谷川俊太郎

東京都現代美術館『坂本龍一|音を視る 時を聴く』のあとにアート・デザイン・写真

東京都現代美術館 『坂本龍一|音を視る 時を聴く』のあとに

坂本龍一は、音楽を空間化し、視覚化し、彫刻化した。 言い換えれば、音という“見えないもの”を、いかに見えるようにするか? そして時間という“流れるもの”を、いかに感じ取れるようにするか。 その営為は、彼を現代美術の最前線にさえ立たせるに十分だった。 彼は音楽という狭い枠に押し込められることを嫌った。 その活動は、実に多岐に渡り、後期には政治的な発言も目立った。 それが坂本龍一の関心ごとだった。 彼こそは、日本人であり、教養人であり、戦士であった。

サクリファイス 1986 アンドレイ・タルコフスキー映画・俳優

アンドレイ・タルコフスキー『サクリファイス』をめぐって

タルコフスキーという映画作家のスタイルは、 いうまでもなく、独特な世界感を持ち、それを提示することにある。 歴史であれ、SFであれ、 描く世界は、絶えず難解で詩的映像を駆使した現代の寓話だ。 ワンシーンワンカットの長回し、あるいは生き物のようなカメラの移動をもって カラーとモノクロによる映像美を交差させながら、 たくみに水や火、風という元素を、 美的に、あるいは音響として随所にはめ込みながら、 廃墟や劇空間的な見せ方に彩りを添える…… どれもがタルコフスキー独自のスタイルに貫かれているといっていいだろう。 この唯一無二な映画観は、仮に誰かがその影響下にあろうが、 スタイルを表層的に模倣し踏襲しようが、そこに取って代われるものなどないのだ。