カトリーヌ・ドヌーブスタイル『反撥』の場合
ロマン・ポランスキーの『反撥』は オープニングから、不安に怯えるドヌーブの大きく見開いた目が 恐怖を誘導してくる。 まるでヒッチコックのサスペンスのように扇動的だ。 だが、ホラーでもスリラーでもなく、 むしろ“恐怖という現象の内部に入り込んだ映画”というべきであり、 外界が主人公を脅かす、そんなあからさまな悪は一切出てこない。 彼女自身の内側で膨張し、伸び、ひび割れ、世界を侵食していく何者か、 その異様な力学によって、古いアパートの一室は、 人間の精神の奥深くに開いた “暗い裂け目”のような空間へと変貌する異質な映画だ。


