成瀬巳喜男『乱れ雲』をめぐって
成瀬巳喜男による遺作『乱れ雲』は 一見よく似たタイトルの傑作『浮雲』ほどにドロドロとした男女のもつれこそないが 名匠これにて完、まさに万感の思いの込められたラストが実に感慨深い。 いうなれば、ハッピーエンドには至らないが その過程を見守るだけのメロドラマ、である。 男と女がそこにいるだけで、絵になるのだが、 それが全くくどくもなく、どこまでもさりげないのが味である。 最後にして大傑作、とまであがめたてまつるつもりもないが 最後まで“らしさ”を失わず、匠の集大成ここにあり、 これぞメロドラマの名匠ダグラス・サークに匹敵する名作であり 成瀬恋しやたる、実に名残惜しい遺作として それを謳いたくなるほどに、この『乱れ雲』が愛おしい。