。 監督や周囲の思い入れもよくわかる。 しかし、ただ子役がいい映画というわけでもなく、 一本の映画としても、心に刺さるものがあった。 その意味では、冒頭の子役映画の罠にもってかれない映画だといえる。