鈴木清順『陽炎座』を視る
時は大正、1926年の東京。 鈴木清順による『陽炎座』の世界に、一度踏み込むと そうやすやすと抜けられそうもない。 まさに、映画六道めぐり、 その夢なる景色が、単にまどろみにとどまらず まるで白昼、真夏の地面に揺れる蜃気楼のように、 こちらの意識をからかい、惑わせ、弄んだかと思うと、 甘美に絡み合っては、いつしかまた儚くすり抜けていく。 登場人物たちはまさに、生きては死に、死んでも生き続けるような そんな妖うさのなかを行き来戻りつする住人たちばかり。 劇中、大楠道代演じる玉脇の妻品子の言葉に 「夢というのはなぜ覚めるのでしょう? 一生覚めなければ、夢は夢でなくなるのに」とあるが、 まさに、このセリフがこの映画の核になっている。 そう、冒頭に引用したこの品子が劇中懐紙にしたためた、 小野小町の歌そのものではないか。